第2話 次元移動(Dimension move)

エピソード文字数 4,775文字

 イタリア 地中海 サルディーニャ島(Italy Mediterranean Sardinia)
 スー・ヌラージ・ディ・バルーミニ(Su Nuraxi di Barumini)

  サルディーニャ島の夜空に、幾筋(いくすじ)もの流星が流れ落ちていた。
 星が流れ落ちた後、空に音が聞こえる。

『そんな夜は外に出てはいけないよ!』
 ジャックは幼い頃に、誰か大人がそう話すのを聞いた事がある。
 静かな夜空を見上げ流星の音を聴きながら、今、その言葉を思い出していた。

 イタリア 地中海 サルディーニャ島 スー・ヌラージ遺跡(いせき)。円筒、円錐(えんすい)状に巨石を積み上げた要塞(ようさい)構造建造物。紀元前2000年、青銅器時代に造られた太古の防壁施設。

(きっとたくさんの命のやり取りが、ここで繰り広げられたんだ)

 Helios(ヘリオス)が、人型装甲体AQD(アクアドール)-21Unit-5の警護(けいご)を受けながら、スー・ヌラージの坂道を進んでゆく。

 夜明け前、村の中心からも離れた古代遺跡には、人影はなかった。

 大地では、赤く(あや)しい無数の光が、遺跡を取り囲むようにして、(まね)かれざる客の姿を見つめ続けている。

 Helios(ヘリオス)はAQD(アクアドール)-21Unit-5の機体と共に、イギリス海外領土アトランティック オーシャン バミューダ島から自家用ジェット機に乗り、イタリア 地中海 サルディーニャ島に降り立っていた。
 夜ごと夢に現れる少女に(みちび)かれ、遺跡のあるバルーミニ村に訪れたのである。

 初夏の草花が香るサルディーニャ島の牧草地帯から、草虫や蛙の鳴き声が絶えず聞こえ続けていた。

「ここよ。ここに居るの…」
 スー・ヌラージ(Su Nuraxi )遺跡の中心にある、三層の(とう)の内部から、ヘリオス(Helios)を呼ぶ少女の声が聞こえる。

「僕が君に会いに来た事がわかるんだね?」
 ヘリオス(Helios)が尋ねる。

「ええ。わかるわ! あなたを、待っていたもの…」

「待ってて、今そこに行く!」
 Helios(ヘリオス)は確かな口調(くちょう)(こた)えた。

 金色の装甲に包まれたヘリオスが、AQD(アクアドール)-21Unit-5に守られながら、暗闇の古代遺跡の中を歩いて行く。

 石を積み上げ造られた堡塁(ほるい)が、迷路のように幾つもの小部屋を形成し、通路を複雑にしていた。しかし、ヘリオス(Helios)は迷う事なくまっすぐに、塔の中心に向かって行った。

「あれは何?」
 VRゴーグルに映る妖しい赤い瞳を見て、アリーチェ(AQD-21Unit-5)が小さな声を上げた。

「野犬の(たぐい)ではない。天使の使いのようだ。遠巻きに取り囲み、僕達を監視(かんし)している」
 ヘリオス(Helios)が答えた。

 アリーチェ・ヴァレンティノ(Alice Valentino)、イタリア ナポリの自宅からVRマシーンに乗り込み、Helios(ヘリオス)の警護に参加していた。
 AQD(アクアドール)-21Unit-5を遠隔操縦(えんかくそうじゅう)する腕利きのスナイパー(sniper)だ。

「AQD(アクアドール)-21Unit-5 、アリーチェ。好いこと、Helios(ヘリオス)は人型装甲体(ひとがたそうこうたい)ではない。装甲は着けているけど、中は生身の人間なの。だから、しっかりと守って。頼んだわよ!」
 アリーチェ・ヴァレンティノのVRゴーグルに対天使・戦略司令室からの通信が入れられる。

