第4章ー2 邂逅。そして脱出 「突然の出会い。これは永遠の友情になるわ」

文字数 5,428文字

 宇宙船アゲハの停留しているドッグに、ソウヤの搭乗するビンシー6が顕れた。ソウヤ機はエメラルドグリーンを基調とした人型兵器”エイシ”に対峙する。
 先の戦闘で傷ついた装甲が、ビンシー6の武骨さを、より際立たせていた。
 それとは対照的に、傷一つないエイシの機体は眩いばかりに輝いている。この機体は遥菜専用機のため、彼女のイメージカラーのエメラルドグリーンで塗装されている。
 ちなみに、このエイシの機体名は”ハルナ”で登録されている。
 それと琢磨と恵里佳専用のエイシも存在する。機体は宇宙船”アゲハ”の第一格納庫に積み込まれていて”タクマ”は蒼銀色を、”エリカ”は薄桜色を基調としている。
 琢磨が応接室から退出した後、ソウヤたち6人は、緊迫感溢れる情報交換会を何とか無難に済ませた。
 オセロット王国の必須アイテムである”ルーラーリング”と”コネクト”を貸してもらうことになった。
 ルーラーリングの調整ルームに、琢磨を除く全員が入った。恵梨佳がソウヤたち4人に対して、順番に調整作業を実施した。
 そこで、ソウヤと遥菜がケンカをしたのだった。
「なあ、なんでブレスレットなんだよ。別にカードとかでもイイんじゃないか?」
 恵梨佳から受け取った左右一対の細い腕輪を嵌めてから、ソウヤは質問した。
「ルーラーリングには、オリハルコン合金を使用しています。充分な性能を発揮させるには直接肌に触れている必要があります。ブレスレットが嫌なら、アンクレットもありますよ」
「オリハルコンが使われてんのかよ・・・」
 ソウヤの発言を聞き咎めたジヨウが尋ねる。
「知ってるのか? ソウヤ」
「えーっと・・・あー・・・」
「知ったか振りをするとは恥ずかしいぞ、ソウヤ」
「その通りだ。素直に間違いを認めるのも度量のうちだろ、ソウヤ」
「ソウヤが知らなくても仕方ないと思うな~。だから大丈夫だよ、ソウヤ」
 クロー、ジヨウ、レイファの3人は、ソウヤが知らないことを前提で、配慮のない台詞を投げつけた。
「なんで、お前らはオレが知らない前提なんだよ。意味わかんないぜ」
「知っているのかしら?」
 恵梨佳の疑問に、ソウヤは言い難そうな表情を浮かべ、投げやりに答える。
「ぐっ・・・あぁ・・・家に伝わってる内容だよ。イイか、決してオレが信じてる訳じゃないんだぜ。そこを間違えるなよ。・・・精神感応兵器オリハルコン・・・人の精神に感応する性質とオリハルコン同士が反応する性質を利用して、電子機器のない時代に、通信手段や兵器の遠隔操作をしたんだってよ。そして、オリハルコンを身に着けると、眼には見えない魔を視ることができんだと・・・」
「魔を視るだと??」
「ソウヤ~??」
「ソウヤよ。我は・・・前から貴様は可哀想な男だったと思っていた。だが、とうとう頭の中身まで可哀想なことになってしまったのか・・・」
「やはり、そうなのですか・・・」
 ジヨウ、クロー、レイファは愉しそうに笑い、恵梨佳は納得の声をあげ、遥菜は失笑を洩らす。そしてソウヤからは、苦渋が滲んでいた。
「家に・・・そう伝わってんだ。・・・だから言いたくなかったんだよ」
「その昔には、魔がいたのだ。我は信じるぞ、ソウヤ」
 笑いながらクローがソウヤをフォロー・・・ではなく揶揄した。
「だから、オレが信じてる訳じゃない・・・。話すんじゃなかったぜ」
「大シラン帝国なんて時代遅れの技術しかないから、知らなくても仕方ないわ」
 大きくタメ息を吐き、バカにしたよう遥菜の口調に、ソウヤの反発心が一気に燃え上がる。
「なんだと。ざけんなよ」
「そうねぇ? まず、エルオーガ軍にレーザービームが有効だと思っているわけ?」
「はあ? 違うっていうのかよ? テメーらだって幻影艦隊にレーザービームで応戦してたぜ」
「オセロット王国軍のレーザービームは、大シラン帝国軍のとは、まったくの別物だわ」
 ここから延々とソウヤと遥菜のいがみ合いが続いた。
 クローとレイファは茶々を淹れ、恵梨佳に命令された調理ロボットは文字通りに茶を入れ、全員に配膳した。
 その間も、ジヨウは議論の終着点を模索し、2人に提案を出し続けていた。
 ジヨウの模索が盛大に失敗した結果、ソウヤ機とハルナ機で、武器の性能を実際に比較してみることになったのだ。
 比較武器は、何故かビンシーのチェーンソーブレードとオセロット王国軍の黒刀となった。そして本来は刃を合わせるだけで良いのだが、人型兵器同士で手合わせすることになったのだ。
