文字数 1,243文字

「どうでした? 久遠坂の実物は」

 その日の業務を終えた夜、社食で落ち合うと、雄大は席に着く前からそう切り出した。面接の様子が気になってたまらなかったらしい。

「さもありなん、って感じの奴でした?」
「いや、ぱっと見、普通の真面目そうな学生だったんだけどね」

 早紀はグループワークの様子を語って聞かせた。語り終える間に、雄大は大盛りカレーをすっかり口に運び終えてしまった。

「学生よりも、面接する側の方が足並み揃えるべきだね、これは」
 選評議事録を見やりながら、雄大が苦笑する。
「天峰って子以外は、評価バラバラだ」

 人物特性については大抵意見が一致するのだが、その評価はバラバラになることが多い。受かるべくして受かる学生は一握りに過ぎず、大半は評議での各面接官の発言力や場の流れで決まる。

「久遠坂はどんな様子でした?」
「よくわからなかった。口数が少なくて」
「このテーマですからね。自分の書いてるブログを省みたら、何も言えなかったんじゃないですか。でも思うことはあったはずですよ」

 グループワークのテーマは、早紀と雄大で考えたものだった。ネットでモラルに反したことをする架空の人物。それに関して議論をするとなれば、殺人予告ブログを書いた当人としては、自分を省みざるを得ないはず――そう踏んだのだ。

「それだけ問題のあることをしているって、本人が自覚してくれればいいんだけどね。さて、反応はどうだろう」

 雄大がノートPCを操作した。討議を通して和之の中で思うところがあれば、ブログにも出るんじゃないか――それが二人の読みだった。殺人予告が単なる悪ノリで書かれたものなのであれば、今頃慌てて消されているだろう。

 と、雄大のノートPCの天板に、部署の管理シールが貼られていることに気付いた。会社のPCは、インターネットに社内ネットワーク経由で接続する設定が標準だ。会社の名札を胸に留めたまま歩いているようなものであり、アクセス解析付きのサイトに接続すれば、相手に会社名が筒抜けになってしまう。
 雄大はすぐに早紀の危惧に気付き、接続ネットワークを匿名化(スクランブル)した。和之のブログにアクセス解析は付けられていないはずだが、プロファイルの際は用心に越したことはない。

「どう? 更新されてる?」
「…………」

 雄大は返事をしなかった。
 しばらく画面を見やっていたが、やがてPCをテーブルの上でくるりと反転させると、早紀の方に押しやった。

 
【今日受けた会社のグループワークは最悪。くだらないテーマ語らせんなよ。こっちはいい子ちゃんするしかねえんだから。会社の悪口をネットで語ることの何が問題デスカ? リアルで語ると協調(笑)乱すから、わざわざネットの方で愚痴ってやってるんだろうが。グループメンバーも低脳揃いで辟易。
 そういや陸○商○の人事の豊橋○史はふざけてるので殺すことにする。何あの尊大な態度。無能なくせに偉そうな団塊は死ね。】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み