魔女サマが起こしてみた

文字数 2,420文字

 森には(ふゆ)(おとず)れ、しんしんと(ゆき)()っている。


 魔女は基本的(きほんてき)に、日中(にっちゅう)(くすり)研究(けんきゅう)没頭(ぼっとう)しているため、邪魔(じゃま)をしたくないレイモンドは(ひま)つぶしに、近所(きんじょ)(ねこ)(いえ)()ごすことが(おお)い。


 (ねこ)オススメの官能小説(かんのうしょうせつ)を、ソファに()そべりながら(とく)感慨(かんがい)もなく(なが)めていると、不意(ふい)(ねこ)が、ソファの(うし)ろに(まわ)()み、()もたれに(ひじ)をついて楽しそうに話しかけた。

ねー、レイ♪明日(あす)の朝、寝坊(ねぼう)してみな?
……は? なんで? 一刻(いっこく)も早く起床(きしょう)して一秒でも長く、魔女サマお手製(てせい)愛情(あいじょう)まみれのおいしいごはんをふたりっきりで堪能(たんのう)したいから絶対(ぜったい)ヤだけど??
まーまー、聞きなよ。


オレ、魔女ちゃんにこの(あいだ)(おし)えといてあげたんだよねー。(ゆめ)から(もど)ってこないオトコを、気持(きも)ちよ~く()こしてあげられちゃうほ・う・ほ・う☆

!!
――オレ、お(まえ)(こい)応援(おうえん)してるんだよ? レイはオレにとって、大切(たいせつ)存在(そんざい)だからさ
っ、(ねこ)……!! (ねこ)ってただのどうしようもないクズだと思ってたけど、いいとこも1ナノミクロンくらいはあったんだね!!
はっはっは、言うな~☆


……あのー、それでレイ? ()わりと言っちゃなんだけど、オレのお(ねが)い、聞いてもらってもいーかな……?

なになに? ボクにできることならなんでもするよ!
……今からムチでぶったたくから、『あぁん、もっとぉ♡』って(よろこ)んでくれない(ハァハァ)?
えっ、お(まえ)、そっちの()もあったの……?


()く……

 そして、翌日(よくじつ)


 レイモンドは自室(じしつ)のベッドでそわそわしながら、魔女の来訪(らいほう)()()がれるのだった。……昨日(きのう)のプレイを回想(かいそう)しつつ。

(フツーにビックリしたわ……。でもまあ、(ぎゃく)にドMの駄犬(だけん)調教(ちょうきょう)してやったけど! ボクに性的(せいてき)なことで優位(ゆうい)()とうなんて一万年早いよね! なんたってここに来る(まえ)、ボクは――)

(ここに来る(まえ)――……)

あの、レイ? 朝ごはんができたのだが……
 部屋(へや)(そと)から(ひび)く、魔女のノックで(われ)にかえったレイモンドは、()()()める。
(っ、いけない。集中集中(しゅうちゅうしゅうちゅう)!! とにかく、あの(あそ)びまくりな(ねこ)提案(ていあん)する手管(てくだ)なら、だいぶ期待(きたい)できる!!)
レイ、(はい)るぞ?


……()ているのか?

 遠慮(えんりょ)がちにドアが(ひら)き、魔女がおずおずと(はい)ってきた。


 レイモンドは必死(ひっし)で、()ていますアピールをする。

ムニャムニャ、モウ()ベラレナイヨォー((ぼう)
(こんな寝言(ねごと)(はっ)するひと、実在(じつざい)するんだな……)


(こま)ったな……。あ、そう()えばこの(まえ)……

()たー! さあ、魔女サマ!! 猫直伝(ねこじきでん)テクニックで、ボクを悩殺(のうさつ)してみせて!!)
 魔女はおもむろにレイモンドのベッド(よこ)へひざまずき、その(つや)めいたくちびるを、(ねむ)ったふりを(つづ)けるレイモンドの耳元(みみもと)()せる。


