第18話

文字数 1,079文字

「あの、つかぬことをお聞きしますが……。私たち、どこかでお会いしたことありませんか? 人違いならすみません」

 彼女の言葉に、涼太はハッとする。『叶奈』という名前と、向こうの世界での会話を思い出す。

「ひょっとして……、あなたは叶奈さんでは……?」

 今度は、彼女がハッとする番だった。

「あなたは、ひょっとして涼太さん……?」

 互いに、向こうの世界での出来事がフラッシュバックする。

「あれから、お互い目が覚めたんですね。涼太さんは、カフェを成功させているんですね。良かった」

 叶奈は、にっこりと笑った。涼太も、にっこり笑い返す。

「おかげさまでこの通りです」
「私も、なんとか今の仕事を続けながら、最近は小説を書いています。と言っても、趣味程度ですが……」

 叶奈は、照れ臭そうに現状を話した。

「へぇ、小説ですか。どんな話なんですか?」

 涼太は、興味深そうに叶奈に問いかけた。

「実は、『あの世界』を題材にした小説なんです。ツナグ君を主人公にした小説なんですけど……」

 叶奈の『ツナグ』という言葉に、涼太は思わず首から下げていたペンダントを握り締めた。目を覚ますと、いつの間にか身に着けていたこのペンダント。ツナグから貰ったことを、今になってようやく思い出したのだった。
 叶奈は、言葉を続ける。

「私は、自分の軸がちゃんとわかったわけではないですが、あの世界に行ったことで、『小説を書きたい』という、幼少の頃からの夢をつき進む決意ができました。涼太さんはどうですか?」

 叶奈の言葉に、涼太は一瞬詰まる。

「僕も、自分の軸は見つけてはいません。しかしやはり、カフェをしたいという夢を突き進む決意はできたように感じます」

 涼太は微笑んで、部屋の奥を見つめた。叶奈もつられてその視線を辿った。そこには、青いケシの花が置いてあった。花は、あの時と変わらず、綺麗に凛とした姿で咲いていた。

「あ、この花は……」

 叶奈が、言葉を発する。

「そうです。ツナグの家に置いてあったあの花と同じ種類の花です。同じものを探すのに、苦労しました」

 叶奈は、返事もせずに、じっと花をじっと見つめる。

「あの……。叶奈さん?」
「あ、あぁ。ごめんなさい。ツナグとのやりとりを思い出してしまって……」

 叶奈が、微笑む。涼太もつられて微笑む。
 二人の間に、ゆったりとした時間が流れる。いや、二人の間だけ、時間が止まっているようにも見える。
 じっと、見つめ合う二人。

「すみません」

 不意に、他の客が涼太を呼んだ。

「あ、はい。お伺いします」

 どこか、名残惜しそうに離れていく視線。叶奈は、窓の外へと視線をわざと逸らした。
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