第3話
文字数 1,422文字
「あの日図書館で君と会ってから、僕の心は虚無感と焦燥感の行ったり来たりで胸が苦しいよ」
最近僕は、寝る前にいつも真っ暗な心の中で彼女にぼやく。もちろん、この虚無感もこの焦燥感も僕の人生の問題だから彼女は関係ないんだけど。
夏休みが明けて学校がはじまって、僕と彼女はあれから少しだけ仲良くなった。
例えば昔交換したきりになっていたラインがたまにやり取りを繰り返すようになり、休日に僕が図書館へ行ったときには閉館後に二人で公園に寄って少し話すようになったくらいには。
彼女はすごい。本当にそう思う。高い目標、なりたいもの、将来の希望に向かって突き進む様子はとても眩しかった。
――それに比べて……
彼女が眩しく見える度に僕はいつも卑屈な気持ちになるのだ。
だから受験が刻一刻と近づいていく彼女が焦っていく様子を見ていると、空っぽの僕は彼女との溝をまざまざと思い知らされ胸が苦しくなるのだった。
今日もまた僕は彼女と公園に来ている。
彼女と会う度に少しずつ辺りが暗くなるのが早まって、鈴虫の羽を鳴らした求愛の歌声も日に日に大きさを増している。
僕は今がずっと続けば良いのにと強く願った。
真夏の熱はまだ少しここに残っている。このまま、時が止まって欲しかった。
「それで、そっちはどうなの?」
彼女の言葉が僕に刺さる。それはいつも彼女に何度となく聞かれては適当に誤魔化していた質問だった。
――僕は……
「うん、この前書類出したよ。企業の返事待ちってとこかな」
「それこの前も聞いたよ。でも受験勉強もしてるんでしょ。1番の目標は?」
彼女は遠慮なく突っ込んでくる。
「えーと……」
言葉に窮してしまう。目が泳いでいる様子に彼女は少し困ったように言葉を変える。
「将来の夢とか?」
――僕は……
「ヒーロー……」
ふと思いついた言葉が口を突いて出てしまった。
僕は幼い頃から物語の主人公――ヒーローに憧れていた。明るくて、真っ直ぐで、そして人気者。
部活という軸を失った僕は、今やヒーローとは正反対の人間になってしまったな、と改めて思った。
いつの間にか僕の視線は手元に落ちていた。変なこと言ったね、と作り笑いをして彼女に顔を向けると、彼女は真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「今でも十分ヒーローになれてるよ」
彼女はそう言ってから、もう暗くなっちゃったねと別れを促した。
家に帰ってから僕は彼女の真意を考えて色々な思いが頭を巡る。
それは「彼女にとって僕がヒーロー」と言う意味だろうか、なんて喜んでみたり。それは「自分の人生は自分が主人公」なんていうようなよくある意味合いでしかないのだろうか、なんて気持ちを沈めてみたり。にやけたり真顔になったりと僕の表情筋は忙しく動いた。
馬鹿な運動のせいか顔が火照り、なんだか疲れたのでもう考えるのはやめて寝ようと風呂に入った。
風呂からあがってそのまま寝ようと電気を消す。ベッドに横たわりいつも通り彼女のことが頭を巡る。
「君との差は広がるばかりだ。僕はいつか君に相応しくなれるだろうか。焦りが増すばかりだ」
いつも通りに僕は真っ暗な心の中で彼女にぼやく。
その時、暗闇の中を携帯が短い音を奏でて緑の光を点滅させた。
なんだろうと思い携帯を開くとそこには――
まだ秋になりきれていない、かろうじて夏の夜に僕と君の焦燥は重なった。
最近僕は、寝る前にいつも真っ暗な心の中で彼女にぼやく。もちろん、この虚無感もこの焦燥感も僕の人生の問題だから彼女は関係ないんだけど。
夏休みが明けて学校がはじまって、僕と彼女はあれから少しだけ仲良くなった。
例えば昔交換したきりになっていたラインがたまにやり取りを繰り返すようになり、休日に僕が図書館へ行ったときには閉館後に二人で公園に寄って少し話すようになったくらいには。
彼女はすごい。本当にそう思う。高い目標、なりたいもの、将来の希望に向かって突き進む様子はとても眩しかった。
――それに比べて……
彼女が眩しく見える度に僕はいつも卑屈な気持ちになるのだ。
だから受験が刻一刻と近づいていく彼女が焦っていく様子を見ていると、空っぽの僕は彼女との溝をまざまざと思い知らされ胸が苦しくなるのだった。
今日もまた僕は彼女と公園に来ている。
彼女と会う度に少しずつ辺りが暗くなるのが早まって、鈴虫の羽を鳴らした求愛の歌声も日に日に大きさを増している。
僕は今がずっと続けば良いのにと強く願った。
真夏の熱はまだ少しここに残っている。このまま、時が止まって欲しかった。
「それで、そっちはどうなの?」
彼女の言葉が僕に刺さる。それはいつも彼女に何度となく聞かれては適当に誤魔化していた質問だった。
――僕は……
「うん、この前書類出したよ。企業の返事待ちってとこかな」
「それこの前も聞いたよ。でも受験勉強もしてるんでしょ。1番の目標は?」
彼女は遠慮なく突っ込んでくる。
「えーと……」
言葉に窮してしまう。目が泳いでいる様子に彼女は少し困ったように言葉を変える。
「将来の夢とか?」
――僕は……
「ヒーロー……」
ふと思いついた言葉が口を突いて出てしまった。
僕は幼い頃から物語の主人公――ヒーローに憧れていた。明るくて、真っ直ぐで、そして人気者。
部活という軸を失った僕は、今やヒーローとは正反対の人間になってしまったな、と改めて思った。
いつの間にか僕の視線は手元に落ちていた。変なこと言ったね、と作り笑いをして彼女に顔を向けると、彼女は真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「今でも十分ヒーローになれてるよ」
彼女はそう言ってから、もう暗くなっちゃったねと別れを促した。
家に帰ってから僕は彼女の真意を考えて色々な思いが頭を巡る。
それは「彼女にとって僕がヒーロー」と言う意味だろうか、なんて喜んでみたり。それは「自分の人生は自分が主人公」なんていうようなよくある意味合いでしかないのだろうか、なんて気持ちを沈めてみたり。にやけたり真顔になったりと僕の表情筋は忙しく動いた。
馬鹿な運動のせいか顔が火照り、なんだか疲れたのでもう考えるのはやめて寝ようと風呂に入った。
風呂からあがってそのまま寝ようと電気を消す。ベッドに横たわりいつも通り彼女のことが頭を巡る。
「君との差は広がるばかりだ。僕はいつか君に相応しくなれるだろうか。焦りが増すばかりだ」
いつも通りに僕は真っ暗な心の中で彼女にぼやく。
その時、暗闇の中を携帯が短い音を奏でて緑の光を点滅させた。
なんだろうと思い携帯を開くとそこには――
まだ秋になりきれていない、かろうじて夏の夜に僕と君の焦燥は重なった。