第1話 ❀ クッキーをくすねた日に

文字数 1,163文字

はじめはただの出来心だったのだ。


それは1度盗むと、敬虔なシスターでさえ罪を重ねてしまう。

或る街の歴史ある修道院で、神へ奉仕する一人の若いシスターがおりました。

お呼びでしょうか、マザー

彼女の名は、シスター・ガブリエラ


本当の名前は、メアリー・デイヴィスといいます。


お昼の奉仕のあと、メアリーは【院長室】に呼ばれたのでした。

そこにおかけなさい
メアリーは、椅子にうながされた。

実は、とても大事なお話があって、あなたをお呼びしたんです。

(一体、なんのお話かしら? まさか・・・)
メアリーは、服のポケットをちらりと見た。
(夜な夜な現れるキッチンの「お菓子泥棒」は私だと・・・・・・ついにばれた?)

メアリーは、ごくりとつばをのみこむ。


いつもはに怪盗のごときすばやさで、作り置きのクッキーを盗んでいく。


だがクッキーを夜食にしてしまったので、昼間にも台所へ侵入してしまった。

(しまった。クッキーをくすねた直後に呼ばれるなんて。

 まさか院長・・・ポケットからほのかに漂う、このバターの香りに気付いている?)

盗んだクッキーは、まだ食べきっていなかった。


ハンカチーフにくるんだが、匂いがもれているのではないだろうか。

あなたのご両親から、お手紙が届きましたの。


あなたに縁談が上がっているそうですよ

わ・・・わたくしに、ですか?
ええ。なんでも良家のご子息だそうで。
良家の。お、驚きました。思いもしなくて。

そうでしょうね。こうして修道院を去る方は、あなたで何人目かしら。


寂しいけれど親御さんの意思ですもの。


実家へお戻りなさい、メアリー。すぐに支度を。

はい・・・

メアリーは物鬱げに返事をすると、院長室を出た。


右、左を確認。廊下には誰もいない。

よっしゃ!

小声でつぶやき、ガッツポーズ。


そして微笑みをたたえたまま、ツカツカと院長室の前から去る。

(ようやく話が来たか。もとはと言えば「花嫁修業に」と、ここに送られたんですもの。

 掃除、洗濯、料理、教養、おかげで全部身につけたわ。

 ああでも、清貧の掟だけはいただけなかったわね!)

清貧の掟。貧しさを友とせよという教えである。

(ここの食事は貧相すぎよ! これでも成長期なのよ。

 花嫁修業に来たのに、あやうく花が散るところだったわ!)

誰もいない聖堂の奥へ進み出ると、ひざをつき両手を組み合わせた。

よっしゃぁ、肉だ!! 肉をくえる!!


これでようやく俗世にもどり、たらふくを食べられます。


神様ありがとう!!

メアリーは、肉に飢えていたのだ。

で。お相手は誰かしらね? 


ま、誰でもいいわ。衣食住に困らなければ。

ぐぅうう~ きゅるるる~♪


メアリーの空きっ腹の歌声が、しーんとした聖堂いっぱいに響く。

こら、神様の前で歌うんじゃないの、音痴のくせに
メアリーは、鳴り続けるお腹をぽんっと軽く叩いた。
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登場人物紹介

シスター・ガブリエラ


本名:メアリー・デイヴィス

ルーク・リンフォード


伯爵卿の息子。

シスター・テレサ


修道女。負傷兵アルバートの手当てをした。

アルバート


 元軍人。顔が怖い。

 戦後、警察官になる。

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