第一章 国益(2)

文字数 4,425文字

「では、大臣はTPPAのどこが問題だとお考えですか?」
 辛うじてそう問うた。それに対する岡本の答えは明確であった。
「がんじがらめで秘密主義。それから国体の喪失。以上」
 岡本がいう「がんじがらめ」とは、一旦参加国である規制緩和に合意したら最後、どんな問題が生じても二度とその規制を元に戻すことは出来ない、という条項が入っていることを指している。
「いわゆるラチェット条項、ですね?」
 そう言うと、岡本は不敵な笑顔で頷いた。
「では、秘密主義というのはどういう意味ですか?」
「うん。ここはな、もっと国民に知らしめないかんところやが、TPPAのルールの中には、TPPAの中身やその交渉内容は、協定締結から四年間は秘密にせなあかんという守秘義務規定がある。国民の生活を丸ごと変えてしまうかも知らん協定を結ぶのに、国民にその内容を一切知らせないで秘密交渉をやるというのは、国民主権を侵害する明白な憲法違反や。もしこの条約が万人の幸せのためになるんやったら、堂々と公の場で議論すべきやないか。なんで、コソコソと隠れてやる必要があるか」
 徐々に顔を紅潮させる岡本大臣は饒舌であった。熱意が迸っている。この雰囲気を醒めさせてはいけない。
「では、最後におっしゃった『国体の喪失』というのは・・・?」
「判らんかな?」
「もしかして、ISD条項、ですか?」
「その通り」
「あれは、実際には北米でもいろいろと問題になっているようですね」
 ISD条項とは、ある国の政策によって海外の投資家が不利益を被った場合、投資家たちは世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」に訴えを上げられるという制度であるが、そこでは投資家の損害計算に重きを置く裁定が行われ、しかも一審制であり、負けても国家側は上告できないと言われている。
 事実、すでにISD条項を含む国際条約をアメリカと締結したいくつかの国では、私企業が国家を訴え、その都度国家は巨額の賠償金を支払わされている。反対派がもっとも懸念するイワクツキの条項である。
「例えば、日本は国民皆保険制度やな。TPPAを結べば、必ずアメリカの巨大大手保険会社が一切の規制なしで日本市場に入って来る」
「まあ、そうでしょうね」
「それから何年か経った時、彼らはこう言い出すかも知らん。『日本の国民皆保険制度によって、われわれ民間資本が思うようにビジネスが出来ない。これは政府による事実上の規制であるから、我々が過去数年に喪失した利益を日本政府は補償すべきだ』と。その時、彼らは下手をすると兆単位の要求をして来るだろう」
 岡本はそう言って、葉巻を燻らせた。そんな自信たっぷりの岡本を見て、その言い方はちょっと強引すぎるのではないか、と新田は思った。まさか、いくらなんでも「兆単位」というのは言い過ぎだ。物事には常識というものがある。岡本は話こそうまいが、デマゴーグ癖があるとは言われている。この辺りがまさにそうだなと新田は感じた。
「まさか、そこまでするでしょうか?」
 そう問うと、岡本は悪戯っぽく笑いながらも、強い口調で訊いて来た。
「『大臣閣下』には、絶対ないと言い切れる保証はあるのか?」
 新田は再び黙った。
「わかるかな? 少しでも国体の崩壊に繋がりかねない何らかのリスクがあるんやとしたら、わしは担当大臣として、それをもう一度真剣に考え直さんといかんようになる」
 確かに岡本の理屈は明快であった。彼は目の前に座る新田を見ながら続けた。
「まあこの問題ではな、官僚同士でも左右上下で大喧嘩や。賛成派は反対派に向かって日本を滅ぼす気かと非難し、反対派は逆に『グローバリストの手先、国賊』とわめく。ほらもう、まとめるだけで大変やで。こんな仕事、はよう降りたいくらいや」
「では、なんでそんな役職に手を挙げられたんですか?」
 ただでさえ忙しい財務大臣の職にありながら、岡本は他の閣僚やベテラン議員らが嫌がるTPPA担当大臣をわざわざ志願したのだ。
「そりゃね、こういう厳しい交渉に挑む時は、ケガレのないわしのような政治家が一番強いからな」
「どういう意味ですか?」
「そりゃ君、他のセンセイ方やったら、多かれ少なかれ、何らかの弱みは持っている。女関係、酒癖、失言に暴言、裏金・・・」
 そう言って岡本は笑うが、新田は悪い冗談を言っているのだと思った。岡本ほど艶聞が絶えず、ある意味で「ケガレている」と見られている政治家も珍しいからだ。
 有能な通産官僚出身の高島昇が総理大臣を務める今の第二次高島内閣は、これまでにないほど清廉潔白との印象が強いが、その中でも岡本は異色の存在であり、岡本が閣僚入りした際には、各界から『よくもまあ、身体検査に合格したものだ』などという陰口を叩かれていた。
「しかし、こんな事を言っては失礼に当たるかも知れませんが、大臣は以前からそちら方面のお噂はいろいろと・・・」
「そう、その通り。わしは女性も酒も失言も金も、人間としてのすべての悪事や欲求をとことん極めている。そしてついに解脱をしてしまった。だから怖いもんは何もない。今あるのは、政治家としての理想だけよ。まあ、斯く言うわしも、解脱までにえらい時間はかかったけどな」
 そう言って岡本が笑ったので、ここで初めて新田もつられて笑った。
「ではTPPA担当大臣をも兼務されたのは、怖いものがないからということですか?」