 ソウヤと遥菜がヒートアップした所為で、誰も異論を挟めず、止められなかった。
 アゲハ以外の宇宙船が停留していないドッグは閑散とし、2機の人型兵器が存分に戦闘できるスペースがある。だからといって、ドッグに生身でいたら、巻き添えになる。
 ジヨウたちは、アゲハのコンバットオペレーションルームで立合いを見学することになった。
 ソウヤはビンシーの手甲から高らかなモーター音と共にチェーンソーブレードを準備する。左足を半歩前にだし、大和流古式空手の”護身突き”の構えをとる。左腕で相手の攻撃を受け流し右突きで相手の顎を割る型である。
 それに対してハルナ機は、後ろ腰に佩いてある鞘から黒刀を抜き放つと、自然体で立つ。
 ソウヤの視線が、黒刀に吸い寄せられる。
 黒刀の刃が、闇の底から溢れだすような妖気に放ち、空間を歪ませている。そうソウヤには感じられた。
 実際は、黒刀の斥力が空気の流れを乱し、ドッグ内の人工重力を歪ませている。そのため、刀身近くの光が様々な方向に屈折しているのだ。
「・・・構えろよ。あとで、構えてなかったから、なんて言い訳されたくないぜ」
『このままでいいわ。言い訳なんてしないし。どうせアナタには、傷なんてつけられないわ』
「舐めてんのかよ」
『別に。事実を述べただけだわ』
 オセロット王国製の人型兵器と、あの女の生意気な口を叩き潰してやるぜ。
 ソウヤは相手の出方を覗う方針を変更し、先手を取ることにした。
 ソウヤ機がハルナ機との間合いを詰め、腰を落とす。あと3歩の距離で、チェーンソーブレードがエイシに届く。逆を返せば、3歩で黒刀の刃に身を晒す間合いになる。
「ジヨウ。開始の合図を頼むぜ」
『了解した。合図は、はじめ、とする。3秒後に開始の合図する。2人とも、いいな』
「いいぜ」
『構わないわ』
 沈黙の3秒。コクピット内にジヨウの声が響く。
『はじめ!』
「せいっやぁーー」
 ソウヤは、背中の機動エンジンのアフタバーナーを全開にする。
 間合いを詰めると動作と同時に、ソウヤは機動エンジンの方向調整を終えていたのだった。
 腰を落とした姿勢のまま、左のチェーンソーブレードをジャブのように突き出す。
 狙いはハルナ機の右肩口。左のチェーンソーブレードを突き刺すと同時に左足で床を捉え、反動を利用して左半身を置き去りにする。次に右チェーンソーブレードで、ハルナ機の左肩口を斬り裂く。
 遥菜の乗る人型兵器”エイシ”は両腕を失い、そこで立合いは終了する予定だった。
 そう、ソウヤの中では・・・。
 ソウヤ機が左のチェーンソーブレードを突き出した刹那、ハルナ機は黒刀を斬りあげ一閃で、ビンシー6の左腕が肘付近から切断する。まるで紙片を斬るかの如く。
 ビンシー6の左足が床面に接した。体勢を崩しながらも右腕のチェーンソーブレードは、ハルナ機が立っていた場所へと突き出される。
 しかし、ハルナ機の姿は、そこになかった。
 ハルナ機は左脚を引き、ビンシー6の右のチェーンソーブレードを躱していた。人型兵器でないかのような滑らかな動きで黒刀を上段で切り返し、ソウヤ機の右腕を肘から斬り落とす。
 反応速度、機体性能、武器性能。いずれもハルナ機が上回った結果である。
 ハルナ機のエイシは、滑らかな動きで黒刀を後ろ腰の鞘に納めたのだった。

 遥菜はビンシー6のコクピットが開きソウヤの無事な姿を確認すると、アゲハの第一格納庫にハルナ機を戻した。所定位置に格納されたエイシから遥菜が降りると、早速検査装置が簡易診断を始めた。被害はないから、整備は不要となるだろう。
 遥菜は艦内とコクピットを結ぶデッキの途中で、ぼんやりと整備機械の作業を眺めていた。
「どうしたのかしら?」
「恵梨ネー・・・戦闘って難しんだね。すっごく疲れたわ」
「そうね・・・模擬戦でも良い経験になるのでしょう。だからお父さまは、止めなかったのだと思いますよ」
「パパ、知っているの?」
「アゲハからエイシが出撃して、お父さまが・・・いえ、中の人が気付かないとでも? 終わったらコンバットオペレーションルームに皆を集めるようにと、指示されています」
「着替えていきたいから、先にコンバットオペレーションルームで初めていて・・・アタシちょっと時間がかかるかもしれないから・・・。それと、ありがとね。恵梨ネー」
 遥菜は、声をかけに来てくれた恵梨佳に礼を言って、アゲハの自分の部屋に戻った。
