2020年4月9日

文字数 2,698文字

2020年4月9日
 今日の咳は軽い。

 国連世界食糧計画(WFP)は、2020年4月9日、「新型コロナウイルス~世界の食料安全保障に対する5つの脅威」において、新型コロナウイルスが増加傾向の基金の封じ込めを阻む危険性があると次のように述べている。

2020年に入り、紛争による暴力と気候変動の影響により、世界中で飢えと栄養不良に苛まれる人々は既に増加しつつありました。今日、8億もの人々が慢性的な栄養不良に直面し、1億人以上の人々が生きるための食料支援を必要としています。新型コロナウイルスはこれらの悪化を抑制するための人道支援団体や食料安全保障のための組織の努力を損なう危険性をはらんでいます。
元国際食料政策研究所(IFPRI)のシェンゲン・ファン局長は次のように書いています。“新型コロナウイルスは保健上の危機です。もし適切な措置が取られない場合、食料危機をも招く恐れがあります。”
最近の全ての大量感染~エボラ出血熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)~は食料安全に対し、直接的かつ間接的な両面で負の打撃をあたえました。専門家は、新型コロナウイルスによる同様の悪影響の傾向や性質について次のように述べています。

 その上で、WFPは次の「5つの脅威」を挙げる。

1. 新型コロナウイルスは貧困が蔓延し脆弱な医療インフラに苦しむ国に重大な脅威をもたらします。
2. 新型コロナウイルスは安定したセーフティーネットを持たない国に重大な脅威をもたらします。
3. 新型コロナウイルスは慢性または急性の飢餓や栄養不良に苦しむ人々にとり、特に致命的と判明する可能性があります。
4. 新型コロナウイルスにより食料サプライチェーンの破綻、食料不足そして食料価格の高騰が引き起こされる可能性があります。
5. 新型コロナウイルスが世界経済の停滞または不況を引き起こし、極度の貧困と飢餓を更に悪化させるでしょう。

 すでに食糧難に陥っている人々のみならず、医療や社会保障などの制度整備や資源確保が不十分な地域の人々も新型コロナウイルスによってさらなる深刻な事態に見舞われる危険性がある。一口で言うと、疫病が基金を招きかねない。

 飢饉と疫病が関連することを記録した日本の古典がある。『方丈記』である。この書は災害の記録としても知られている。疫病について独立した章はないものの、「養和の飢饉」に次のように見られる。

また養和のころとか、久しくなりて覚えず。二年が間、世の中飢渇して、あさましきこと侍りき。あるいは春・夏日照り、あるいは秋、大風・洪水など、よからぬことどもうち続きて、五穀ことごとくならず。むなしく春かへし、夏植うる営みありて、秋刈り、冬収むるぞめきはなし。これによりて、国々の民、あるひは地を捨てて境を出で、あるひは家を忘れて山に住む。さまざまの御祈りはじまりて、なべてならぬ法ども行はるれど、さらさらそのしるしなし。
京のならひ、何わざにつけても、みな、もとは、田舎をこそ頼めるに、絶えて上るものなければ、さのみやは操もつくりあへん。念じわびつつ、さまざまの財物かたはしより捨つるがごとくすれども、さらに目見立つる人なし。たまたま換ふるものは、金を軽くし、粟を重くす。乞食、道のほとりに多く、憂へ悲しむ声耳に満てり。
前の年、かくの如くからうじて暮れぬ。明くる年は立ち直るべきかと思ふほどに、あまりさへ疫癘うちそひて、まさざまにあとかたなし。世の人みなけいしぬれば、日を経つつきはまりゆくさま、少水の魚のたとへにかなへり。はてには、笠うち着、足引き包み、よろしき姿したるもの、ひたすらに家ごとに乞ひ歩く。かくわびしれたるものどもの、歩くかと見れば、すなはち倒れ伏しぬ。築地のつら、道のほとりに飢ゑ死ぬるもののたぐひ、数も知らず。取り捨つるわざも知らねば、くさき香、世界に満ち満ちて、変はりゆくかたちありさま、目も当てられぬこと多かり。いはんや、河原などには、馬・車の行き交ふ道だになし。
あやしき賤、山がつも力尽きて、薪さへ乏しくなりゆけば、頼むかたなき人は、自らが家をこぼちて、市に出でて売る。一人が持ちて出でたる価、一日が命にだに及ばずとぞ。あやしき事は、薪の中に、赤き丹つき、箔など所々に見ゆる木、あひまじはりけるを尋ぬれば、すべきかたなきもの、古寺に至りて仏を盗み、堂の物具を破り取りて、割り砕けるなりけり。濁悪世にしも生れ合ひて、かかる心憂きわざをなん見侍りし。

 養和年間(1181~82)に亘って飢饉があり、多数の死者を出している。旱魃や大風、洪水が続いて作物が実らず、朝廷はさまざまな加持祈祷を試みたけれども効果はなく、翌年には疫病が発生している。この記述からは疫病が何かはわからないが、『徒然草』50段の場合よりも致死率が高い疾病と思われる。

 飢饉の後に疫病に京都が襲われた理由はこう考えられるだろう。飢饉が起こると、食糧事情が悪化、人々の免疫力が低下、感染症に社会が弱くなる。農業を始めとする生産従事者が生活の糧を求めて都市や山中に移動し始める。それを受けて都市の人口密度が高まる。都市は地方に食糧・エネルギー・材料などを依存しているので、その供給が不足する。都市は、食糧事情のみならず、公衆衛生など生活環境が全般的に悪化していく。この状況は感染症の拡大リスクが高い。飢饉が疫病につながるのはこうした理由からである。

 当時は、医療は言うに及ばず、社会保障制度も貧弱である。途上国は現在でも『方丈記』の頃の状況から決して遠くない。新型コロナウイルスによってこの古典が伝える惨状に見舞われかねない。

 なお、飢饉や疫病によって多数の犠牲者が出て、遺体が鴨川の河原に溢れていることには理由がある。平安京は一条から九条までと東西の京極の4角形部分が浄の場所とされ、不浄なものを忌み嫌う。そのため、遺体は外に出さなければならない。羅生門はその境界にあり、芥川龍之介の小説においてその二階に遺体が置いてあるのはこうした習慣による。

 夕食には、小松菜チャンプルー、きんぴらごぼう、三つ葉のコチジャン和え、野菜サラダ、肉じゃが汁、食後はカルダモンを入れたコーヒー。屋内ウォーキングは10390歩。都内の新規陽性者数は181人。

参照文献
鴨長明、『方丈記』、岩波文庫、1989年
「新型コロナウイルス~世界の食料安全保障に対する5つの脅威」、『WFP』、2020年4月9日更新
https://ja.news.wfp.org/20-14-40f0b9440a76?gi=6da11ed1e22
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