八 捜査協力
文字数 2,276文字
十一月二十七日、日曜、午前十時すぎ。
与田が長野中央署刑事課に現れた。
「与田さん!警護を引きあげさせたのは、警護指揮していた生活安全課の巡査部長でした。
巡査部長の妻子を誘拐して、巡査部長に、脅迫状を与田さんへ届けるよう指示した者がいました。誘拐された妻子は殺害されたようです。現在捜査中です・・・」
間霜刑事は林巡査部長に起った事件を説明した。現在、木島刑事と山本刑事が誘拐殺人事件の捜査に当たっている。
「与田さん、知っている事を教えてください。何が起ってるんです?
与田さんは、誰が林巡査部長の妻子を誘拐して、与田さんに脅迫状を届けさせたか、見当がついてるんでしょう?巡査部長の妻子を誘拐したのは誰なんですか?」
間霜刑事は、与田が何と答えるか待った。
与田はどこまで話すべきか考えていた。
内山総理、与党幹事長、前幹事長、後藤総理、彼らが消された証拠はない。俺と佐枝と芳川の関係者を除き、証人は全て消えた。間霜刑事は、前支部長の鐘尾と家族の死と、阿久津の関係者の死を、内山総理や幹事長や後藤総理の死と関連していると見ているだろう・・・。
俺は二つの手紙の文章、
『始末されたくなかったら、後藤総理の死亡原因を調査して、関係者を始末しろ』
『後藤総理の死に関係した者を始末しろ。任務が完了したら戻ってこい』
を、まとめて、
『後藤総理の死に関係した者を始末しろ、実行しなければ俺を始末する』
と間霜刑事に話してある。
手紙はどちらも、後藤総理の死に関係した者を始末できなかったら、俺を消すという意味だ。前者の手紙を届けた阿久津は、後者の手紙を届けた始末屋とは別組織だろう。
宮塚主幹は良くない連中に手を出したな・・・。そう思いながら、与田は腹を決めた。
「これを見てくれ」
与田はショルダーバッグから、フロントに届いた封書の手紙と、ドアの下から部屋に入れられた封書の手紙、
『始末されたくなかったら、後藤総理の死亡原因を調査して、関係者を始末しろ』
『後藤総理の死に関係した者を始末しろ。任務が完了したら戻ってこい』
を取りだして間霜刑事に見せた。手紙を読んで間霜刑事は驚きを隠せない。
「この文面は、二つとも与田さんの上司のものですか?」
「フロントに届いたのは上司の文ではない。ドアの下からのは内調の宮塚登主幹の文だ」
「差出人は二人。目的は同じか・・・」
「後藤総理には、愛人二人とのあいだに、腹違いの息子、宮塚登主幹と木村巧内閣情報官がいる・・・」
「息子それぞれが与田さんを脅迫して、親の死に関係した者に報復してるんですか?」
「そういうことらしいが、実態はわからん」
「与田さんの始末を強制された者が、ここ長野に現れると思いますか?」
間霜刑事は巡査部長のような被害者を出したくないと思った。
「ヤツラ、俺を始末するために、手段を選ばない・・・」
殺害された巡査部長の妻子を思うと与田の目の周りが熱くなった。涙が出そうだ。
「なぜ与田さんを始末するんです?」
後藤総理の死に関係した者がいるなら、警察に任せればいい。与田に始末させる必要はない。与田が始末されることもない。それとも、与田は始末屋と関係しているのか?
