「さ、汚い所だけど遠慮すんなよ」
リック少年は、命の恩人達を明るく自宅へと招いた。
その構成は二階建てで、狭い敷地ながらも背高い。角石積みの壁面に、長細い窓枠。柱や鴨居には装飾意匠が彫られている。
ゴシック建築様式を気取っているものの、カリナ達の目には全体的に安っぽく映った。経年劣化の
罅割れや
擦り
減りも目立つ。
「随分といい所に住んでるじゃないか」
カリナが露骨に
茶化す。
しかし、少年はあっけらかんと答えた。
「ただの安アパートだよ」
「……だろうさ」
静かに苦笑する。
どうやら少年は素直過ぎるようだ。言葉に含まれた
棘を感じ取っていない。
カリナにしても、別に険悪な展開を期待していたわけではなかった。単に皮肉屋の
性分だ。
「オイラ、ちょっと先に行くぜ。お客さんが来たのを、母ちゃんに報告しなきゃいけないから」
リックは一足先に建物内へと駆け入った。歓迎するのが待ちきれないといった様子だ。
「そんな御気遣いをなさらなくても──」謙虚な社交辞令を返すカーミラだったが、建物内へと一歩踏み入った途端、思わず
呆気に固まった「──あらまあ、本当に汚ないのね」
意図せず無遠慮な浮き世離れの頭を、カリナが軽く
小突いて
窘める。
「う……これは」
常に礼節を
弁えているメアリーも、さすがに言葉を失っていた。思わずハンカチで口元を
覆う。
「そんなに
臭うかよ」
「いや、そうではありませんが……しかし、失礼は
重々自覚しながらも、つい……」
「温室育ちのオマエ達では、確かに無理からぬだろうな。潔癖な環境で暮らしていたが
故の拒否反応ってところか」
黒い野良は優越感ながらに
柘榴を
啜った。
両者とは対照的に、こうした劣悪環境には慣れている。
彼女達が観察するロビーは、確かに
見窄らしかった。あくまでも形式的な空間に過ぎないのだろう。
中央に据え構えているのは、年季の
入った登り階段。粗末な
樫製で、軽く足を乗せるだけで鳴き
軋んだ。
「はたして強度も疑わしいものだな」
カリナが
苦笑う。
階段を
避け
囲うように、廊下が
コの字に伸びていた。奥へと続く先には、これまた
安板造りの扉が
連なっている。各部屋の玄関だ。
「此処は物置かしら?」
カーミラがそう判断したのは、別に嫌味からではない。ガラクタにも見える資材の山が、廊下の
端で共同的に
積み
崩れていたからだ。
「これも住人の家財だろうよ……一応な」
「さっきから
耳障りな
喧噪が、ひっきりなしに漏れてくるのだけれど……何処の部屋かしら?」
「何処も
彼処も……さ。庶民層の安アパートは、こんなものさ」
「まるで下品な
盛り場ね」カーミラが
呆れ気味に漏らす。初体験した庶民の生活環境は、あまりに未知な別世界であった。「それにしてもギャップが
凄いわね。外観は申し分ないのだけれど」
「この
ロンドンそのものじゃないかよ」
カリナの
嘲りに、カーミラの表情が不快に曇る。
顔を
背けた皮肉屋は、
微々と肩を震わせていた。
含笑いを噛み殺しているのは明らかだ。
「何やってんだ? 早くおいでよ?」
階上の
手摺りから少年が顔を
覗かせる。
「どうやら二階がアイツの
住処らしいな」
迷わず階段を踏み出すカリナに、カーミラとメアリーが
戸惑いつつ続いた。
リック家族の部屋は、二階の一番奥になる。
カリナは声を押し殺し、カーミラへと語り掛けた。
「改めて招き入れられたのは、偶然ながらも