「だってやな、君。他の議員や閣僚はみんなTPPA担当大臣だけは怖いさかいに願い下げやというんで、高島総理も困ってはった。みんな、海の向こうからの圧力にやられてしまうんや。そのうちスキャンダルか何かで政治家さえ辞めないかんことにもなる。そうして誰もやりたがらんから、御国のためにわしがやるしかないと思うたんや」
 事実、これまでTPPA担当大臣をやった閣僚らの何人かは、病気で倒れたり、女性問題で辞任したりということが相次いでいた。
「前の桑山さんも病気で入院されましたね」
「まあ、忙しいフリをしたり、病気になってみたり、担当大臣を交代したり、解散総選挙をしてみたり、いろいろとやり方はある。とにかく、出来る限り向こうさんが諦めるまで、TPPAは引き延ばす」
 そう岡本が捲し立てたところで、あわてて新田記者がその言葉を遮った。
「ちょ、ちょっと待って下さい! ということは、TPPAの歴史的合意は延期ですか? もしかして、まったくやらないという可能性もあると?」
 もし、ここでTPPAの合意をやらないと岡本が言い放ったら、これは一大スクープには違いなかった。アメリカ側も、ロビイストたちを連日岡本大臣の周辺に送り込み、その上々の反応に期待をしていたからだ。しかし、この会話はすべてオフレコということになっている。
「高島総理とは今朝に話もしてある。それに、ホンマに合意をやるんやったら、今頃呑気に地元に戻ったりしてへんでしょう」
〈そうだろう?〉という顔で笑いながら岡本が記者を見ている。しかし、記者は生真面目だった。
「しかし、もし合意をしないとすれば、アメリカからだけでなく、推進派の麻野幹事長や財界から大変な反発が予想されますが」
「アメリカはね、もはや民主主義の国ではない。今やあの国は、一握りの銀行屋と多国籍大手企業がロビイストを使って政治家らを動かしている。麻野さんあたりは、まさにそんな連中の『手先』やないか」
 岡本の笑顔が挑戦的なそれになった。麻野とは、与党幹事長の重職にある麻野紀夫であり、岡本とは別の派閥を率いる政界の超大物だ。それを、外国のロビイストたちの「手先」などと表現されては、記者は黙るしかない。
「ええかな。麻野氏が何を言おうが、彼は幹事長や。一方で、TPPA担当大臣の職ばかりでなく、国の金庫をもお預かりしてんのは、財務大臣のこのワシです。そのワシが、今の条件のままでのTPPA締結は、日本国民の将来に対して百害あって一利なしと見た」
 新田は生唾を飲み込むようにしながら次の言葉を待っている。
「せやから合意は無期限の延期とする。これは最終判断です。総理の了解は得てあるし、連立を組む公民党さんにも内々に伝えてある」
 そう言ってストレートのウイスキーをグイッと口の中に注いだ岡本大臣には、迫力というものがあった。しかし相手は「政界の狸ジジイ」と呼ばれる男だ。新田は、念のため、再確認することにした。
「間違いないように確認しますが、合意はしない、という事ですね」
 岡本が飲み終わるのを見て畳み掛けると、大臣は聞き分けの悪い子供を叱るような目つきで新田の顔を覗き込んだ。
「君もしつこいな。わしが言いたいのは、アメリカさんにももう一度、全てを白紙に戻して考え直していただく、ということや。大局的な観点からみても、この条約はアメリカの中流層をも苦しめることになる。もしそれで財界が文句を言うなら、わしは経団連の若松会長に直接問い質すよ。『あなたは、日本国民、ひいては人類全体の幸福を考えているのか、それとも自社や一部の大金持ちの利益だけを考えているのか』と」
 岡本大臣の語気は強い熱気を帯びていた。声が大きくなったせいか、カウンターに座っていたカップルがこちらを振り返っている。その後ろを、黒いスーツに身を包んだ体格のいい男が二人、辺りをうかがうようにして入って来た。そのうちの一人が、一瞬、鋭い目つきでこちらを見たので、記者は思わず目を逸らした。
 そんな、何かに怯えるような表情の記者を黙って見据えていた岡本は、すぐに柔らかい笑みを取り戻しながら、
「ちょっと熱うなってしもうたな」
 そう言って旨そうに葉巻を一度吹かすと、紫煙が新田と岡本の間に幕を張り、互いの顔が一瞬見えなくなった。その煙を掻き分けるようにして、岡本が再び身を乗り出した。
「国益というものを見据えた時、そこには常に優先順位というものがある。将来の孫の世代のためを思えば、おのずと答えは一つしかないんや」
 新田は岡本の目を見据えた。澄んだ目だと思った。
「どうや、君らはこういう発言は記事には出来んのやろう?」
「そんな事はありません。必要に応じて書く事もあります。ただ、オフレコとおっしゃったので」
 記者は一瞬気圧された感じになったが、辛うじて否定した。
「おう、普段は守らへんのに、そういうところでオフレコと言えるのはなかなかのセンスや。つまり、君はTPPA合意をやらんというさっきの話をスクープにしたいわけやな。それで、遠巻きにお伺いを立てているんやろ」
 記者は押し黙るしかなかった。それを見て、岡本はまた大きな声で笑った。
「よっしゃ、ほんなら書け書け!」
 そう言って岡本は満面の笑みをたたえた。
「わしはクソ真面目な君が気に入った。ホンマは明日の夕方、東京に帰ってから発表するつもりやったけど、こうなったら、若い君に手柄をやろう。大いに書いたらええ」
 相手は新田の心の中を完全に読み、手玉に取って遊んでいる。
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登場人物紹介