「俺は後藤総理の死亡時に警護をしていた。宮塚主幹と木村内閣情報官は、俺が後藤総理から公にできない極秘事項を聞いた、と勘違いしてるんだろう」
「口封じですか?」
「おそらくそうだ」
「後藤総理は病死ではないんですか?」
「病死だ。宮塚主幹はそうではないと思ってるらしい」
「前回、与田さんは鐘尾盛輝の遺体確認にきましたね。上層部の指示ですか?」
「そうだ。内調の目的は内閣に必要な情報収集だ。上層部が必要とすれば、それなりに調査する。与党の地方支部の動きは常に調べている」
「阿久津は、なぜ与田さんを狙ったのでしょう?」
「阿久津も、何か勘違いしていたとしか思えない。
間霜刑事こそ、阿久津が何者か、調べはついてるだろう?」
与田は間霜刑事を睨んだ。睨んだところで間霜刑事が口を割るはずはない・・・。
与田の意に反して間霜刑事が言う。
「阿久津は駆け出しですが、殺しを請け負ういわゆる始末屋の一人です。
あのパソコンショップは始末屋の事務所で、パソコンショップは表の家業でした。
全てが情報化の時代です。裏家業もITに詳しくないとやってはゆけないのでしょう」
「それなら、遺体確認しなくても、仲間の死を自分で調べられただろう?」
「行方がわからない仲間を確認にきたのでしょうね。
鐘尾たちの死も、阿久津の仲間たちの死も、病死で不審な点はありませんでした」
間霜刑事は思わせぶりにそう言った。前支部長の鐘尾たちが始末され、鐘尾たちを始末したその始末屋も何者かに始末された。誰がどこまで事実を知ってるか暴いてやる・・・。
「頼みがある。俺はしばらくこっちにいる。警察は俺の警護はしないでくれ」
「なぜ警護を外すんですか?」
「誰が俺を狙ってるか、尾行を探る」
「わかりました。我々は巡査部長の妻子の殺害犯を捜査します。
犯人がわかったら、与田さんに知らせます。
与田さんも、与田さんを狙っている者がわかったら知らせてください。
同一犯のはずです」
「わかった。では俺の警護を外してくれ。俺は尾行を調べる。
頼みがある。あのパソコンショップを、もう一度調べさせてくれ」
「わかりました。これを・・・」
間霜刑事は机の引出しから、パソコンショップの鍵を取りだして与田に渡した。
「恩に着る。鍵を返す時、調べた結果を知らせる」
「よろしく頼みます・・・」
与田は間霜刑事に見送られて刑事課を出た。
与田が長野中央署刑事課に現れた。
「与田さん!警護を引きあげさせたのは、警護指揮していた生活安全課の巡査部長でした。
巡査部長の妻子を誘拐して、巡査部長に、脅迫状を与田さんへ届けるよう指示した者がいました。誘拐された妻子は殺害されたようです。現在捜査中です・・・」
間霜刑事は林巡査部長に起った事件を説明した。現在、木島刑事と山本刑事が誘拐殺人事件の捜査に当たっている。
「与田さん、知っている事を教えてください。何が起ってるんです?
与田さんは、誰が林巡査部長の妻子を誘拐して、与田さんに脅迫状を届けさせたか、見当がついてるんでしょう?巡査部長の妻子を誘拐したのは誰なんですか?」
間霜刑事は、与田が何と答えるか待った。
与田はどこまで話すべきか考えていた。
内山総理、与党幹事長、前幹事長、後藤総理、彼らが消された証拠はない。俺と佐枝と芳川の関係者を除き、証人は全て消えた。間霜刑事は、前支部長の鐘尾と家族の死と、阿久津の関係者の死を、内山総理や幹事長や後藤総理の死と関連していると見ているだろう・・・。
俺は二つの手紙の文章、
『始末されたくなかったら、後藤総理の死亡原因を調査して、関係者を始末しろ』
『後藤総理の死に関係した者を始末しろ。任務が完了したら戻ってこい』
を、まとめて、
『後藤総理の死に関係した者を始末しろ、実行しなければ俺を始末する』
と間霜刑事に話してある。
手紙はどちらも、後藤総理の死に関係した者を始末できなかったら、俺を消すという意味だ。前者の手紙を届けた阿久津は、後者の手紙を届けた始末屋とは別組織だろう。
