Phase 00 どこかで見たことある

文字数 1,054文字

 私の趣味は――小説を読むことだ。もちろん、紙の小説からネットの小説まで、そのジャンルは多岐に渡る。でも、一番好きなのは――矢っ張り京極夏彦だろうか? 私は父親の書斎からくすねた『魍魎(もうりょう)(はこ)』を読んで、その内容に衝撃を受けた。
 そういえば、私の他に「京極夏彦のファン」という友人がいたことを覚えている。名前は――忘れちゃったな。でも、その友人は不思議な雰囲気を醸し出していた。女の子なのに自分のことを「僕」って呼んでる時点でも「他の誰かとは違う何か」を感じてたのに、好きなアーティストが互いに一緒の人物だったのは少し嬉しかったかな。――そのアーティストに対する同世代のファンって、かなり少なかったからね。
 ――そういえば、最近「ジョン・ドゥ」という謎の覆面作家の作品が気になって仕方がない。「ジョン・ドゥ」の掲載拠点は紙じゃなくてネット小説なんだけど、この文章って――どこかで見たことがあるのよね。主人公は女性なのに、一人称が「僕」。まるで、あの友人みたいだ。――というか、これって私小説なのか? いや、そんなことはないか。なぜなら、実際にそういう殺人事件が発生している訳じゃないからだ。――殺人事件ねぇ……。もしかしたら、友人なら私の会社で発生している殺人事件を解決してくれるのではないのか? ――いや、そんなうまい話なんてある訳ないよね。でも、ここは一か八かでファンレターを送ってみるか。
 えっと――こうで、こうで、そしてこう……っと。多分、これで私が「ウッキーの友人」だということは分かるでしょうね。あとは、ファンレターに対する返事を待つだけ。――そもそも、作者が人違いだったら何だか申し訳ないし、難しいな。
 それから数日経った。――本当に、「ジョン・ドゥ」からファンレターに対する返事が来た! ――ふむふむ。そうなのか。この文章、矢っ張りウッキーのモノで間違いないみたい。
 ――さて、どうしようかな? 実際に会ってみようかしら?
 でも、私の姿を見てウッキーは私だと気付くのだろうか? こうやってマトモに会うのは、多分16年振りぐらいだよね。当時は頭髪検査が厳しかったからショートヘアだったけど、今は思いっきり長髪だ。――もしかしたら、声で気付くかな?
 そう思いつつ、私はサブスクでウッキーとの「思い出の曲」を再生した。――例のアーティストじゃないけど、ウッキーもこのバンドが好きだったっけ。――いくらプロデューサーの名前から取っているとしても、日本語に訳して「無限大のようにする」ってなるのは変だけど。
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