好餌の下に必ずあるもの-1-
文字数 1,820文字
これはこれは。
なんとウマソウな餌 たちだろうか。
ウヨウヨとウジャウジャと、次から次へと湧いて出てくる。
――どうせ自分なんか――
――運だけのカスのくせに――
僻 み、嫉 み、妬 み。
そして、欲。また欲。
強欲、貪欲、我欲。
腹に入れれば入れるほど餓えていく、餓鬼のように貪 り狂う。
より多く奪ったモノが憧れの対象となり、称賛を浴びるのだ。
欲の底に澱 んでいるのは不安と不満。
それらが汚泥のように堆積して腐臭を放っている。
他人に依存しているのに、他人を見下しているモノたち。
真 などに価値はなく、虚構の礼賛が何より値打ちあるもの。
目指していた世界は、すでに現実のものとなっていたのだ!
……なんと心地よい。
力が漲 っていく……。
◇
勧誘合戦も一段落した夕方、今日の勧誘担当だった学生たちが、わらわらと部室に集まって来ていた。
「あの子たちいなかったねぇ」
「学部どこだろ」
「キツネ顔の大きい子、教育学部棟で見かけたって話だよ」
「えー、先生目指してんのかな。体育大のほうが似合いそうだけど」
「受験するよか楽だからだろ」
後片付けをする華やいだ女子大生たちが、辛辣な声に動きを止める。
「え」
「あの……?」
「ああ、付属上がりなんっすね。四人とも?」
部室の温度を下げた原因の男子学生の後ろから、プラカードを肩に担いだ別の男子学生が部室に入ってきた。
「らしいよ。そういや、うちの内進組は?」
「シンドー先輩なら、さっき正門のところでナンパに励んでましたー」
女子学生のチクリに、男子学生が不機嫌そうにキャップをかぶり直して舌打ちをする。
「ったく、マミも途中でどっか行っちまうし。内進生はこれだから」
「あ、そういえば、マミ先輩もあの四人のこと、知ってるって言ってましたよ、部長。特にあのハーフの子は有名だったって」
「フジタも知ってるってさ」
「部長」と呼ばれた学生のイライラした雰囲気に、周囲にいる部員達がみな微妙な顔になった。
「あいつら、相当の有名人だったらしい。あの大きい奴なんて、実家が関西の有名和菓子の……」
「え?!」
「ご贈答用定番の、あの?」
「え~、御曹司じゃん!」
「んなの目じゃないんだよ。あのシラガ頭は、AIKAグループのひとり息子らしい」
「AIKA?」
「リゾートホテル展開してるとこ。知らない?ベイサイドにもあるだろ、でっかいホテル」
「えええっ、セレブ集団?!」
「やだ、なにそのスペック!」
「でも、けっこうヤバい奴らだって話だから」
盛り上がっている女子学生たちに、部長がシラケた目を向ける。
「でかいのは大阪でやらかしたから、こっちに出てきたっぽいし、シラガ頭はビョーキで留年してるんだって。キンパツは成績底辺で、やっと推薦もらえたらしいし、極め付きはあのハーフ」
静まり返る部室に、まるで断罪するような言葉が反響していた。
「サボりで二年もダブってるくせに、試験受けりゃどの科目もほぼ満点だから、デタラメやってても学校は何にも言えないんだと」
「……でも、留年するほど休み続けたら、家に連絡がいくんじゃ?」
おずおずとした後輩からの反論を部長は鼻で笑う。
「金があって放任主義の家なんて、そんなもんだろ。高校生のときから、社会人ばっかとつるんでるようなヤツなんだから。そんなヤバい連中、声なんか掛けなくていいからな。……じゃあ、お疲れ」
部室を出ていった部長の足音が聞こえなくなったとたんに、部員たちの肩から一斉に力が抜けた。
「うへぇ、なんだったんだ?……いつもはあんな人じゃないのに」
プラカードを持っていた学生が呆気に取られてつぶやく隣で、女子学生ふたりがくすりと笑い合う。
「なんか、ヒガんでるみたいでちょっとカッコワル」
「ホントにね。らしいらしいって、全部聞いた話じゃん」
「あ、今日お疲れさま会やるって言ってたのに、部長。忘れちゃったのかなあ。……え?」
スマートフォンを取り出した手を押しとどめられて、ポニーテールの女子大生の目が丸くなった。
「いや、連絡しなくてよくない?」
プラカードを持っていた男子学生がニヤリと笑う。
「あのヒト機嫌最悪だったし、今日はオレら二年だけで行こうぜ」
「あ、マミちゃん先輩からも連絡来てる。……部室には寄らないで帰るって」
「カレシだよ、きっと」
「今年の三年ってさあ、頼れないっていうか、無責任っていうかさぁ」
新二年生たちは日ごろの不満を冗談めかして言い合いながら、荷物をまとめて部室をあとにしていった。
なんとウマソウな
ウヨウヨとウジャウジャと、次から次へと湧いて出てくる。
――どうせ自分なんか――
――運だけのカスのくせに――
そして、欲。また欲。
強欲、貪欲、我欲。
腹に入れれば入れるほど餓えていく、餓鬼のように
より多く奪ったモノが憧れの対象となり、称賛を浴びるのだ。
欲の底に
それらが汚泥のように堆積して腐臭を放っている。
他人に依存しているのに、他人を見下しているモノたち。
目指していた世界は、すでに現実のものとなっていたのだ!