宮塚主幹は良くない連中に手を出したな・・・。そう思いながら、与田は腹を決めた。
「これを見てくれ」
与田はショルダーバッグから、フロントに届いた封書の手紙と、ドアの下から部屋に入れられた封書の手紙、
『始末されたくなかったら、後藤総理の死亡原因を調査して、関係者を始末しろ』
『後藤総理の死に関係した者を始末しろ。任務が完了したら戻ってこい』
を取りだして間霜刑事に見せた。手紙を読んで間霜刑事は驚きを隠せない。
「この文面は、二つとも与田さんの上司のものですか?」
「フロントに届いたのは上司の文ではない。ドアの下からのは内調の宮塚登主幹の文だ」
「差出人は二人。目的は同じか・・・」
「後藤総理には、愛人二人とのあいだに、腹違いの息子、宮塚登主幹と木村巧内閣情報官がいる・・・」
「息子それぞれが与田さんを脅迫して、親の死に関係した者に報復してるんですか?」
「そういうことらしいが、実態はわからん」
「与田さんの始末を強制された者が、ここ長野に現れると思いますか?」
間霜刑事は巡査部長のような被害者を出したくないと思った。
「ヤツラ、俺を始末するために、手段を選ばない・・・」
殺害された巡査部長の妻子を思うと与田の目の周りが熱くなった。涙が出そうだ。
「なぜ与田さんを始末するんです?」
後藤総理の死に関係した者がいるなら、警察に任せればいい。与田に始末させる必要はない。与田が始末されることもない。それとも、与田は始末屋と関係しているのか?
「俺は後藤総理の死亡時に警護をしていた。宮塚主幹と木村内閣情報官は、俺が後藤総理から公にできない極秘事項を聞いた、と勘違いしてるんだろう」
「口封じですか?」
「おそらくそうだ」
「後藤総理は病死ではないんですか?」
「病死だ。宮塚主幹はそうではないと思ってるらしい」
「前回、与田さんは鐘尾盛輝の遺体確認にきましたね。上層部の指示ですか?」
「そうだ。内調の目的は内閣に必要な情報収集だ。上層部が必要とすれば、それなりに調査する。与党の地方支部の動きは常に調べている」
「阿久津は、なぜ与田さんを狙ったのでしょう?」
「阿久津も、何か勘違いしていたとしか思えない。
間霜刑事こそ、阿久津が何者か、調べはついてるだろう?」
与田は間霜刑事を睨んだ。睨んだところで間霜刑事が口を割るはずはない・・・。
与田の意に反して間霜刑事が言う。
「阿久津は駆け出しですが、殺しを請け負ういわゆる始末屋の一人です。
あのパソコンショップは始末屋の事務所で、パソコンショップは表の家業でした。
全てが情報化の時代です。裏家業もITに詳しくないとやってはゆけないのでしょう」
「それなら、遺体確認しなくても、仲間の死を自分で調べられただろう?」
「行方がわからない仲間を確認にきたのでしょうね。
鐘尾たちの死も、阿久津の仲間たちの死も、病死で不審な点はありませんでした」
間霜刑事は思わせぶりにそう言った。前支部長の鐘尾たちが始末され、鐘尾たちを始末したその始末屋も何者かに始末された。誰がどこまで事実を知ってるか暴いてやる・・・。
「頼みがある。俺はしばらくこっちにいる。警察は俺の警護はしないでくれ」
「なぜ警護を外すんですか?」
「誰が俺を狙ってるか、尾行を探る」
「わかりました。我々は巡査部長の妻子の殺害犯を捜査します。
犯人がわかったら、与田さんに知らせます。
与田さんも、与田さんを狙っている者がわかったら知らせてください。
同一犯のはずです」
「わかった。では俺の警護を外してくれ。俺は尾行を調べる。
頼みがある。あのパソコンショップを、もう一度調べさせてくれ」
「わかりました。これを・・・」
間霜刑事は机の引出しから、パソコンショップの鍵を取りだして与田に渡した。
「恩に着る。鍵を返す時、調べた結果を知らせる」
「よろしく頼みます・・・」
与田は間霜刑事に見送られて刑事課を出た。