幸いだな」
「ええ。古来より〈吸血鬼〉は、
生者の家へ入る
際に
家人の許可を最初に得なければならない──それが〈魔〉としての
理ですものね」
「ま、以降はフリーパスだがな」
斯くして立ち入った部屋は、実に質素な印象であった。
薄いコンクリートを基盤とした
心許ない
内壁。重厚な造りは外観に限った話のようだ。天井で
塵被りとなった
笠付き電灯は、おそらく、あまり使われていない。
それを推察したカーミラが、少年へと疑問を向ける。
「節電中なの?」
「いいや。けど、普段は
蝋燭かランタンさ」
古呆けたランタンを
灯す作業ながらに、リック少年は答えた。
「電気ぐらい使えばいいのに……。供給されているでしょう?」
電力供給は、カーミラが掲げる共存政策の一環である。
大時計塔を改装利用した風力発電だ。それを旧暦遺物たる電線を
介して、ロンドン中へと供給している。
「まだまだ全然、電力が弱過ぎるんだよ。実用的な供給力じゃない。だから、冷蔵庫とかを優先的にしてるのさ。貴重な食べ物が腐っちまう方が痛手だからね」
「……そう」
少女領主は消沈気味に
結び、それ以上は会話を広げなかった。
いや、広げられなかった──
傍目のカリナは、そう
看破する。
(リックが提示したのは実状報告に過ぎない。それでもコイツには、
痛恨の
一矢だっただろう──失策の再自覚に
他ならないからな。
白木の
杭で心臓を
貫くよりも効果的な殺し方だ)
同情は両者に対して等しく
涌いた。
が、
徒に介入する気も無い。
(答えを見出すのは、結局、本人次第だ)
達観的持論に割り切り、会話の
手綱を握る。
「オマエ、家族は?」
油芯の寿命が限界に近いのか、リック少年は作業集中の片手間に答えた。
「オイラと母ちゃんの二人暮らしさ」
「父親は?」
「オイラが小さい時に殺されたらしい。だから、顔も知らないや」
その抑揚には、特に
感慨も感じられない。思い出すら無いのだから無理からぬ。
「デッドに……か?」
「ううん。吸血鬼にさ」
「っ!」
少年の独白に衝撃を受けるカーミラとメアリー!
それは
自責や罪悪感に近い感覚であった。
少年に他意があったわけではない。単に〝事実〟を示しただけだ。
それを理解していても、何故か後ろめたかった。
一方で、カリナは
斜に構えた態度を
飾る。
「吸血鬼共の
癇にでも
障ったかよ?」
「さあね。けど、特に理由なんて無かったかもな。アイツ等にとっちゃあ、オイラ達なんて
所詮はオモチャなんだろうしさ」
カーミラとメアリーの脳裏には、先程の末端達が思い浮かんでいた。
(ああした連中は、もっと以前から横暴を振る舞っていたのかしら)
歯痒い
沈思に暗い瞳を落とすカーミラ。
そうした反応の
機微を、カリナは見逃さなかった。
「では、家計は
母君とそなたが?」
メアリー一世の
訊い
掛けに、手を休めたリックが苦笑を返す。
「なんか変な呼び方だなあ。ま、いいけど。母ちゃんは働けないから、オイラが
稼いでる」
「そなたが? 一人でか?」
「ああ。母ちゃん、病気で寝たきりなんだ。それでオイラが……さ」
「なんと、子供の身で……」思わず強まる
憐れみ。「して、仕事は? 子供の身では、そうそう見つからぬのではないか?」
「基本、
日雇い
稼ぎ。仕事選ばずの使い捨てなら、結構あるんだぜ」と、それまで楽観的口調だったリックは神妙に声を押し殺した。「あんまり大きな声じゃ言えないけど、ちょっとヤバめの仕事とかもさ。中身不問の物品受け渡しに、