高島昇(内閣総理大臣)

通商産業省のエリート官僚出身の政治家。義父の中田力元総理からは『ガリ勉・高島』と呼ばれ、その政治地盤を継ぎ、与党・自由憲政党の一大派閥「桃園会」を率いる。今は亡き心の妻・佐々木通子を今日もなお思い続け、その間にできた息子・佐々木大介のことをずっと気にかけている。性格は冷静沈着、頭脳明晰であり、肚も据わっている。かつては対米通商交渉で米国側と戦い、ワシントンのシンクタンクなどの機関から引き抜きのオファーを受けたため、中田総理の命令で二年間の米国官費留学をした。

岡本哲之介(財務大臣兼TPPA担当大臣)

高島昇総理とは大学時代からの盟友であり、国民的人気が高い政治家。第二次高島内閣では財務大臣兼TPPA担当大臣を務め、巧みな交渉で米国通商代表を振り回す。神楽坂に長年愛妾・松島さゆりを囲っており、民主連合党党首の秋山繁三郎から国会でその関係を槍玉にあげられたことも。英国のチャーチル首相と革命家チェ・ゲバラを真似て、葉巻とウイスキーをこよなく愛する。東京経済新聞記者の佐々木大介を自分の秘書にしたいと考えている。中田理樹元総理からは『あきんど・秋山』と呼ばれていた。

立浪義彦(経済産業大臣・国家公安委員長)

東大法学部からキャリアとして警察庁に入り、二七歳の若さで警備局警備課長として大阪府警に赴任。三七歳の時に衆議院議員に立候補し、岡本哲之介の応援を得て政治家に転身した。一年後輩の白石一成警察庁長官とは、かつて成田闘争で共に戦った。政策グループ「桃園会」のメンバーで、東大柔道部出身。

秋山繁三郎(最大野党・民主連合党党首)

学生時代、酒場で出会った高島昇、岡本哲之介と共に義兄弟の契りを結び、政策グループ「桃園会」を結成。弁護士としての能力を生かしながら、中田力総理の親衛隊として政界に打って出るが、中田の失脚後、野党に寝返った。中田元総理からは『任侠・秋山』と渾名され、マスコミからは『政界の闘犬』と呼ばれている。国会では、与党を率いるかつての盟友・高島の政策や岡本の女性問題を厳しく追及している。

