温泉

文字数 611文字

 濡れた縄は滑る。彼女の手が離れる瞬間、僕は死神の言葉を思い出した。
「寿命は変わらない。」

 僕は彼女の手をつかむと一緒に橋から落ちた。なるべく王女の下に潜り込む。しかし、映画じゃないからそううまくはいかない。川は増水している。頭を打たなければ助かるかもしれない。
「ベキ、バキ、ズザザ。」
 木の上に落ちたのか。

「無茶しますね。少々台本と違っちゃいましたが、まあいいでしょう。」
 死神の声に目が覚めた。
「万馬券の審査結果がでましたよ。人間界のレートに換算して寿命が加算されます。それでもギネスものですよ。ちょっと待ってて下さいね。先に仕事をさくっと終わりにしますから。」
 僕は、朦朧とする意識の中で死神に聞いた。
「その寿命って、他にやれないのか?」
 死神はどこかに連絡を取っているようだったが、
「まだ、所有者が決まってませんから大丈夫ですよ。」
 と答えた。

 あれから20年後。僕と王女は結婚した。一人娘の彼女のために、僕は婿養子になった。ついに、トリノタマゴじゃなくなった。彼女の苗字は温泉。イズミ・ギョクジ。これが今の名前だ。
 名刺を出すと、
「覚えやすい名前ですね。」
 と言われる。
 まだ、家業を継ぐべく、あの運命の吊り橋の温泉宿で修行中だ。湯舟の掃除をしていると、足が滑った。その時、すぐ右横に、死神が見えた気がした。

「温泉玉子、刈ってきました。」
 直後、閻魔の前に僕はいた。
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登場人物紹介

とりの ぎょくじ(玉子)

中学三年

王女の幼馴染で隣に住む

鉄道オタク

生物の雑学がある

いづみ おうめ(王女)

中学三年

玉子の幼馴染で隣に住む

ヘルパー死神

玉子の担当死神

おっちょこちょい

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