サメとサメ映画と私

文字数 1,692文字

 私、サミィ。
 南カリフォルニアに住む高校生、16歳。夏休みにお姉ちゃんと幼なじみのシンディと三人で海辺にバカンスにいったら、サメが出てたいへんなことに!
 だけど私たちは負けなかった。中学の同級生ベッキーちゃん、そのおじさんで海洋学者のウミノ博士、元船乗りのアームストロングおじいちゃん、そしてVチューバーのクリスタルちゃん。
 ビーチで出会った最強の仲間たちとチーム『ビキニヴァルキリー』を結成、サメを退治した。

 ここはサメ映画の世界。全ての災厄はサメの姿でやってくる。
 何かお困りですか?
 よろしい、サメを倒すんだ。
 
 サメを倒せば全て解決!

     ※

「ただいまー、お姉ちゃん!」
 9月。ヴァカンスが終わり、新学期が始まった。学校に行ったら何て偶然、ベッキーちゃんが私の通う高校に転校してきた!
「ベッキーちゃん!」
「おじさんがカリフォルニアの海を研究することになったんだ」
「びっくりしたよ!」
「うん、ここに転入するってのは知ってたけど、サミィちゃんにはナイショにしてました。サプラーイズ?」
「もう、ベッキーちゃんったら」
 手を握って走り出す。
「おいでよ、学校を案内してあげる!」
「うん!」

 もちろん、放課後は一緒に帰る。
「ただいまお姉ちゃん!」
「こんにちはー、お姉さん」
「お帰りサミィ、いらっしゃい、ベッキーちゃん。ちょうどクッキーが焼けたところよ、お茶にしましょう」
「わぁい」
 もちろん、私が着てるのはビキニ。ちょっと涼しくなってきたから下はホットパンツにした。上からシャツも羽織ってるけど、やっぱりビキニ。イチゴっぽいデザインの水玉ビキニ。だってビキニは私のアイデンティテイだもの。
 お姉ちゃんもビキニ。色は鮮やかな赤。上からギンガムチェックのエプロンをつけている。

『シャ……ク……シャー……ク……』

「サミィ、冷蔵庫からミルクを出して」
「はーい」
 冷蔵庫を開けると、サメが出た!

 がぉおん!

「こんの、化け物ぉ!」
 気配はほんのり感じてた。 シャークウィスパーは聞き逃さない。どんなに小さくても。どんなに周りがにぎやかでも。
 すかさずハンマーで一撃! 脳天をたたきつぶしてすっ飛ばす。こんなこともあろうかと、いつでもハンマーは持ち歩いてるんだ。柄は持ち運びに便利な伸縮式に改造した。
「よう、元気か!」
 勢い良くドアが開く。いつものように水色ビキニのシンディが入って来る。
「いらっしゃいシンディ」
「アップルパイ持ってきたよ。こっちはオマケ」
「まあ、立派なレモンザメ」
 肩にかついだ黄色っぽいサメは、脳天に赤い斧がざっくり食い込んでいる。
「今夜はフカヒレよ。煮込みにしようかな、スープにしようかな」
「全部作っちゃおう。材料はいっくらでもあるよ」
『シャーク、シャーク、シャーク、シャーク』
 さざ波のように押し寄せるシャークウィスパー。ベッキーちゃんがタブレットに指をすべらせる。
「来るよ。サメ反応接近中」
「数は?」
「四つ……五つかな……ううん、六つ……うそ、これ頭の数がっ」
「問題無い。壁を壊されると厄介だ、こっちから打って出る!」
 ドアを開け放って庭に飛び出す。ジャキっとハンマーの柄を伸ばして両手で抱える。
「来ます!」

 さめぇーん!

「待ってた!」 
 うなるハンマー、飛び散る血潮。ビキニはもはや死に装束じゃない。日常着であり、戦闘服だ。

 私、元鰐口ささめ、サメ映画大好きなJK。転生したらサメ映画のビキニ美女でした。
 転生特典は一回きり、だからこうした。多分これは反則、あるいは規格外、もしくは悪あがき。いいじゃない、私まだまだ未熟な人間だもの、解脱も輪廻も無理無理無理!
 ごめんね、おジゾーさま。
 私は欲張りなんだ。日常の幸せも、サメ映画の世界もどっちも欲しい。
 だから、こうした。
「ビキニヴァルキリー、GO!」
 ビキニ娘がゆるーくサメと戦う日常系サメ映画「おうちシャーク」、絶賛上映中。

(転生したらサメ映画のビキニ美女でした/了)
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登場人物紹介

鰐口ささめ
16歳、サメ映画大好きJK。炎天下の強制ボランティアで熱中症に倒れ、見捨てられ、その死は隠匿される。
無惨な前世を救済すべくお地蔵様の慈悲により金髪ビキニ娘サミィとして転生するが、そこはサメ映画の世界だった。
イメージアイコンは とびはねメーカー で作りました。

キャシィ
サミィの姉。グラマーな金髪美女。アメリカの大学生。妹をでき愛するお姉ちゃん。

彼氏に二股をかけられたあげく一方的に別れを告げられ、傷心を癒すべく妹と幼なじみのシンディと共にクリスタルレイクビーチにやってきた。

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シンディ
キャシィとサミィ姉妹の隣に住む。姉妹とは幼なじみ。鍛え上げた体とライフセイバーの資格を持つ男気のある姐さん。
父親は消防士。
傷心のキャシィを案じて二人をクリスタルレイクビーチに誘う。

待ち受ける災厄を知る由もなかった。

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