佐々木大介(東京経済新聞遊撃記者)

岡本哲之介に目をかけられていたが、社内でやっかみを買い、シンガポール支局に二年間飛ばされる。しかし、外務大臣であった実の父・高島昇が新総理に就任したことで、東京本社の政治部に戻された。大学時代からの親友である週刊誌記者・沼沢善明、そして神戸大学院生のアシスタント・堀田慶子とともに岡本大臣の死の真相を追う。昔、自分を裏切った元婚約者の新井千佳子に愛憎混じった想いを持ち、また子供の頃に自分と母を捨てた父・高島昇に対して強い反感を持っている。

堀田慶子(神戸大学大学院生)

岡本大臣が命を落とした現場のホテルで佐々木大介と知り合い、専属アシスタントとしてその調査を手伝う。大学院では政治学を研究しており、近頃流行の『草食系』『肉食系』などの言葉で相手を見たり、見られたりするのもイヤだという新聞記者志望の二六歳。危険な真実に向かって突き進んでいく佐々木を案じながら、徐々にその姿に惹かれていく。

沼沢善明(週刊日本芸能記者)

佐々木とは大学時代からの親友。東亜中央新聞の記者を経て、一年間アフガニスタンの戦場を取材。その後、週刊誌記者となり、様々なアングラ案件を取材。常に名誉毀損の訴訟案件を五つ以上も抱えている。隠れ愛妻家でもある。

木内妙子(東京経済新聞政治部記者)

二〇代の頃から『生涯独身』を宣言しているキャリアウーマン。その古風な顔立ちのせいで、歴代総理の中にもファンが多く、普通の取材では取れない情報で大型スクープを何本もモノにし、新聞協会賞まで穫った事も。一方で、その勝ち気で胆の据わった性格から、周囲からは『美人だけど嫁や彼女にはしたくない』とか『怖い姐さん』と言われているタイプ。自他共に認める「永田町のジジイ殺し」。佐々木大介のことをイジるのが好きだが、実の弟のように可愛がっており、間接的に佐々木の調査を手伝っている。

新田純(東亜中央新聞大阪本社記者)

沼沢善明のかつての後輩。米国通商代表と環太平洋経済連携協定(TPPA)の合意をすると期待されていた岡本哲之介に対して突撃取材をする中で、偶然に『自殺』を”スクープ”する。東亜中央新聞東京本社の水野部長に目をかけられるも、その誘いを拒否したことから何者かに狙われ、取材ノートをすべて佐々木大介と堀田慶子に手渡す。

鳥谷龍彦(岡本建設興行社長・岡本哲之介後援会会長)

二三年の長きにわたって岡本大哲之介後援会の会長を務めてきた関西経済会の実力者。若い頃、岡本に助けられたことを恩義に感じてその政治信条と人柄を信奉するようになり、岡本建設興業社を切り盛りしながら、「鉄の結束」を誇るとされる岡本後援会を設立し、それを率いている。生前の岡本とは、枚方市の自宅豪邸の離れで密談することを最大の楽しみとしていた。


松嶋さゆり(岡本哲之介の愛妾)

岡本哲之介がもっとも愛し、かつ唯一心を許した女性でもあり、半世紀にわたり、陰ながらかけがえのない相談役としても岡本を支えてきた女傑。神楽坂の自宅を訪れた佐々木大介に対し、岡本の死の真相に繋がるヒントを与える。

沼沢芙美子(沼沢善明の妻)

大学時代、沼沢や佐々木大介とともに平山雅彦教授のゼミに所属。沼沢との初めての子供を胎内に宿している。

平山雅彦(元内閣官房参与)

佐々木大介や沼沢善明の大学時代の恩師。「桃園会」のメンバーと思想的に近く、岡本哲之介の信頼を得て内閣官房参与となり、「S S計画」にも関与する。その歯に衣着せぬ発言でマスコミでも人気を博したが、みずからのゼミに在籍していた女子大学生への強姦未遂容疑で逮捕・起訴される。今は長野県須坂市の田舎で妻と二人で隠遁生活を送る。

佐々木通子(佐々木大介の母)

明治の頃から政治家がお忍びで通う、芝の料亭の娘。梨園の名家に嫁ぐ予定であったが、中田力総理の見習いとしてやってきた学生時代の高島昇と出会って恋に落ち、その子供を宿すも、母親の猛反対を受けて家出をして流産をする。その後、通産官僚となった高島が数年がかりで見つけ出すが、高島はすでに中田総理の一人娘と結婚をしており、二人は秘密の関係を維持し続ける。やがて大介をもうけるが、大介が学生時代の時に病でこの世を去る。その死の瞬間までひたすら高島を思い、大介に対しても「決してお父さんの邪魔をしてはいけない」と言い続けていた。

