女宇宙警官の恋。

　格闘家の父に幼い頃から訓練を受け、大会で優勝した事もあった私は女性警察官になり、故郷の惑星に配属されて一年が過ぎた。この惑星では宇宙犯罪組織による凶悪事件やテロが未だに多い。

　今日の午後、戦闘用アンドロイドの鎮圧で少し疲れていたので食事は外で済ます事にして、オープンしたばかりのカフェに初めて入ってみた。店内は混んでいたがカウンターに空席があったのでそこになんとか座れた。
　支給された戦闘用スーツは全身をスキャンして体にフィットするように造られている。多少は自動調整されるけど、あまり太ると再調整が必要なので軽食にしておこう。

　食事が出された時、隣の先客の男性が飲み物を自分の服にこぼした。歳の離れた弟にそうしていたように拭いてあげたら、こちらが恐縮してしまうほどに感謝されてしまった。その後少しばかり話をすると思わず会話が弾んだ。
　笑顔の爽やかなこの青年は服装も清潔感があり、胸元のネックレスがとてもお洒落で似合っている。このネックレスは今銀河中で流行っていて、署内にも数名付けている男性がいる。

　青年はこの惑星を平和で住みやすくする為の活動をしているらしく、それを熱い眼差しで語ってくれた。私も警察官として平和の為に働いているので凄く共感できる。しかも青年は格闘技を昔からやっていると言う。その話題でも大いに盛り上がってしまった。
　今度格闘技の惑星チャンピオンを決める大会があるから、一緒に観に行かないかと誘われた。私もその大会には興味があったので迷わずＯＫをした。


　大会は三年連続チャンピオンを下して新チャンピオンが誕生した。私も彼も以前から応援していた選手だったので二人で喜びあい、その後何度も彼と会った。

　これはデートって呼んでいいのかな？　特に付き合って下さいとか言われてないけど、それは学生の頃だけ？　大人になると言わないんだっけ？
　私は幼い頃から格闘技一筋だったから、まだ男性とお付き合いをした事がない。このまま付き合っていたら、キ、キ、キキキキ、キッスとかされちゃうんだろうか？
　世間では勝負下着とかって言葉があるけど、私も用意しておいた方がいいのかな？
　って、何ふしだらな事考えてるのよ私！　破廉恥よっ！　破廉恥だわ私っ！
　ベッドの上で真っ赤になって転げ回る私っ！


　今日は珍しく大きな事件はなかった。これから彼と待ち合わせをして食事に行く。今回はちょっと頑張ってお洒落をしてみた。彼は何か言ってくれるだろうか？
　その時緊急通信が入った。ショッピング街で政府の要人を狙ったテロが発生しているとの事だ。襲撃犯は強化改造されているらしい。このすぐ近くだ。

　私は転送された戦闘スーツを光に包まれ装着した。スーツで強化された脚力ならば、現場に瞬時に到着できる。
　現場は建物から激しい炎が上がり、車両も数台破壊されている。要人の警護のサイボーグが数名倒され、最後の警護は狼型の犯人と闘っている。

　私は銃で犯人を狙った。だが警護の首を噛み砕いた獣人は驚くべき速度で私に接近し、銃を弾き飛ばし、更に首筋を狙ってきた。間一髪でかわして正拳突きを放つが、獣人には当たらず逆に鋭い爪でスーツに深い傷を刻まれた。爪も牙も超高周波振動している。
　その後も私の攻撃は獣人に当たっても急所を外されダメージを与えられない。しなやかで俊敏な獣人の動きは格闘技の試合とは全く違う。私には自信があったし、少しうぬぼれていた部分もあったが実戦ではこの有様だ。

　私は隙を突かれて倒され、獣人の鋭い牙が目の前に迫る。だが咄嗟に抜いた剣が獣人を切り裂いた。生きたまま確保したかったが、私の未熟さゆえに犯人を死なせてしまった。要人は無事だが気分はやるせない。
　後の事は他の署員に任せ、報告書は明日提出する事にして現場を離れた。


　彼との待ち合わせ場所の公園には遅れずに到着できた。戦闘スーツの内部の温度と湿度は一定に保たれているが、それでも少し汗をかいた。体が汗臭くはないだろうかとちょっと心配だ。
　二十分過ぎたが彼はまだ来ない。そういえば先程倒した獣人は、彼がいつも付けているネックレスと同じ物をしていた。強化改造された獣人でも流行りのネックレスを付けているんだなと、ぼんやりと思う。犯人を死なせてしまった事を彼に慰めてもらいたい。早く会いたい。

　一時間過ぎても彼は来ない。電話をしてみるが出てくれない。何か急用が出来たのかと、三時間待ってみた。電話は最初呼び出し音が鳴っていたが、途中でこの番号は現在使われていないに変わった。どうやら私はふられてしまったみたいだ。とても気の合う素敵な男性だと思っていたが仕方が無い。私が一方的に好きになっていただけだったようだ。

　でも、彼が目指していた平和の理想に、私も警察として少しでも役に立てればいいな……。