ミカヅキたるミツアシ

文字数 767文字

3-tune


 朝日が差しこもうとも、ミカヅキはまだねぐらにいた。面倒くさげに羽根をひろげる。

「行ったところで寝るだけだ」

 餌をあさるためだけに縄張りをめざす。

 *

 ゴンゲン様で羽根を休める。ハト達はミカヅキが同じ木立に来ても逃げやしない。小鳥の巣を荒らさないカラスと知っているから。……小さい車から降りてきた女が境内を見わたす。ミカヅキはびくりと警戒する。でもミカヅキに気づき手を振ったから、そういう人間はたまにいると気にするのをやめる。カーカーと鳴きかえしてやる。車がプップッと返す。
 小さい車は、クラクションを鳴らされながら、もたもたと去っていく。

「俺は寝て過ごすだけだ」

 ひとり言が増えてきた。家族もなければ毎日に刺激もない。せめて緊張を与えてくれる野良犬や野良猫でもいれば、猫や犬のくせにカラスに話しかける奴とかいれば、ちょっとは面白かっただろうに。俺の羽根ならたやすく逃げられるだろうからな。
 腹を満たしたミカヅキは、木かげでうつらうつらとする。

――ふん。やっぱりお前は朝から昼寝だ

 誰の声だろう。ミカヅキは夢うつつに思う。

――暇ならば西の向こうに行ってやりな。じゃあね、おかげで楽しかったよ。もう一人だけあいさつして、さよならだ

 誰の声だろう。ミカヅキは神社の木陰で眠りながら思う。

 *

 人間のガキどもが騒ぎだしたおかげで、ミカヅキは目を覚ます。子どもたちは舞台の上でカードをひろげる。ぼんやりとそれを見ながら、夢をかすかに思いだす。

「俺はでかけるぞ」
 とっくに抜け殻となったかみさんへとつぶやく。上空にでて、鉄紺色へと照らされる。ミツアシが見慣れた町を見おろす。
「……じゃあな。カモタケツミノミコト!」

 居あわせただけの幸運なハトや人の子におまじないをかけて、導きのカラスが西の空をめざす。




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