姉御のお手伝い

文字数 2,492文字

 その後、少年は自らの家に戻り、リビングにある椅子に座って目を瞑った。シュバルツは、暫くそうした後で立ち上がり、孤児院の方へ向って行く。彼は、その中でも小さな頃から行き慣れた食堂を目指しており、到着するなり中に入った。しかし、そこには誰も居らず、彼はどこか寂しそうに調理場を覗く。すると、そこには女性の姿が在り、それに気付いた少年は笑顔を浮かべた。
 
「こんにちは、今日はやることないし来ちゃった」
 シュバルツは、そう言うと女性の方に近付いた。一方、女性はにっこりと微笑み、それから食材の保管された木箱を見下ろす。

「じゃあ、買い出しに行って貰おうかしら。やることがないんだし、適任よね」
 女性は首を傾げ、少年の返答を待った。対するシュバルツは面食らった様子ながらも頷き、短く息を吐いた。
 
「リタさんの笑顔には敵わないなあ……それで、何を買ってくれば宜しいので?」
 それを聞いたリタと言えば、戸棚の上部からメモ用紙とペンを取り出した。彼女は、そこに商品名や個数を書くと少年へ渡し、メモを受け取った者はそれに目線を落とす。

「ゴーダーチーズ10kgって……そんなに必要なの、これ?」
 少年は、リタの顔をじっと見た。彼の問いを聞いた者は力強く頷き、理由を述べていく。
 
「チーズは栄養豊富で、成長期の子供には良い食材だし、沢山有っても困らないのよ。それに、サンドイッチを作るのに便利だし、オムレツに入れても美味しいし、ケーキ作りにだって使えるのよ?」
 少年は溜め息を吐き、新たな疑問を口にする。
 
「じゃあ、カボチャ二十個なんだけど……確かに、カボチャは栄養もあるみたいだし、甘くて子供には人気が在るけどさ。これって、配達して貰う数だと思うんだけど」
 シュバルツの考えを聞いた者は、首をゆっくり横に振る。彼女は、そうした後で人差し指を立て、落ち着いた声で言葉を返した。
 
「配達してもらうのも良いけど、せっかく暇な子が居るんだもの。アランに、暫くは仕事が無いから来たら良いように使ってやってくれ……とも、言われているしね」
 少年は肩を落とし、それ以上の疑問を口にすることは無かった。その後、リタは商品を購入する為のお金を少年に渡し、領収書を貰うよう言いつけた。この為、少年はメモと受け取ったお金を持って買い物に向かい、何度か店と調理場を往復することによって買い出しを終える。
 
 その間、リタは子供達の為に夕食を用意しており、買い出しを終えた少年に対して軽く礼を述べた。彼女は、区切りのついたところで調理の手を止めると少年に向き直り、既に出来上がった料理を一瞥する。

「せっかくだし、ここでご飯を食べて行かない? 子供達より、多くよそってあげるから」
 シュバルツは、暫く考えた後で肯定の返事をなした。そして、買い物の際に得た領収書を女性に渡すと、他に手伝うことは無いかを彼女に尋ねる
 
「だったら、食器棚からスープ皿を出してくれると助かる。あれ、結構重さがあるのよね」
 リタは、少年から受け取った領収書を、先程ペンなどを出した引き出しにしまった。一方、少年は直ぐに皿を取り出し始め、それをスープが煮込まれている鍋の傍に置く。

「ありがと。後は、特に無いかな……子供達が来る迄まだあるし」
 そう言うと、リタは飴色をしたスープを掻き混ぜた。そうすることによりスープからは玉葱や鶏肉の匂いが立ち上り、それを嗅いだシュバルツの腹は小さく鳴る。
 
「子供達より先に食べちゃう? アランなら、味見と称して良くやってたけど」
 言いながら女性は笑っており、少年は恥ずかしそうに頬を赤らめた。シュバルツは、数秒の間スープを眺めてから頷き、それを見た者はどこか嬉しそうにスープを陶器の皿によそう。

「あ、プレート出してプレート。他の料理も乗せるから」
 それを聞いたシュバルツは、食器棚の下から白いプレートを取り出した。彼は、そのプレートを持ってリタの横に立ち、スープ皿が乗せられるのを待つ。
 
 リタは皿をプレートの上に置き、パンや平皿に乗せたハムエッグなども置いた。彼女は、そうした後で少年の体を上から下にざっと眺める。

「牛乳は……既に育っているから必要ないか」
 そう呟くと、彼女は銀色のスプーンとフォークをプレートに乗せた。一方、その呟きを聞いた少年は微苦笑し、プレートを調理台に置いて口を開く。
 
「成長したから飲み物ないとか……いや、スープは有るけど、やっぱり喉に詰まりそう」
 シュバルツは、悲しそうにリタの目を見つめた。対する女性は軽く笑い、そうしてから陶器製のマグを用意した。

「言われてみればそうよね。パンだけじゃなく、卵の黄身って良く焼くとパサパサしてるし」
 そう言うと、リタはマグを静かに調理台の上に置く。その後、彼女は身長より高い冷蔵庫のドアを開け、そこから取っ手の付いたプラスチック容器を取り出した。その中には、良く冷えた牛乳がたっぷり入っており、女性はそれを用意したマグに注いでいく。
 
 リタは、牛乳の入った容器をしまうとカップを手に取り、少年が用意したプレートの上に置いた。そして、腰の横に拳を当てると、少年の目を見た。

「はい、これで完成。主食に主菜に汁物に飲み物。デザートは無いけど、十分でしょ」
 シュバルツは直ぐに頷き、リタに礼を言って食堂へ向かった。食堂の椅子に座った少年は、その味を確かめるようにゆっくり料理を食べていった。
 
 料理を全て食べ終えた後、彼は少しの間を置いてから調理場に戻る。そして、使った容器を洗うと再び礼を言い、自らの家に帰ろうとした。

「あれ、帰っちゃうの?」
 しかし、彼が調理場を出る前にリタが言葉を発し、シュバルツは立ち止まって振り返る。

「せっかくだから、子供達の様子も見て行けば良いのに。で、ついでに後片付けとかして」
 その話を聞いた者は微笑し、小さく頷いた。
 
「じゃ、そうしよっかな。たまには、顔を出さなきゃって思っていたし」
 少年は調理場に留まり、食事の為に子供が集まる時間には食堂へ向かう。彼は、そこで子供達と他愛ない話をし、食事が終わった後はリタの手伝いをして家に帰った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

主人公
ネグレクトされている系男児。
しかし、救いの手が差し伸べられて成長する。

神父
主人公に救いを差し伸べるが、差し伸べ方がやや特殊な年齢不詳な見た目の神父。
にこやかに笑いながら、裏で色々と手を回している。

兄貴分
ガチムチ系脳筋兄貴。
主人公に様々なスキルを教え込む。
難しいことはどこかに投げるが、投げる相手が居ないと本気を出す脳筋。

みんなのオカン
主人公を餌付けして懐かせる系オカン。
料理が上手いので、餌付けも上手い。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み