2 ❀ フェスティバル開幕

エピソード文字数 1,618文字



 四月二十一日日曜日
「咲良、準備はできた?」
 凪が玄関から声をかける。
「はい、はーい」
 剣道着によそおった咲良は、トタトタと駆け足で現れた。玄関に置かれた荷物の一つを抱えようとしたが。
僕に任せてください
 ジョンがパチンッと指を鳴らす。
 玄関に並んでいた重い荷物が、一斉に宙に浮かび、列を作って移動し始めた。
 一つ一つ丁寧にワゴン車のトランクに入れられる。
「あれっ、玄関の荷物が無くなってる。母さん、全部運んだの? 重かったろ?」
 作が驚いて、車庫へ顔を出す。ちょうどジョンが魔法でトランクを閉めたところだった。

「ジョンくんが運んでくれたの」
「そうだったのか、ありがとう。ジョンも、イベント来るんだろう?」
「ええ。警備の非常要員で」

 ジョンは仕事着のコートに身を包んでいた。
 ブレイクは以前、公的イベントでテロを起こしたことがあるという。
 そのため、合同捜査本部のメンバーも警備に参加することとなった。
 講師で呼ばれた(せん)賢武(けんぶ)のお手伝いとして、咲良(さら)(なぎ)(さく)も同行する。

   ✿  ❀  ✿  ❀  ✿

 フェスティバルは、都内で最も広い公園で開かれる。

 競技人口の少ない武道は、メインステージ寄りに集められている。
 剣道や柔道などは、メインステージからはなれた場所に、スペース同士あいだをあけて設置された。人が混雑しないようにである。

 剣道会場は、緑色の幕に囲まれていた。
 幕には白線で竹林の絵が描かれており、開いた天井から春の青空がのぞく。
 横長い舞台にはゴム製の畳がしかれ、舞台向かって二百の観客席が用意されていた。
 講演の始まる一時間前だが、席にはもうお客さんが30人ほど座っている。
 体験講習でお客さんが使う竹刀を、咲良は舞台袖に運ぶ。割れているものがないか一つ一つチェックしながら、竹刀立てに並べた。
 舞台の方へ、テッテッテッとはねるような足音が近づいてきた。

おはよんよん。いがいなところで、(とも)を発見!」
理々!? おはよう」

 理々は「日本一」と大文字の書かれたパーカーを着ていた。小さなリュックを背負っている。
 理々は、入口でもらったフェスティバルのパンフレットを広げた。
「剣道は九時半からなんだ。帯刀剣術道場は十二時まで…午前は全部、咲良のとこ!? すごいじゃん! 咲良も舞台に出て教えたりするの?」
「しないしない。私はあくまでサポートなの。大道具とか、技のかけられ役とか」
「大変そうだね。…私も見ていっていいかな?」
「もちろん。でも理々、合気道とか…他に見に行きたいところがあるんじゃない?」
「十二時半ごろに登場する先生が目当てなの。伝説の塩田剛三にならぶ、達人なんだって」
「私も一緒にいく!」
「やった。私…一人で来たからさ、いっしょに回る人がいた方が楽しいよ」

 理々はニッコリし、左の腕時計を見た。

「さて。咲良のところが始まるまで…あと三十分ってとこか。九時営業って焼き鳥屋のおっちゃんが言ってたな。そろそろ肉も焼けたか

 フードスペースには、露店やキッチンカーがせいぞろいしていた。

「朝ごはん食べたのに、もうおなかが空いてさぁ。咲良のお父さんが必殺技出す時に、私のお腹が鳴ったら雰囲気が台無しだもんね。私の腹の音、けっこー大きいのよ」

 ほんじゃまた、と理々は軽い足取りで会場を去った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

帯刀 咲良(たてわき・さら)


高校2年生の、剣道少女。
ドールオタク(俗にいう、シルバニアン)

ジョン・リンデン


インターポールの捜査官。
所属は、IWCI(INTERPOL Wizard Complex for Innovation)


天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生の、合気道少女。
アニオタ。

ラルフ・ローゼンクランツ


インターポールの捜査官。
IWCIのリーダー

マリー・ローゼンクランツ


ラルフのイトコ。

絵画修復士になるためにイタリアの大学で学んでいたが、行方不明になる。

マルコ・ローリエ


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

イタリア人。お菓子が大好き。

レイ・マグノリア


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

フランス人。透視能力者。

鞍馬 勝(くらま・まさる)


警視庁特殊科の捜査官。

日本の魔法使い。忍者。

ブレイク・アンショー


赤の国際手配書が出された犯罪者。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み