第1話 前置きとお願い(本編は次からです)

文字数 1,059文字

私は東京都の〇〇区に住んでいて、ほぼ毎日ジョギングをしている。
ジョギングをしている合間に区民センターに立ち寄る。その区民センターの一角に、私が『庵(いおり)』と呼んでいる場所がある。簡易な屋根とベンチが置いてあるだけの小さな構造物だが、屋根部分に苔が生えていて伊勢神宮の社殿に似た風格がある。庵っぽい雰囲気があるから、私はそう呼んでいる。

庵には屋根しかないので風はそのまま入ってくる。小雨は凌げても、横殴りの雨は凌げない。その庵には、いつもおじさんがいる。私はそのおじさんを『ハトおじさん』と呼んでいる。
近所の子供たちが『ハトおじさん』と呼んでいたのを聞いたことがあるから、近所の人はこの名称で呼んでいるようだ。

ハトおじさんは毎日ハトに餌をあげている。食パンを砕いたようなパンくずだ。

公園には『注意:ハトに餌をあげないで下さい。ハトの糞に迷惑しています。』と看板が立っているが、その看板は役に立っていない。ハトおじさんが区役所職員に見つからないようにハトに餌をあげているからだ。

念のために言っておくと、ハトおじさんは何の害もない。
毎日庵に通じる道(私は玄関と言っている)を箒(ほうき)で掃除しているし、ハトおじさんは区民センターの美化に協力していると言っていいだろう。

ハトおじさんの生態は謎に満ちている。
庵に住んでいるのかもしれないし、家が別にあって庵に入り浸っているのもしれない。ハトおじさんを尾行すれば分かるのかもしれないが、さすがにやり過ぎだから気が進まない。

私とハトおじさんの生活圏は同じなので、コンビニやスーパーマーケットで買い物しているのを見かけるし、お金に困っているようには見えない。

庵で木々を眺めながら過ごし、たまにハトに餌をやり、お腹が空くと自転車に乗ってスーパーに買いものに行く。それが今のハトおじさんの一日だ。
少なくとも私はそう思っている。

でも、それは本当のハトおじさんだろうか?

ハトおじさんは実はハトおばさんではないのか?
ハトに与えているのはパンに見える発泡スチロールではないのか?
乗っているのは自転車じゃなくてキックボードではないのか?

だから、私はハトおじさんの半生を勝手に書くことにした。

ここに書かれているハトおじさんは、あくまで私の想像だ。
名前も私の創作だし、出身地や年齢も私の創作だ。

そういう前提で、これからの話を読んでほしい。


私が今後ハトおじさんのことを悪く書くかも知れません。
だけど、ハトおじさんを特定しないで下さい。
もしハトおじさんを見つけても決して危害を加えたりしないで下さい。
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