第2話-③
文字数 904文字
そこはもう、人の住めるところではなかった。
厳かだった門の柱は朽ち果て、軒の瓦は砕け落ちていた。
草むらは膝丈まで伸び、踏み入るのも難儀なほど。
しかし、そこはたしかに、真女子の屋敷だったはず。
どこか見覚えがある。
熊檮は通りすがりの者を呼び止めては・・・
・・・と、尋ねて回った。
奥へ進むと、そこはさらに荒れていた。
広い前庭があったが、池の水は干上がり、水草はみな枯れている。
生い茂った藪と折れ曲がった松の木が、私たちの行く手を遮っていた。
と、その格子戸を開いたときだった。
生臭い風が、わっと吹き込んだ。
みな後退った。
なにか得体の知れない者がそこに潜んでいると、肌に感じたのだ。
豪胆な熊檮は臆することなく奥座敷へ向かい、襖を開いた。
塵が積もり、鼠の糞で汚れた畳に、あの日見たのと同じ煌びやかな几帳が立っていた。
そして、その陰に、夜桜のように妖艶な女が、真女子が坐していた。
熊檮が真女子の肩にふれようとしたとき、
突然、地も裂けんばかりの雷鳴が鳴り響いた。
みな気を失い、その場に倒れてしまった。
どれくらい時が経ったのだろう。正気を取り戻したのは私のみ。
辺りを見回せば、すでに真女子の姿はなかった。
代わりに、高麗錦、呉の綾、倭文織、固織、盾、槍、靫など、
神宝と思しき品々が散乱していた。
雨が、降っていた・・・・・・