Episode13: 一日が終わる

文字数 1,133文字

「そういや寝床はどうしてるんだ」

 義父の部屋は洋室だが、ベッドは無い。

「ご主人様は毎晩布団を敷いて寝ておられますよ」
「ほう」

 なんでも、”和”の生活を忘れないようにするためだとか。
 こんな、絵画に装飾にと(うるさ)い洋室の住人にしては雅なもんだ。

 使用人たちと義父を布団に寝かせる。
 既に時計は早朝3時を指していた。


「にいさん、私どこで寝ればいい?」
「ああ……その問題が残ってたな」

 まさか隠し部屋に戻らせるわけにもいかない。

「支倉、使用人部屋は全部埋まってたよな」
「ええ、3室とも」
「……結良、俺の部屋使え」
「いいんですか」
「俺はリビングで寝るから平気だ」

 部屋へと案内してやる。
 だが、結良は浮かない顔をしている。

「どうした。俺の部屋じゃないほうがいいか?」
「そうじゃないです。ただにいさんが……」
「俺が?」
「リビングで寝るのは可哀そうだなって」
「はいはい、子供がそんな心配しない」
「むぅ……私子供じゃないし」

 そういうところが子供なんだってばよ。
 歳的には成人なのかもしれないが、主に精神的な面でな。

「にいさんの部屋、何もないんですね」

 俺の部屋を見まわしていた結良。
 たしかに俺の部屋は物が少ないほうだと思う。

「貧乏癖でな、余計なものは買わねぇんだ」
「へぇ~、にいさんらしいかも」

 俺らしい、ねぇ。あまり喜べない特徴だな。

「そういや結良、下の部屋ではどうやって生活してたんだ?」

 ずっと気になっていたことを聞く。

「こっちと同じように使用人がいて、外に出られない以外は割と自由に生活してたよ」
「使用人って……。さっきの三人以外にも居たってことか」
「うん、違う人。そもそも女の人だし」
「でも下行ったとき居なかったよな」
「なんかね、今日――いや、もう昨日だけど――辞めるって言ってた」

 おそらく義父が雇って、下の部屋で結良の世話をさせていたんだな。

「で、結良が外に出てきたのは……?」
「元々、今日で外に出られることになってたらしいの。私が上に上がった時にはお義父さん正気だったのに……」

 まあ、そもそもあのテーブルを動かすスイッチは義父しか知らなかったわけだしな。義父が意図的に開けたんだろう。
 もし義父が結良を閉じ込めたままで今の状態になっていたとしたら――。
 下手をすれば、結良は密室で死んでいたかもしれない。

「……よかった。お前が生きててくれて」
「にいさん……」
「おやすみ。もう遅いから早く寝ろよ」
「うん。おやすみなさい」


 第二十二層の水没、結良との再会、義父の精神崩壊。
 長かった一日が、ようやく終わる。
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