第八曲 情景(湖の)(4)
文字数 715文字
「だろうね」ことごとくカス、って言ってたな。
「だから彼があなたを拾ってきたとき、あたし最大級驚いた」
吹きました。「拾ってきたはひどいな」
「ごめん」
「いいよ、事実だから。拾ってもらって感謝してる」
「あなたって」まさに、しげしげ、という感じで目をのぞきこまれました。「本当にいい子なのね。パパさすが見る目ある」
「いい子かどうか……わからないよ」
「わかる」
「そんな年下……扱いしないで……九カ月しか、ちがわないんだから」
「しちゃだめ?」
「しても……いいけど」
「なんでさっきからキスしようとするとしゃべるの?」
「させないようにと思って」
「いやなの?」
「ちょっと待ってよ」
「じゃ何しに来たの? あたし専用の男になってくれるんじゃないの?」
「もうそういう話になってるの?」
「なってないの?」
「ぼくら会うのこれでまだ二度目だよ?」
「三度目よ」
「そうか。でも、でもちゃんと話したのは今日が初めてだ」
「だから?」
「ふつうは、おたがいのことをもっとよく知ってから——」
「あたしのことは話したし、あなたのことはパパから聞いた。とっくにキスもしたのに」
「あんな一方的に」
「あやまったじゃない。怒った?」
「怒った」
「いまも怒ってる?」
「怒ってる」
「うそ」
無理だ。勝ち目なし。
「だってあたし嬉しくて、あなたが好きで好きで死にそうだったからキスしたかったの」
「それ先に言ってよ」
「じゃもう言っちゃったからキスしてもいい?」
完敗だな。
「オディール。ずるいよ」
「ずるくない。おあいこよ、ジークフリート。あたしも苦しいの」