第3話 屋上に座る女2
文字数 1,607文字
「そこから何か見えるんですか」
のんびりとした調子でのんのが女に聞く。
「もうすぐ夕日が見えるかな。なんで?」
「えっと、なんでそこに座ってるのかなって思って」
「別に景色見たくて座ってるわけじゃないんだけど」
「あら、もったいない。そろそろ夕焼けが出るころでしょ。あたしも隣に座って見ていい?」
そう言いながら、のんのがそっと右手でゴンドラを止めるようにオペレーターに合図を送ると屋上まであと2メートルほどの位置にゴンドラは止まった。
「ホントにあんた変な子ね。いくつ?」
「24」
「へえ、タメじゃん。名前は?」
「のんの。日暮のんの。あなたは?」
「かれん」
「可愛い名前! どんな字?」
「平仮名だよ」
「いいなあ、可愛い名前」
「あんたの名前だってかわいいじゃん。なんかあんたらしい」
「えーっ、もっとこう『キリッ』とした名前がよかったなあ」
「いや、逆に似合わないし」
そう言いながら、顔を見合わせてふたりで笑った。
そのころビルの下は大変な騒ぎになっていた。ビルの屋上の自殺志願の女を助けに宇宙少女ソラがゴンドラに乗って救助に行ったという「つぶやき」が瞬く間に拡散され、「のあ」の私設ファンクラブやら子供たちがどんどんビルを取り囲んでゆく。
「おいおい、どうなってんだ」
生活安全課の山根巡査部長は交通整理に追われて愚痴をこぼしていると、やっと応援のパトカーなどが大勢駆けつけてきて山根は交通整理から解放された。
「おい、山根。あれはなんだ」
と、おっとり刀で駆けつけた生活安全課の倉橋課長がゴンドラの上のコスプレ娘を見ながら山根巡査部長に声をかけた。
「あっ、課長。お疲れさまです」
「なにをてこずってるんだ。日暮はどうした。あのゴンドラに乗ってる変なのはなんだ」
「あれが、その、日暮警部補であります」
「マジか……」
倉橋課長はゴンドラを見上げながらしばらく絶句したのだった。
「おい山根、テレビ局とかは来てないよな」
気を取り直した倉橋課長が辺りを見回しながら山根巡査部長にいう。
「どうですかねえ。人が多すぎて」
「いいか、もしテレビがいたら人道上の問題とかなんとか言って、絶対に撮影させるな。特に日暮の映像を撮られないようにしろ。俺の監督責任が問われかねん」
「いや、課長。もう手遅れです。観衆がみんな携帯で動画に撮ってあちこちに投稿しているみたいで、この群衆はそれを見た人たちみたいです。たぶんもう夕方のテレビに出るんじゃないですか」
再び絶句した倉橋課長であった。
「ねえ、かれんちゃん。いつもそんな綺麗なドレス着てるの?」
「今から仕事だったんだけど、なんか屋上に昇りたくなっちゃってさ」
「空、綺麗だもんね」
「いや、そうじゃなくって。もうあんたには敵わないわ」
「そう? じゃあなんで昇ったの?」
「別に飛び降りるつもりはなかったんだけどね。ここに座ってたらなんか大騒ぎになっちゃってさ。『やめなさい』って言われたから、つい反射的に『近づいたら飛び降りるよ』って言っちゃって、引っ込みがつかなくなってんのさ」
「わかるっ! そういうときあるよね」
「わかる……の?」
「ダメだって言われると、よけいにしたくなっちゃうでしょ?」
「なんか違う気がするんですけど。じゃあ、そのカッコもそうなの?」
「これは……ソラが好きだから」
「わざとやってるのかって思ったよ」
「職場じゃ誰もわかってくれないんだけどね」
「うん、あたしも恥ずかしくてしないわ、そのカッコ」
「えー、かっこいいでしょ」
「まあ、あんたは可愛いから似合ってるとは思うけどさ。24の女がするとちょっと痛いよ、普通は。でも、わかったわ。それがあんたらしいんだね」
「あたしらしい?」
「うん、あんたらしいと思う。いいよ、それ」
「ありがと。そっち行っていい?」
「負けたよ。いいよ、おいで」
のんのが下へ向かって合図を送りゴンドラが屋上に近づくと、のんのは屋上に飛び移りかれんと並んで一緒に屋上に座っただった。