 かかる吐息(といき)に、レイモンドが(むね)高鳴(たかな)らせていると、刹那(せつな)――。

ぶ~~~~ん。
(あつ)()()(もと)(あらわ)れる、(れい)羽音(はおと)想起(そうき)に、本能的(ほんのうてき)怖気(おぞけ)(はし)る。
ひゃ……っ!!?
たまらず()()きたレイモンドの様子(ようす)に、魔女は目を(かがや)かせた。
おお、すごい。一瞬(いっしゅん)効果(こうか)があったな!
……えと、魔女サマ。おはよう……? なんかぞわってしたけど……。(いま)の、なに……?
()真似(まね)だ! 猫君(ねこくん)が、『(ねむ)ってるひとの耳元(みみもと)でぶ~~~~んって()うと、()が自分を(ねら)ってるって勘違(かんちが)いして、()()きちゃうんだよ~』って(おし)えてくれたんだ!!


猫君(ねこくん)博識(はくしき)だな!!

へえ~! そうなんだ!! それは本当(ほんとう)に……
……あンの……ッ、さわやか(けい)クズ~~~!!!!
? レ、レイ??
ちょっとごめん、魔女サマ!! (いま)からボク、()を3000(びき)ほど()()りにして、(ねこ)(いえ)()(はな)ってくるから!!


あいつの土下座拝(どげざおが)んで、せせら(わら)うまで絶対帰(ゼッタイかえ)ってこないから!!!

()ってろよ(ねこ)ォォ!! フィラリアになって()きつこうが、看病(かんびょう)一切(いっさい)しないからなぁあ!!
 たまたま手近(てぢか)にあった虫捕(むしと)(あみ)をひっつかみ、(もう)スピードで()()すレイモンド。


 静寂(せいじゃく)(おとず)れた(いえ)にひとり(のこ)された魔女は、ただ、こう()うだけで精一杯(せいいっぱい)であった。

……(いま)真冬(まふゆ)だぞ……?


()はそんなにいないんじゃないか……?

☆☆おわり☆☆
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登場人物紹介

魔女


 魔族と人間の間に生まれた女性。生まれつきその目に宿る強大な魔力を恐れられ、人間たちに迫害され、左目を失った。今は森の奥深くでひっそりと暮らしている。


 性格はちょっと天然だが、心があたたかい気遣い屋さん。

 読書がとてもすきで、むずかしい本ばかり読んでいる影響からか、口調は堅い。


 言葉も知らず森でさまよっていた幼い人間の子ども・レイモンドを放っておけず、拾って育てることにした。


 そして十年後、大人になったレイモンドが積極的にアプローチしてくるようになったが、魔女本人は恋愛にうとすぎるため、よくわからないまま、ぽえぽえっと同居を続けている。

レイモンド(養い子)


 十年前に森で魔女に拾われ、知識に恵まれた環境で育った人間の青年。愛称は“レイ”。一見クールで神秘的な容姿のイケメンだが、実際は魔女が愛しくて愛しくてたまらない情熱家で、よく暴走する。


 魔女に対しては人懐っこいわんこのような甘えん坊だが、その他の存在には基本的に無関心で、当たりさわりのない対応をすることが多い。ただ、近所の猫には気を許しているのか、彼の前では、本音である魔女へのヤンデレ要素たっぷりな発言を、引くほど口にしている。

近所の猫


 魔女とレイモンドが暮らす家の近所に住んでいる猫の獣人。結構な遊び人で、さわやかなクズとして辺りでは有名。


 獣耳だのしっぽだのいろいろなオプションがついているので、クズ発言をした際はそれらを、レイモンドによくひきちぎられそうになっている(『いやー、オレ、そーゆーときは脱兎もビックリの逃走能力があるから、レイに命ごと狩られそうになっても、改心する気とかまったくないんだよねー』 by 猫)。

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