墓暴きの手伝いとか……母ちゃんには内緒だぜ?」
一瞬、メアリーの表情が嫌悪感を呑む。王室育ちの厳格な
性分故であった。
しかし、改めて実状を噛み締めると、気持ちを切り替えざる得ない。
(いや、そこは不問とせねばなるまい。人生経験未熟な少年が家庭の柱と奮闘するは、
止むに
止まれぬ事情によるもの──ともすれば、仕方あるまい。そもそも、そうした劣悪な環境は、我等〝支配層〟のせいなのだ。責められるはずもない)
小休止を終えて作業再開するリックに、またもカリナが会話を
誘う。
「
更には配給の受け取りに、
闇市への買い出し……か? オマエも大変だな」
「まあね。けど、慣れたよ」ようやく
息吹いた
油灯を手に、少年は別室への扉に客人を招いた。「さ、こっちの部屋だよ。母ちゃんに紹介するから」
通された部屋は、
然して変わらぬ貧相さであった。
ただし、個室
故か
更に
狭苦しい。それこそ〝物置〟と錯覚できる。
換気も
儘ならないのか、
鼻腔に届く空気も乾き
濁っていた。曇った
窓硝子寄りにベッドが
据えられている。
そこに寝たきりとなっているのが、少年の母であった。
リックは母親へと〝友人〟を紹介する。その抑揚は誇らしげに自慢するかのように明るい。
「母ちゃん、紹介するよ! こっちがカリナ! 前に話しただろ? オイラを救けてくれたって……」
「別に救けたわけじゃない。ただの
退屈凌ぎに、オマエという
オマケが付いてきただけの事だ」
「チェ、素直じゃないなあ」不服そうに口を
尖らせながらも、リックは嬉しそうだった。「んで、こっちの二人が……えっと……」
「……………………」
いざ紹介という段階になって、少年は手際の悪さを思い起こす。新しい友人達の名前を聞いてなかった事を。
しどろもどろになる少年へと助け船を出したのは、カリナの
悪戯心であった。
「〝マリカル〟と〝リャム〟だ」
「ちょ……っ?」「カ……カリナ殿?」
「ちゃんと
理に
則ってアナグラム名だ。悪くは……プッ……あるまい」
寝耳に水とばかりに
狼狽える二人を見て、
黒野良は含み笑いを噛み殺す。
そんな
戯れの一幕へ
半身を起こし、少年の母が挨拶を向けた。
「これはこれは、こんな汚い所へわざわざ……。それに、カリナ様には息子が大恩を受けまして、どのようにして恩返しをしたら良いものやら…………」
瞬時に働くカリナの洞察眼──
身体を引きずるような動作から、かなり重く病んでいる。
「じゃあ、おとなしく
鼾でも
掻いてろよ」
一転して放つは、あまりに冷た過ぎる
言い
種。
それまで友好的だったリックも、これには
憤慨を
露にした!
「な……なんて事を言うんだ! いくらカリナでも、母ちゃんをバカにするのは許さないぞ!」
「カリナ殿、いまのは
流石に
非礼過ぎますぞ!」
どうやらメアリーも同感のようだ。
それを見た
生来の憎まれ役は、少しだけ安心した。
だからこそ、表情ひとつ変えずに続けられるというものだ。
「無理した社交辞令など
鬱陶しいだけだ。
煩わしいのは好かんのさ」
突き放すように吐き捨てると、
黒外套は一足先に寝室を出た。
「……カリナ」
扉の向こう側へと
靡き消える黒波を、カーミラは悲しそうに見つめる。
一方で、少年の怒りは収まりそうもなかった。
「こ……のっ!」
後追いで殴り掛からんばかりに憤る!