新井千佳子(佐々木大介の元婚約者)

在日朝鮮人で、佐々木の大学の二年後輩。その美貌から学生仲間の憧れの的であったが、最初から佐々木に好意を寄せていた。大学卒業後、偶然に佐々木とバーで再会し、約一年間の同棲を経て婚約。しかしそのわずか一ヶ月後、他の見知らぬ男と関係を持ってしまい、そのことを知った佐々木との関係は一瞬にして崩壊してしまう。

エスター(佐々木大介の学生時代の交際相手)

スウェーデン人留学生。平均的な身長の佐々木より五センチも背が高く、飛び抜けた日本語能力を有する。特に佐々木が東京経済新聞に就職してからというもの、しきりに結婚を求め、両親がスウェーデンから「将来の義理の息子」に会うために来日することになったが、その直前に母親が急病になったために急遽一時帰国。それ以来、佐々木とはまったくの音信不通となってしまう。  

遠藤(沼沢の先輩で極左活動家)

大学時代に沼沢が冷やかしで時々顔を出していた無線愛好会のOB。あらゆる無線の傍受を得意とし、この世に傍受出来ない無線はないと豪語する左翼過激派。若い頃は爆弾まで作っていた。S Sー8が強奪された現場近くにいて、その一部始終をビデオに収めており、それを昔の後輩である沼沢に売りつける。 

光村朝夫(宗教団体「光の社」の教祖)

巨大宗教団体「光の社」を設立し、麻野幹事長の父・孫四郎副総理と二人三脚で教団の勢力を拡大、今や政財官界を含む総数五〇〇万もの信者を抱えているが、その実態は悪魔崇拝の団体であり、その本尊は、かつて孤児であった光村の世話をしてくれた地方の寺の娘の頭蓋骨だとする噂がある。これまでに六〇〇〇人の信者の女性と関係を持ったとされ、その際に得る体液で金箔を髑髏本尊に貼りつけているとも。かつて東京地下鉄テロ事件で起こした宗教団体「ヘキサ神仙の会」を背後から操っていた疑いが持たれている。

梅本喜代志(宗教団体「光の社」のナンバー2)

教団内では教祖光村に次ぐ実力者であり、いくつもの会社を経営する五〇代半ばの男。都内に自社ビルを五つ所有しており、資産は一〇〇億円以上とも。日頃から大金をちらつかせて若い女たちを常に侍らせながら高級車を乗り回し、新宿歌舞伎町のSMクラブに通っている。警察内部に多くの情報源を持ち、その内部事情にも詳しい。

かつて「ヘキサ神仙の会」が岐阜県内の湖底に沈めて隠匿したカラシニコフ自動小銃50丁を密かに回収したと疑われている。

麻野紀夫(自由憲政党幹事長)

かつて副首相を務めた父・孫四郎が作った有力派閥「合一研究会」を率いる党内の実力者。高島の属する派閥「桃園会」とは永遠のライバルという関係にある。

津川公一(宗教団体「光の社」の元教会部長)

東京大学法学部時代に光の社に入信し、そのまま大蔵省に入省。キャリアとして一五年勤務した後に退職し、その後は光の社の教会部長として、また教団内最大の実力者として組織の急拡大を推進、特に官僚や警察、自衛隊、それに政界内での影響力ある信者獲得に大きな力を発揮していた。しかしここ数年、五歳年下の有能な梅本喜代志との権力闘争に破れ、前年末には教団から事実上の除名処分を受けて脱退。その頃に岡本哲之介と知り合い、教団内部の財務状況を含む違法行為を告発する資料を作成した。かつて男女の仲であった目白の料亭の女将を使って教団の動向を調査している。五七歳。

ジョージ・フランシス(アメリカ元国務副長官)

ウォール街と情報機関の意向を受け、日本に対しては常に圧力をかけてくるジャパンハンドラーの一人。ワシントンの意向をバックに、日本政府に対して事実上の命令書『フランシス・レポート』を送りつける。岡本哲之介のことを目障りだと感じている。

山賀宏(内閣官房長官)

桃園会のメンバーであり、高島内閣を支える影の調整役。

川村猛(防衛大臣)