のんびりとした調子でのんのが女に聞く。
「もうすぐ夕日が見えるかな。なんで?」
「えっと、なんでそこに座ってるのかなって思って」
「別に景色見たくて座ってるわけじゃないんだけど」
「あら、もったいない。そろそろ夕焼けが出るころでしょ。あたしも隣に座って見ていい?」
そう言いながら、のんのがそっと右手でゴンドラを止めるようにオペレーターに合図を送ると屋上まであと2メートルほどの位置にゴンドラは止まった。
「ホントにあんた変な子ね。いくつ?」
「24」
「へえ、タメじゃん。名前は?」
「のんの。日暮のんの。あなたは?」
「かれん」
「可愛い名前! どんな字?」
「平仮名だよ」
「いいなあ、可愛い名前」
「あんたの名前だってかわいいじゃん。なんかあんたらしい」
「えーっ、もっとこう『キリッ』とした名前がよかったなあ」
「いや、逆に似合わないし」
そう言いながら、顔を見合わせてふたりで笑った。
そのころビルの下は大変な騒ぎになっていた。ビルの屋上の自殺志願の女を助けに宇宙少女ソラがゴンドラに乗って救助に行ったという「つぶやき」が瞬く間に拡散され、「のあ」の私設ファンクラブやら子供たちがどんどんビルを取り囲んでゆく。
「おいおい、どうなってんだ」
生活安全課の山根巡査部長は交通整理に追われて愚痴をこぼしていると、やっと応援のパトカーなどが大勢駆けつけてきて山根は交通整理から解放された。
「おい、山根。あれはなんだ」
と、おっとり刀で駆けつけた生活安全課の倉橋課長がゴンドラの上のコスプレ娘を見ながら山根巡査部長に声をかけた。
「あっ、課長。お疲れさまです」
「なにをてこずってるんだ。日暮はどうした。あのゴンドラに乗ってる変なのはなんだ」
「あれが、その、日暮警部補であります」
「マジか……」
倉橋課長はゴンドラを見上げながらしばらく絶句したのだった。
「おい山根、テレビ局とかは来てないよな」
気を取り直した倉橋課長が辺りを見回しながら山根巡査部長にいう。
「どうですかねえ。人が多すぎて」
「いいか、もしテレビがいたら人道上の問題とかなんとか言って、絶対に撮影させるな。特に日暮の映像を撮られないようにしろ。俺の監督責任が問われかねん」
「いや、課長。もう手遅れです。観衆がみんな携帯で動画に撮ってあちこちに投稿しているみたいで、この群衆はそれを見た人たちみたいです。たぶんもう夕方のテレビに出るんじゃないですか」
再び絶句した倉橋課長であった。
「ねえ、かれんちゃん。いつもそんな綺麗なドレス着てるの?」
「今から仕事だったんだけど、なんか屋上に昇りたくなっちゃってさ」
「空、綺麗だもんね」
「いや、そうじゃなくって。もうあんたには敵わないわ」
「そう? じゃあなんで昇ったの?」
「別に飛び降りるつもりはなかったんだけどね。ここに座ってたらなんか大騒ぎになっちゃってさ。『やめなさい』って言われたから、つい反射的に『近づいたら飛び降りるよ』って言っちゃって、引っ込みがつかなくなってんのさ」
「わかるっ! そういうときあるよね」
「わかる……の?」
「ダメだって言われると、よけいにしたくなっちゃうでしょ?」
「なんか違う気がするんですけど。じゃあ、そのカッコもそうなの?」
「これは……ソラが好きだから」
「わざとやってるのかって思ったよ」
「職場じゃ誰もわかってくれないんだけどね」
「うん、あたしも恥ずかしくてしないわ、そのカッコ」
「えー、かっこいいでしょ」
「まあ、あんたは可愛いから似合ってるとは思うけどさ。24の女がするとちょっと痛いよ、普通は。でも、わかったわ。それがあんたらしいんだね」
「あたしらしい?」
「うん、あんたらしいと思う。いいよ、それ」
「ありがと。そっち行っていい?」
「負けたよ。いいよ、おいで」
のんのが下へ向かって合図を送りゴンドラが屋上に近づくと、のんのは屋上に飛び移りかれんと並んで一緒に屋上に座っただった。