 部屋に備え付けのシャワーを浴びて身体を温めたが、未だに震えが止まらない。
 ビンシー6がハルナ機との間合いを詰め、腰を落とした瞬間。ただただ、怖かった。
 ただの人型兵器のはずなのに、ビンシー6からもの凄い圧力を感じた。
 体に力が入るのを防ぐために、エイシの操縦席を座席型から屹立型へと変形させる。そして眼を瞑り、背筋を伸ばす。足の裏に重力を感じ、自分の体の内部に意識を集中する。
 そうすると、よりロイヤルリングを通して遥菜にエイシの情報がクリアに伝わるのだ。
 遥菜の両手両足のロイヤルリングは、高純度の精神感応合金オリハルコンを用いたコードでエイシと繋がっている。ディスプレイを眼で視る以上の情報が、エイシから彼女の脳に・・・精神に直接流れ込んでくる。遥菜は、エイシの隅々まで精神を行き渡らせた。
 これでエイシは、自分の手足のように動作する状態になった。万全の体勢で迎え撃てる。
 落ち着いてから、再度ビンシー6を観察する。
 立合い開始前のビンシー6の立ち姿から、遥菜はソウヤ機が踏み込んでくると推測した。ただ、それ以外の攻撃にも反応できるよう精神を集中する。ソウヤ機が、どんな攻撃を仕掛けてきても対処可能だと、自信がもてた。
 しかし、まさか機動エンジンだけで飛び込んでくるとは、全く予想だにしていなかった。完璧に不意を突かれたのだが、機体性能と武器性能の差で、辛くも勝利をもぎ取った。
 思い出すと体の芯から冷え、震えが止まらない。
 シャワーの温度を2度上げ、水量も増やす。
 身体が温まり、漸く精神の安定を取り戻しつつある。
 アタシは軍人ではない。
 大シラン帝国軍の正パイロットに操縦で敵う訳はない。それは最初から理解していた。
 しかし、考えていた以上に差があった。
 オセロット王国軍の主力人型兵器”キセンシ”で戦っていたら、機体の右腕を肩口から斬り落とされていたに違いない。
 パパを護れる。一人前に戦える。・・・いかに自分が思い上がっていたかを教えられた。

 琢磨は1辺5メートル程の立方体ブロックを重力制御で浮遊させる。合計3つのブロックをアゲハの後部格納庫に運び込み、床のカタパルトに固定した。
 それぞれのブロックにオリハルコン合金を使用した特殊有線ケーブルを接続する。
 後部格納庫からアゲハの外に出て搬入口を閉じる。これで後部格納庫は、完全に隔離状態となった。
 アゲハ後部格納庫の搬入口の横にあるドアを開ける。気密エアロックに入り琢磨はコンバットオペレーションルームへと向かう。
 尊大で横柄な音が通路に響く。
 アゲハの翻訳機能を通し、ロイヤルリングで声として認識できる。
『ここは何処か?』
「・・・」
『すぐ近くに貴様が居るのは分かっている・・・たしか琢磨とかいうのだろ』
「・・・音声の切り替えをしててね。無視してた訳じゃないんだ。それに君なら分かるんじゃないかな。ここが何処かなんてさ」
 琢磨は歩きながら黒雷の開発シミュレーションや、他の作業を並行して実施していた。そのため、応じるのが遅れた・・・訳でなかった。正直、相手をするのが面倒だったのだ。
『宇宙船のようであるな』
「流石だね。君は、他の者達より感覚が鋭敏なようだ」
『だが、宇宙船に収納されてから、またもや良く見えなくなった。縛りつけるだけでなく、視界まで奪うとはな。つまらぬ真似をする。何とかするのだ。それと腹が減った』
「何ともしないし、自分の立場が理解できているのかな?」
『無論だとも。貴様らは余を害する気はないのであろう。さもなくば、脱出するのに荷物となる余らを運び入れたりはせぬ。置いていくなり、殺害していくなりすれば良いのだ』
「君が聡いのは知ってるんだよね。できれば協力をしてくれると有難いかな」
 琢磨は基本的に嘘をつかない。
 ただ、本当のことを言わないだけだった。
『誇り高きエルオーガ軍の将校が、貴様らなぞのような下賤の輩に、何故余が手を貸してやらねばならぬ。貴様らは』
「それは残念だね。情報提供してくれる気になってから、声をかけてくれないかな?」
『“マナ”の提供次第では、検討してやっても良いの・・・』
 ロイヤルリング経由でアゲハの”中の人”に命令し、通信を遮断した。
 琢磨には彼と違って忙しい。自由があるならば余とて忙しい、とでも言うかもしれないが・・・。これ以上、実のない会話に付き合えるほど琢磨には暇はなく、お人好しな性格でもない。
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