「了解。まかせて置いて!」
 陽翔(はると)同様、訓練後、初の実戦参加である。

「もう少しで、陽翔が遺跡に面した道路から参入する。陽翔には敵の外周から作戦に参加して貰うよう話してあります。バイクの音に注意をして。互いの位置はVRゴーグルに色違いで表示される。撃つのは天使とその使いだけよ!」
 バミューダ島秘密基地管制センター、対天使・戦略司令室から、マギー・ロペスが声掛けをする。

「了解」
 管制センターの大型ディスプレイには、二人の装備するカメラ映像と、人工衛星が(とら)え続けるスー・ヌラージ・ディ・バルーミニの画像が映し出されていた。

 円筒形遺跡の内部から見上げる塔の上空には、天の川銀河が顔を覗かせている。塔床にさし入る星明りが、神秘的な空間を創り出していた。

 そこにひとりの少女が降臨(こうりん)する。

 少女は裸足(はだし)で、清潔(せいけつ)な白(あさ)のワンピースを身に着けていた。

「僕を呼び続けてくれた君の名は『サマエル』。とても嬉しいよ! 夢の通りに、ここで君と会うことが(かな)ったんだ!」
 Helios(ヘリオス)が歓喜の声を上げる。

「そう。私はサマエル(Samael)。いつも貴方を呼んでいた」
 物静かな口調(くちょう)で少女は答えた。

「はじめまして。僕は…」
 そう()げるヘリオスに、「そうでもないのよ!」、少女は意味深(いみしん)な言葉を投げかけた。

「金色なのね、太陽のよう!」
 サマエル(Samael)は、金色に特殊塗装されたヘリオスの装甲に手をかざす。

「きっと君に会った帰り道は安全には済まないと思って、今日は装甲スーツを着て来た」
 Helios(ヘリオス)は微笑んでいる。

「ヘリオス、貴方が連れて行ってくれるのね? 私の故郷、Mars(マールス)に」
 ジャックは黙ってうなずいた。

「大丈夫? 今の時代のMars(マールス)に、降り立った人間など一人もいないのよ!」
「ラテン語でMars(マールス)。僕たちはMars(マーズ)と呼ぶことが多い」

「Mars(マールス)。ローマ帝国では皆、そう呼んでくれた。戦いの神の名前で…」
 サマエル(Samael)はそう答えた。

「僕も聞いたことがあるよ。君が古代帝国(ていこく)ローマの守護をしていたと!」
「ふふっ。どうかしら…]
 少女は立っている足を組みなおした。

「約束する(pinky swear)! 君の故郷、Mars(マールス)に、僕が君と共に行くことを!」
 ジャックは装着しているHelios(ヘリオス)の小指を、少女サマエルの細い小指と(から)める。

 (から)めた二人の小指のまわりに黄金の光が灯った。

のともし火」
 ヘリオスの隣で警護行動を続けるアリーチェ・ヴァレンティノが声を上げる。

 人型装甲体、AQD(アクアドール)-21Unit-5 とリンクするアリーチェ・ヴァレンティノのVRゴーグルには、少女の姿は映ってはいない。声さも聞こえないのだ。それでも、重大なミッションの内容を聞かされていたアリーチェの心は総てを受け止めていた。そして、今、黄金のともし火を見た彼女の眼は、自身の考えに確信(かくしん)を強める。

「Helios(ヘリオス)、Samael(サマエル)様、早くこの場から離れましょう」
(AQD-21Unit-5)アリーチェ・ヴァレンティノが二人を(うなが)す。

「行くよ。サマエル(Samael)、僕の側を離れないで!」
 ヘリオスは少女の手を強く握りしめた。

「貴方と共に行く!」
 突然と光輝いたサマエル(Samael)の背から、銀色の色彩が放たれる。
 円筒形、塔の内部で、3対12枚の熾天使(してんし)の翼が映し出された。

