冬来たりなば
文字数 2,132文字
湖の底の城の中、少女は独 り吐息をついた。
テーブルの上の水晶玉は、花の咲き乱れ蝶 の舞う、湖のほとりを映している。この水晶は夫のルンフェの持ち物だ。
シルトは自分の幼い頃を想い出す。いつものように同じ村に住む子供たちにいじめられていた時だった。見知らぬ大人がそれを見とがめ、シルトを救 けてくれたのだった。
*子供たち
わあ! うるさい大人が来たぞ! 知らない顔だぞ! きっと魔物だ! 逃げろ! 逃げろ~!!
……母は、わたしの生まれる時にお産が重くて死んでしまって……だからわたしは独りなんです。妖精にも、人間にもなれず、どちらにとっても厄介者 で……。今はこの村の教会で養われているんですが、でもわたしは知ってるんです。陰 でみんながわたしを「異形」と呼んでいるって……
そうだ。申し遅れたが我が名はルンフェ、あの湖の主で水神 だ。湖の底の城に独りっきりで棲 んでいる。我もお前も、独りっきりが淋しいのはどうやらお互い様らしい。どうだシルト、お前十八になって大人になったら、我のところに嫁に来ないか?
もちろん当時の幼いシルトは、その話を本気にしてはいなかった。通りすがりの心優しい青年が、シルトの身の上を哀れんでついてくれた、甘い嘘 だと思っていたのだ。
……それが本当だと知った十八の時の驚きと喜び、まだありありと胸に浮かぶわ……。でもまさかこんなに早く、逢えない日々が訪れるなんて……。
……ああ! もう
……そうだな……体を温めるのに、まずは人肌の
しかし初めての
こうして二人が結ばれて、初めての冬は終わりを告げた。
湖底の城にもようやく春が訪れて、冬眠を終えた湖の主の
城の窓から見える水中、小魚がつんと窓をつついて「お熱いこと!」とひやかしているようだった。(了)