防衛大学校出身で、陸上自衛隊の幹部として勤務した経験を有する防衛族の政治家。勝気な性格であり、軍事に関しては高島内閣では誰よりも詳しい。

牧野(総理首席秘書官)

三〇年以上も高島昇に仕え、高島の代わりに佐々木通子・大介親子を陰ながら支えてきた忠臣。

山口和也(日本核燃料研究機構安全管理課長)

二〇年以上前に、ヘキサ神仙の会の「スリーパー」として日本核燃料研究機構に入所、その翌年にフランス原子力庁に研修派遣されるが、ヘキサ神仙の会のパリ支部に数回出入りしてところを、その行動を監視していたフランス情報機関に把握される。ヘキサ神仙の会の解散後は普通の職員として核燃料研究機構に勤務するが、三年半前に「光の社」関係者によって六本木の違法カジノに連れ込まれて借金まみれになる。その頃、同時日本核燃料研究機構安全対策部門を任されるようになる。

白石一成(警察庁長官)

元警察庁キャリアだった立浪経産大臣の一期後輩のキャリア組。剣道、柔道、空手、合気道を合わせて一七段の猛者であり、立浪とはかつて盛んだった成田闘争の混乱の中で絆を深めた。前年に妻・咲子に先立たれ、今は三人の娘に世話をされながらも一人暮らしをしている。立浪の意向を受け、奪われた「SS-8」の捜索に全力をあげる。

蒼井裕(警視庁外事四課長)

長年「ヘキサ神仙の会」とその背後に見え隠れする「光の社」、さらに外国情報機関の動きを追いかけてきた公安のキャリア幹部。

横井力也(警視庁警備部警護課第一係)

かつて岡本哲之介の警護を命じられ、その後に高島総理の担当となったSP。

伊達一也一等陸尉(陸上自衛隊特殊作戦群第三中隊)

防衛大学校を卒業後、陸自幹部候補生学校で次席の成績を収め、第一空挺団から西部方面普通科連隊を経て、特殊作戦群入りを果たした将来有望な三二歳の幹部自衛官。これまで、水温わずか七度の寒中水泳などでも一番に飛び込んで率先垂範してきた幹部だが、ベテラン隊員からも「無茶し過ぎだ」と半ば呆れられる事さえある。福井の貧しい農家出身で、父を早くに喪って以来、母によって女手一つで育てられた。アメリカ陸軍特殊部隊への派遣留学も経験している。

中島美香三等空佐(航空自衛隊第1輸送航空隊第401飛行隊飛行班長)

防衛大学校を卒業し、航空自衛隊に入ってC 130H輸送機のパイロットになった三五歳。過去にイラクに派遣され、クウェートからバグダッドまでの多くの輸送ミッションに就くも、その間に二度、地上の武装勢力からレーダー照射を受け、緊急回避を行った経験がある。操縦技量と緊急時の判断には定評があり、将来の飛行隊長候補とされている。夫は同じ小牧基地に所属する空自の会計課担当幹部で、二人の娘がいる。

木村大悟二等空尉((航空自衛隊第1輸送航空隊第401飛行隊所属)

災害時の人道支援で飛び回る任務に憧れ、最初から輸送機任務を希望した航空学生出身のパイロット。ひょうきんで快活な性格で、高校時代から付き合っていた女性と昨年の初夏に入籍した新婚ホヤホヤの二八歳であり、先輩の中島美香三佐にとっては可愛い弟のような存在。妻は現在妊娠中で、臨月を迎えている。中島美香3等空佐とともに「SSー8」の輸送任務に就く。

奥平毅三等陸佐(防衛省情報本部)

特殊作戦群から小平学校を経て、防衛省情報本部に配属された幹部自衛官。防衛大学校では伊達一也一等陸尉の3期先輩で、同じボート部に所属していた。SS-8輸送任務の警備要員として、中島三等空佐が操縦するC 130輸送機に乗り込む。

鬼島俊(日本人傭兵)

フランス外人部隊第2落下傘連隊(オート=コルス県カルヴィ)出身で、長年、東南アジアや中東で戦争をしてきた傭兵。SS-8奪取作戦に計画段階から関わっており、男女群島の戦闘で特殊作戦群と銃火を交える。

ジョセフ・キム(米国民間軍事会社社員)

カリフォルニア州ロサンゼルス出身の韓国系米国人(四世)。米中央情報局の非合法作戦を中心に、世界中の紛争地帯で活動してきた米海軍特殊部隊出身の民間軍事会社社員。

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