 HeliosとAQD-21Unit-5が搭載するカメラから送られて来る映像を、アトランティック オーシャン バミューダ管制室の大型のディスプレイで見詰めるマギー・ロペスの瞳には、少女サマエルの姿は、はじめから映し出されていた。
 そして今、銀色に輝く3対12枚のサマエル(Samael)の美しい翼を見たマギーは、息を飲み我を忘れそうになる。
 熾天使(してんし)サマエルの翼は、それ程までに美しい聖衣(せいい)なのである。

「司令、天使の使いが完全に三層の塔を取り囲みました!」
 対天使・戦略司令室オペレーター・キャサリンが大きな声を上げる。

「さあ、来るわよ!」
 我に返った司令室長官マギー・ロペスが、管制センターの戦闘態勢(たいせい)を確認する。

 おしゃれなミニのタイトスカートに高級感のあるカルゼ生地(きじ)の白いオープンカラーブラウスを着ている。

 マギー・ロペスはこれまで対カーレル財団対策本部、諜報室(ちょうほうしつ)室長として、魔族の諜報網(ちょうほうもう)を一から作り直して来た。その仕事ぶりと高い能力を買われ、大魔女イザベルより対天使・戦略司令室長官に抜擢(ばってき)されていたのである。

 石塔を出て、積み上げられた石の堡塁(ほうるい)を進む三人の前に、多くの天使の使いが待ち受けていた。スー・ヌラージ遺跡の至る所で、コヨーテのような黒い四つ足の生き物が牙をむいている。

「いい事。天使の使いは、頭を一撃(いちげき)で狙い打たないと何度でも立ち上がってくる!」
 そのマギーの言葉を聴くか聞かないうちに、戦闘は開始されていた。

 Helios(ヘリオス)の前に立ち塞がった、深紅(しんく)特殊塗装(とくしゅとそう)を受けた人型装甲体AQD(アクアドール)-21Unit-5が、両腕に持つアサルトライフル(自動小銃)を撃ち放っていた。

(アリーチェの腕は本物だ)
 飛び掛かりくる黒い四つ足の生き物の頭を、正確に撃ち抜いて行く。

 器用(きよう)弾倉(だんそう)を取り換え、連射を続けるAQD(アクアドール)-21Unit-5。その背に隠れるようにして、ヘリオスは少女サマエルを連れ遺跡を離れ、広大な牧草地帯(ぼくそうちたい)へと向け走り続けた。

 遺跡を挟んで反対方向の道路に、650cc メタリック・ブルーのバイクで駆け付けた高城陽翔が到着する。陽翔はAQD(アクアドール)-21Unit-7の機体を使い、アサルトライフルを撃ち放ちながら、Helios(ヘリオス)の待つ牧草地帯へと足を急がせる。

 天使の使い、四つ足の生き物の頭を次々に撃ち抜いて行く装甲機体AQD-21Unit-7。
 陽翔も又、正確無比(せいかくむひ)な腕前であった。

「サマエル(Samael)を連れ目標ポイントに到達した。キャサリン、帰投(きとう)する」
 広々とした牧草地帯に辿(たど)り着いたヘリオスが作戦本部に申し入れる。

 その時であった、白み始めた東の空に一つの巨大なサークルが浮かび上がる。
 サークル周囲の空間はゆがみ、見事な翼で御身(おんみ)を覆う大天使が、サルディーニャの大地に降臨(こうりん)する。

「次元移動(Dimension move)! Helios(ヘリオス)、気を付けて。大天使は実体(じったい)(ともな)っている」
 作戦室のモニターを見詰めるマギー・ロペスが大声を上げる。

 アサルトライフル(自動小銃)を撃ち続けながら合流した高城陽翔の装甲機体AQD(アクアドール)-21Unit-7と、アリーチェの装甲機体AQD(アクアドール)-21Unit-5は、ヘリオスと少女サマエルを守るように天使の前に立ち(ふさ)がる。

 大天使の降臨を前に、コヨーテのような黒い四つ足の生き物は、彼等を遠巻きに取り囲み、様子(ようす)(うかが)い始めていた。
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登場人物紹介

熾天使サマエル。

エピソード8話から、アクエリアス13歳クローンの姿で登場する。

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