その腕を
掴んで制止したのは、
他ならぬ母親であった。
温厚な表情は息子に反して怒りになく、ただ
穏やかに優しい。
刺々しい態度の裏に
潜む真意を
汲めたのは、病を
煩う母親当人とカーミラ・カルンスタインだけであった。
雑多に小汚いダイニング。使い古された鍋やフライパンが、シンクの貯め水に積み重なっている。樫製の円卓にシミと化しているのは、質素な食事の
滓だろう。それらの汚さは、日々
紡がれた
生の
痕跡。
辛うじての配電によって機能している冷蔵庫は、しかし、内側を覗くまでもなく
空いているはずだ。
家財道具は
悉く
埃と汚れにまぶされていた。
病に
伏せた母と子供の家庭では、とてもこまめな掃除までは行き届かないようだ。
卓上へと置いた
燭台がゆらゆらと灯りを
息吹き、暗い室内に無数の
陽炎を踊らせる。熱に溶ける
蝋の
臭さが鈍く
鼻腔を刺激した。
寂しい静寂の中で、カリナは頬杖に座る。
「長くはない……か」
独り黙想へと
耽り、
憂いて呟いた。
母親の方は自覚があるようにも
窺えたが、少年は知る
由も無いだろう。いずれ訪れるかもしれない〝
忌避したい可能性〟に対して、それなりの覚悟があるだけだ。
無垢な瞳でレマリアが問う。
「おばちゃん、しんじゃうの?」
「ああ、そう長くはない」
優しく子供の髪を撫でてやるのは、自身への
慰めの
転嫁であろうか。
或いは、またひとつ
胸中へ刻まれた
虚しさからの
逃避かもしれない。
「なんで?」
「おそらく原因は栄養失調辺りだろうが、それはあくまでも引き金に過ぎんだろう。それによって抵抗力が慢性的に弱まり、内在する
病が表層化した……といったところか」
「なんのびょーき?」
「さあな、私は医者じゃない」
「それって、イタいイタい?」
「……さあな」
痛いとすれば〝心〟だ。
息子を置いて
逝く母親の痛み──たった一人の母を失う少年の痛み──そして、カリナ自身の無力感を
伴う痛み。
「リック、かあいそうね?」
「……そうだな」
レマリアは、保護者の脚へコロンと頭を預けた。
事態など理解していない。
ただ何となしに甘えたくなったようだ。
親指を吸いながら自分を
慕う子供を、若き母性が優しく撫でてやる。
はたして自分には、この子との
別離を受け入れられるものだろうか──そんな寂しい想いを
抱きつつ。
静かに扉が
軋み開いた。
カーミラだ。気配で分かる。
「お母様、寝たわ」
「そうか」
「彼、相当怒っていたわよ?」
「……そうか」
「お母様が
懇々と
宥めてはいたけれど……ね」
「構わん。別に誰からも好かれようと思った事など無い」
あまりにも寂しい孤高──カーミラは、心優しい嫌われ者が
愛しくなる。
沸き立つ衝動に気持ちを
委ね、背中からカリナを抱きしめていた。
「それは、わたしもなの?」
甘い吐息は〈
魅了〉を
嗅がせるかのように
囁く。
「……そうだ」
緩やかに首元へと
絡まる白い腕に触れ、カリナは押し殺した感情に呟いた。
「つれない事を言うのね」
「私にはレマリアがいる。コイツがいれば、それでいい」
カリナが自己愛に撫でる
組脚を、カーミラは想いを含んだ
眼差しに盗み見ていた。
(でもね、いつかは
貴女も別れなければいけないのよ……カリナ・ノヴェール)
抱擁に
重なる少女達の影が、
慈しみと寂しさを分かち合う。
と、不意に窓が
朱を吠えた!
静寂を破ったのは、明らかに異常事態の発現!
「何だ!」
咄嗟に席を立ち上がるカリナ!
窓へと駆け寄って外の様子を
窺うと、
灼熱の
舌が街を
蹂躙していた!
「いったい何事なの?」
背後から覗くカーミラにも、困惑の色が浮かんでいる。
「カリナ殿! カー……マリカル様!」血相を変えたメアリー一世が、隣の部屋から飛び込んで来た。リックも一緒だ。「何が起こったのですか?」
狼狽えるメアリーへ、カリナが
唇噛みに返す。
「知るかよ。だが、ただの火災じゃないようだ」
カリナが
顎で
指し
示す先には、炎の街路を歩き進む
幽鬼的な群衆の姿!
