第8話

文字数 1,841文字

 ホシバさんと仲良くなれたのは、虚言癖をもつフジちゃんの紹介からだった。学科外でも知り合いの多いフジちゃんは、私とホシバさんを繋げてくれた。ホシバさんとは一度は仲良くなったものの、どうやら悪口を言われているらしいぞとフジちゃんからの大変有難い迷惑助言のせいで仲が悪くなってしまった。
 ある日、フジちゃんが他のイケイケグループに所属している子にも私と同じような手口を取り始めて崩壊させた。サークルクラッシャーならぬ、グループクラッシャーである。おそらく今までもそういったやり方でしか友人を作れなかったのだろう。友人と呼べるのかも怪しいが。そうなると黙っていないのがイケイケグループのボスだ。フジちゃんに総攻撃を仕掛けた。すると、男子からの圧倒的人気で成り上がってきたフジちゃんも学科と学年を超えた猛攻に耐えられなかったのか、大学で目にする機会が減った。必須授業も取らず、最低単位だけの授業に出席していたようだった。

 そんな風向きが変わった頃、ホシバさんと偶然、大学内で会うことができた。
 「おぁ……最近どうよ。」
 「相変わらず……そっちは?」
 ぎこちない会話をしつつも、一度仲が良くなった同士。打ち解けるのにさほど時間はかからなかった。互いに次の授業の時間まで時間が空いていたということもあり、購買でアイスやらお菓子やらを買い集めて今までの空白期間を話し始めた。
 「あいつ、あたしが沙織の悪口言ったとか言わなかった?嘘だからね、まるっきり嘘」
 「言われたよ。あんた急に視線合わせなくなったじゃん。すごい傷付いたんだけどー」
 「ごめんごめん。付き合い長いフジの言うことを信じちゃってさ。普通に良い子そうなのにそんなことすんのかって勝手に幻滅しちゃってさー。あ、これは沙織のことね」
 どうやらフジちゃんは、ホシバさんに対して「あの子貧乏だから、フジの荷物を漁って勝手に小物とか取ってっちゃうんだよ~辞めてって言っても聞かなくて困っちゃう……友達になろうって言ってくれて嬉しかったのに、こんな仇で返されても困るっていうかー迷惑なんだよね」と全くのでたらめを相談して被害者面していたらしい。昼休憩中に黙々とご飯を食べていたら話しかけてきて、「沙織ちゃんと友達になりたいな」と言ってくれた彼女はどこに行ったのか。私の妄想が生み出した幻だったのか。「人って簡単に信じちゃいけないんだね。」と笑い合って、その日は授業があるからまたねとお開きになった。

 ホシバさんも、両親との接し方に悩んでいるようだった。親の話題で一気に仲良くなれた。外面の良い親たちを見てきて育ってきたのに、フジちゃんの嘘は分からなかったね。悪意があるから余計に気付きにくいのかな。きっとそうだーって。この時は焼き肉屋で瓶ビールを開けて安い肉をもりもり食べた。やっぱり気を許した人と食べるご飯は超美味しかった。
 ホシバさんの両親も話を聞く限り相当で、昔から父親は酒を飲んで暴れだし、母親の言うことは絶対で、何をするにも選択肢は母親に決められたそうだ。気象予報士になる夢を叶えるため、県外に進学を考えていた際、県外に引っ越しするのを阻止された挙句、受験票も破り捨てられた。互いに酒が入ってる為、しんみりとした空気は全く感じず、「そこまでするかよ普通!?」とさらに酒が進むくらいのネタ話に昇華することができた。
 「結局こうして気象予報士になる夢は潰えて、母親から押し付けられた社会福祉士の夢を背負ってるわけだけどさ。何だかんだ知らないことを学べるのは楽しいし、こうしてネタとして昇華できてるんだからいっか!ま、これも笑い話になるなら無駄じゃなかったってことよね!」
 と超ポジティブなこの子は精神科医から「躁鬱」と診断されていたけど毎日パワフルで超元気だった。
 「あーし、心療内科ってのに行ったら躁鬱って診断受けたの!びっくりしたけど確かにーって納得しちゃった!」
 「そっかぁ。今は元気だけど、家だと落ち込むって言ってたもんね。私も全般性不安障害あるって言われたことあるし、したたかに生きて行こうなー」
 たとえば、一緒にショッピングモールに行った際は3時間と待ち合わせに待たされた挙句、その手には「大好きなファッションブランドがあったから10万近くの買い物しちゃった~」と紙袋を大量に抱えてルンルン気分のホシバが駆け寄ってきた。うわーなんて面白い子だと衝撃を受けながらも一緒にいて飽きないなあと思った。これはこの子の個性なんだと思った。
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