第9話 あれから数年

文字数 840文字

さて、私があの大仰な名前を得てから、数年が経ちました。
その間にあったことをお話しましょう。

当時の私は20歳手前。
社交界で活躍するお年頃でしたが、生来の人見知りの気質と、兄妹のようにして過ごしたシュテファンとエイリークに感化されたのとで、すっかりパーティー嫌いになっていました。
そのシュテファンとエイリークはといえば、ちょうど士官大学を卒業した辺りで、新卒の将校として揃ってノルディオンにある基地に赴任して、忙しく過ごしているようでした。
 
社交界にそっぽを向いた私がどう過ごしていたかというと――ひたすら、家の小さな女主に徹しておりました。というのも、エトガルもマティアスも、もう30代も半ばだというのに、まだまだ結婚する気配も見せなかったからです。
まれに、従兄たちの名代として、ファルケンブルク家と親交のある家々などを訪れることもありました。何かと忙しい従兄たちには、私のこのちょっとした「おつかい」が、意外と助けになったようで、彼らは私のことを「小さな外交官」と呼ぶようになっていました。
――それにしても、なんと帝国の領土の広いことでしょう。
従兄たちの多忙と無精のおかげで、私は色んな土地を訪れることができ、次第に見識も――少しずつですが――広がってきていました。
もっとも、「おつかい」なんてイベントは数か月に一度くらいのもので、大半は屋敷でのんびり過ごしておりましたけれど。

私のお気に入りの過ごし方は――庭園散策、読書に入浴、温室でのティータイム。色々ありましたが、中でも一番好きだったのは、人の話を聞くこと、でした。
自分に一般的な常識が欠落していることは、常々痛感していましたので、きっと様々な人の話を聞くことで、無意識に欠けた知識を補おうとしていたのでしょう。

私の良い情報源はといえば、それはもう、邸内支局の軍人さんたちでした。
面白い話や、考えさせられる話、下世話な話――彼らから聞きかじった玉石混交な無数の話の内、印象深かったものを、いくつかをご紹介したいと思います。
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