第30話 許すとか許さないとか
文字数 1,273文字
今日はまさに、今日起こったことです。
私たち夫婦は、明日の告別式の段取りをもう一度確認したいと思いました。
そこでエンバーミングが終わった頃を見計らい、会場へと向かったのです。会場は義父の安置所でもありました。
訪問者の受付ノートを見たとき、私たちははっとしました。
実は義妹の一家とはずっと絶縁していたんですが、そこには義妹の旦那さんが来た形跡がありました。
お義父さんの顔だけ見て、すぐに帰ったのかな?
夫とちらっと眼を合わせ、私はそう思いました。それも義妹ではなく、その旦那さんが一人で来てくれたんじゃないかと。
できればそうであって欲しかった。今さら義妹と顔を合わせたところで、何を話せば良いのか分かりません(といっても旦那さんから告別式には一家で出席するとの返事をもらっていたので、会うことは確実だったのですが)。また彼女からひどい言葉を浴びせかけられるかと思うと、私は緊張せずにはいられないのです。
夫は黙っていましたが、同じことを思っていたはずでした。
私たちが部屋に向かうと、中でさっと立ち上がった人々がいました。
義妹夫婦と、その子供たちです。
「あれ~。みんな来てくれたんだ~!」
思わず私はそう言いました。少しでも緊張を取り去りたかったし、こうして来てくれたのなら、とにかく歓迎の意を表したかったのです。
義妹一家は小さく笑って、また小さくうなずきました。小学生の女の子二人も同様。
義妹はハンカチで赤くなった目を押さえていました。すぐそこで眠る義父を見て、こみあげてくるものがあったようです。
彼女は私に向き直ると、ぺこりと頭を下げました。
「長い間、お父さんを看病してくれて、ありがとうございました」
とても誠実で、丁寧な態度でした。
そうなんだ、と私は目を伏せました。義妹は義父にも私たち夫婦にも、ずっと冷たい態度を取り続けてきたけれど、本心からではなかったのです。たぶん心の底では気にしていたんでしょう。どうなっているかと日々気をもみ、心配していたんでしょう。
それだけの誠意があるのなら、なぜもっと早く親と向き合えなかったの?
親が生きている間にしか、親孝行はできないんだよ?
嵐のように込み上げる、数千、数万の語を飲み込んで。
私はうん、と小さくうなずきました。
彼女を受け入れるべきだと思いました。許すとか許さないとかじゃない。これが彼女の精一杯だったのです。親の介護という大問題が目の前に立ちはだかったとき、彼女は私たちの手を振り切って逃げるという方法でしか自分を守れなかったのです。
私に頭を下げると決意するまで、彼女には相当な葛藤があったことでしょう。だからこう思うべきなのです。よく言ってくれたね、と。
あとは義父と義母の性格の違いについて、みんなでちょっぴり盛り上がりました。
「ほんと、会話の噛み合ってない夫婦だったよねー」
眠る義父も「そうそう」と、笑ってうなずいているのではないでしょうか。欲を言えば義父が生きているうちに、仲直りの場面を見せてあげたかったけれど。
明日は良いお式になりますように。
私たち夫婦は、明日の告別式の段取りをもう一度確認したいと思いました。
そこでエンバーミングが終わった頃を見計らい、会場へと向かったのです。会場は義父の安置所でもありました。
訪問者の受付ノートを見たとき、私たちははっとしました。
実は義妹の一家とはずっと絶縁していたんですが、そこには義妹の旦那さんが来た形跡がありました。
お義父さんの顔だけ見て、すぐに帰ったのかな?
夫とちらっと眼を合わせ、私はそう思いました。それも義妹ではなく、その旦那さんが一人で来てくれたんじゃないかと。
できればそうであって欲しかった。今さら義妹と顔を合わせたところで、何を話せば良いのか分かりません(といっても旦那さんから告別式には一家で出席するとの返事をもらっていたので、会うことは確実だったのですが)。また彼女からひどい言葉を浴びせかけられるかと思うと、私は緊張せずにはいられないのです。
夫は黙っていましたが、同じことを思っていたはずでした。
私たちが部屋に向かうと、中でさっと立ち上がった人々がいました。
義妹夫婦と、その子供たちです。
「あれ~。みんな来てくれたんだ~!」
思わず私はそう言いました。少しでも緊張を取り去りたかったし、こうして来てくれたのなら、とにかく歓迎の意を表したかったのです。
義妹一家は小さく笑って、また小さくうなずきました。小学生の女の子二人も同様。
義妹はハンカチで赤くなった目を押さえていました。すぐそこで眠る義父を見て、こみあげてくるものがあったようです。
彼女は私に向き直ると、ぺこりと頭を下げました。
「長い間、お父さんを看病してくれて、ありがとうございました」
とても誠実で、丁寧な態度でした。
そうなんだ、と私は目を伏せました。義妹は義父にも私たち夫婦にも、ずっと冷たい態度を取り続けてきたけれど、本心からではなかったのです。たぶん心の底では気にしていたんでしょう。どうなっているかと日々気をもみ、心配していたんでしょう。
それだけの誠意があるのなら、なぜもっと早く親と向き合えなかったの?
親が生きている間にしか、親孝行はできないんだよ?
嵐のように込み上げる、数千、数万の語を飲み込んで。
私はうん、と小さくうなずきました。
彼女を受け入れるべきだと思いました。許すとか許さないとかじゃない。これが彼女の精一杯だったのです。親の介護という大問題が目の前に立ちはだかったとき、彼女は私たちの手を振り切って逃げるという方法でしか自分を守れなかったのです。
私に頭を下げると決意するまで、彼女には相当な葛藤があったことでしょう。だからこう思うべきなのです。よく言ってくれたね、と。
あとは義父と義母の性格の違いについて、みんなでちょっぴり盛り上がりました。
「ほんと、会話の噛み合ってない夫婦だったよねー」
眠る義父も「そうそう」と、笑ってうなずいているのではないでしょうか。欲を言えば義父が生きているうちに、仲直りの場面を見せてあげたかったけれど。
明日は良いお式になりますように。