……なんと心地よい。
力が
◇
勧誘合戦も一段落した夕方、今日の勧誘担当だった学生たちが、わらわらと部室に集まって来ていた。
「あの子たちいなかったねぇ」
「学部どこだろ」
「キツネ顔の大きい子、教育学部棟で見かけたって話だよ」
「えー、先生目指してんのかな。体育大のほうが似合いそうだけど」
「受験するよか楽だからだろ」
後片付けをする華やいだ女子大生たちが、辛辣な声に動きを止める。
「え」
「あの……?」
「ああ、付属上がりなんっすね。四人とも?」
部室の温度を下げた原因の男子学生の後ろから、プラカードを肩に担いだ別の男子学生が部室に入ってきた。
「らしいよ。そういや、うちの内進組は?」
「シンドー先輩なら、さっき正門のところでナンパに励んでましたー」
女子学生のチクリに、男子学生が不機嫌そうにキャップをかぶり直して舌打ちをする。
「ったく、マミも途中でどっか行っちまうし。内進生はこれだから」
「あ、そういえば、マミ先輩もあの四人のこと、知ってるって言ってましたよ、部長。特にあのハーフの子は有名だったって」
「フジタも知ってるってさ」
「部長」と呼ばれた学生のイライラした雰囲気に、周囲にいる部員達がみな微妙な顔になった。
「あいつら、相当の有名人だったらしい。あの大きい奴なんて、実家が関西の有名和菓子の……」
「え?!」
「ご贈答用定番の、あの?」
「え~、御曹司じゃん!」
「んなの目じゃないんだよ。あのシラガ頭は、AIKAグループのひとり息子らしい」
「AIKA?」
「リゾートホテル展開してるとこ。知らない?ベイサイドにもあるだろ、でっかいホテル」
「えええっ、セレブ集団?!」
「やだ、なにそのスペック!」
「でも、けっこうヤバい奴らだって話だから」
盛り上がっている女子学生たちに、部長がシラケた目を向ける。
「でかいのは大阪でやらかしたから、こっちに出てきたっぽいし、シラガ頭はビョーキで留年してるんだって。キンパツは成績底辺で、やっと推薦もらえたらしいし、極め付きはあのハーフ」
静まり返る部室に、まるで断罪するような言葉が反響していた。
「サボりで二年もダブってるくせに、試験受けりゃどの科目もほぼ満点だから、デタラメやってても学校は何にも言えないんだと」
「……でも、留年するほど休み続けたら、家に連絡がいくんじゃ?」
おずおずとした後輩からの反論を部長は鼻で笑う。
「金があって放任主義の家なんて、そんなもんだろ。高校生のときから、社会人ばっかとつるんでるようなヤツなんだから。そんなヤバい連中、声なんか掛けなくていいからな。……じゃあ、お疲れ」
部室を出ていった部長の足音が聞こえなくなったとたんに、部員たちの肩から一斉に力が抜けた。
「うへぇ、なんだったんだ?……いつもはあんな人じゃないのに」
プラカードを持っていた学生が呆気に取られてつぶやく隣で、女子学生ふたりがくすりと笑い合う。
「なんか、ヒガんでるみたいでちょっとカッコワル」
「ホントにね。らしいらしいって、全部聞いた話じゃん」
「あ、今日お疲れさま会やるって言ってたのに、部長。忘れちゃったのかなあ。……え?」
スマートフォンを取り出した手を押しとどめられて、ポニーテールの女子大生の目が丸くなった。
「いや、連絡しなくてよくない?」
プラカードを持っていた男子学生がニヤリと笑う。
「あのヒト機嫌最悪だったし、今日はオレら二年だけで行こうぜ」
「あ、マミちゃん先輩からも連絡来てる。……部室には寄らないで帰るって」
「カレシだよ、きっと」
「今年の三年ってさあ、頼れないっていうか、無責任っていうかさぁ」
新二年生たちは日ごろの不満を冗談めかして言い合いながら、荷物をまとめて部室をあとにしていった。