信じ
難い光景に、カーミラは驚愕の声を上げた。
「まさかデッドが?」
「いや、違うな。奴等の手を見てみろよ」
各人の手には、剣や
鎌などの簡易的な武装が握られている。
彼等は
それを振るい、逃げ惑う人々を
虐殺していった。
「デッドには道具を扱うだけの知恵や記憶は無い」
「じゃあ、
アレは何なのかしら? まさか他国怪物による侵攻?」
「さあな。しかし〝死人〟には変わりないようだ」
「どうして断言できるの?」
「自我損失・
倦怠的動作・損傷不感──〈
死人返り〉としての主要条件は全て
備えている」
正直、カリナには心当たりが無いわけでもない。
欧州圏の
概念だけに
特化しているカーミラ達は
疎いだろうが、
奇しくも自分はハイチのブードゥー教には多少詳しくなっていた──不本意だが、あの
下衆のせいで。
(おそらく〈ゾンビ〉か……)
アレが〈デッド〉でないならば、
十中八九、間違いないだろう。
類似的特徴からは、それしか思い浮かばない。
一瞬、ゲデの暗躍かとも考えた。
だが、それは有り得ない話だ。
あの
狡賢い
口八丁が、
表舞台で反乱を仕掛けるはずもない。
そんな面倒を
敷くぐらいなら、誰かをけしかけて
漁夫の
利を狙う──そういう
小賢しい奴だ。
「数にして二〇体程度かしら?」
「いや、六〇体はいるだろうよ」
「それって見た感じより多過ぎなくって?」
「視覚認識の情報よりも、最低限二倍~三倍程度は見積もれよ。目に見える範囲だけが総てではない。初歩的な鉄則だ」
意思持たぬ集団殺人鬼は、次々と
無益な
虐殺を繰り返していた。回る火の手が怯え隠れる
兎を
燻り出し、殺戮人形の
群へと追い込む。
赤子を抱いた母親が、背中から
鉈で斬り殺された。我が子を抱え
蹲まる
亡骸──泣きじゃくる
赤子──その泣き声も
程なくして
途絶える。
階下の惨劇を、カリナは
睨み続けた!
沸々と
芽生える激情!
そして、意を決する!
「いずれにせよ、
看過はできまいよ」
颯爽と
黒外套を
翻す。
「行くの?」
察したカーミラの
訊いに、
憮然とした不敵が答えた。
「勘違いするな。ただの
暇潰しだ」
「そう……じゃあ、わたしも
暇潰しかしらね」
愛用の
茨鞭を手に、
白外套が並び立つ。
「勝手にしろ」
静かな戦意に染まる二人の
吸血姫。
それに触発されたメアリー一世も、
即座に加勢の意を示す。
「では、
私も!」
「いや、オマエは此処へ残れ」
「カリナ殿?」
「万ヶ一……という事もあるやもしれん。不測の事態が起きたら、オマエが守ってやれ」
言い残して
歩を刻み出す。
その時、
堪えきれずに声を掛けてきた者がいた。
それまで
蚊帳の
外だったリックである。
「あ、カ……カリナ!」
「何だ?」
「そ……その、さっきは…………」
そこまで口にしながらも、それ以上は言葉が
紡げなかった。
後悔を抱く少年が
心苦しげに視線を落とす。
仲直りをしようと自分へ言い聞かせていた──にも関わらず、肝心な時に勇気を
奮えない。弱さへの自己嫌悪と、もどかしさ。
カリナは少年の
躊躇を肩越しに見つめていた。
そして、やがて静かな口調に
命ずる。
「オマエは母親の
側にいてやれ」
「え?」
「余計な心配を
抱かせぬように、オマエが不安を
払拭するんだ。できるな?」
「う……うん!」
決意を込めて、力強く返事をする。
その
気負った表情を見ると、カリナは薄く
微笑んだ。
少年は思い出す──初めて彼女と出会った時を。
いまのカリナの表情は、あの時と同じものであった。
柘榴を分け与えてくれた、あの
瞬間と……。
だからこそ、少年は
悟った──
肝心の言葉は
交わせなかったものの、自分とカリナは
心通じあったのだ……と。
「さて、
足手纏いにはなってくれるなよ」
「あら、それはわたしではなくってよ?」
見送る
戦姫達の後ろ姿は、美しくも
凛々しい。