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文字数 2,540文字

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 帰宅するとまっすぐコンピュータの前に座り、さっそく鞍内からもらってきたUSBメモリを挿した。中身はshiftUnicode.pyというスクリプトファイルとreadme.txtという説明書の2つだった。readmeというのはよく見かけるけれどなかなか面白い名前だ。私を読めだ。readthisじゃないところが面白い。それなら実行ファイルはexecme、要コピーはcopyme、削除するなはdontremovemeなどなどそれぞれのファイルが自分を主張してもいい。おれは2つを自分のコンピュータへコピーしてファイル名が指示する通りreadmeをreadした。そこには鞍内が直接話してくれたのとほとんど同じことが書いてあった。新しく作ったフォルダにUTF-8という文字コードで保存したテキストファイルとこのスクリプトファイルを入れ、コマンドラインで実行する。実行すると変換後の内容がoutput.txtというファイルに書き出される。その方法が詳しく書かれていた。

 おれはまず鞍内に言われたようにPythonというプログラム言語をインストールするところから始めた。プログラム言語というから言語なんだと思っていたけれど、「言語」を「インストールする」ということはよくわからない。鞍内によればプログラム言語がコンピュータにインストールされていなくてもその言語を使ったプログラムを書くことはできるのだそうだ。ただその書いたプログラムを実行することができないらしい。それはおれに英語をインストールしたら英語が話せるようになるみたいな話だろうか。おれにはいまいちその辺のところがよくわからないのだけれどとりあえず言われたようにやってみる。

 Pythonはすぐに見つかり、インストール方法も説明を読めば簡単だった。おれはさっそく例のメールを引っ張り出してきて中身をコピーし、テキストエディタを開いて貼り付けた。


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 文字コードをUTF-8に切り替えてファイルに保存する。鞍内が用意してくれた説明のテキストを見ながらコマンド入力用の画面を開いてコマンドを一文字ずつ確認しながら入力してプログラムを実行してみる。ふだんほとんどやらないコマンドラインでのプログラムの実行。なにかとても高度なことをしているような気分になった。
 実行すると処理は一瞬で終わり、フォルダの中に新しくoutput.txtというファイルができていた。それを開いてみておれはぶっ飛ぶほど驚いた。


 おれは澤木健祐だ。おまえも澤木健祐だ。そうだろう。おれとおまえは同じ澤木健祐だ。おまえはありえたかもしれないおれで、おれはありえたかもしれないおまえだ。
 別にふざけちゃいない。おれはわずかにずれた時間の中にもおれがいることを知った。見たんだ。何かのずれが発生しておれは少し前を歩いてるおれの背中を見た。
 おれはだいぶ前から考えてたんだ。おれがなにか選択するたびに道が分岐していく。選択しなかった道を選択したおれってものが別の世界に存在しているんじゃないか。そう思ってた。おれはそれを見つけたんだ。
 おれはおまえに連絡を取る方法を考えた。そして思い出したんだ。おれは道を選ぶ前にその道を進んだ先で使うためのメールアドレスを作っていた。正確にはドメインを取っていた。そしてその道を進まないことにした後もそのまま持っている。そのアドレスにメールを送ればその道を進んだおれに届くはずだ。しかし届いたとして、おまえの興味を引かなければ単なるいたずらだと思われるだろう。おれがそう思うのだからきっとおまえもそうだ。
 そこでおれはおまえが興味を持つように、少々込み入った細工をしてこのメールを送る。おまえはたぶんおれの一歩前にいる。おれはこのメールを一歩後ろから送ることになる。だからこのメールも一歩後ろだ。すべての文字を一つ後ろにしてある。
 問題はおまえがこれに気づくかどうかだ。おまえはおれだがおれとはちがうおれだ。おれとちがう道を歩くおまえがはたしてどういう考え方をするのか。それはおれの想像を超えている。しかしそれでもおれはおれだ。きっとおまえはおれのこの細工を解読するだろうし、面白いと思ってくれるだろう。
 これを読むことができたなら、同じ方法で返信してくれ。
 このメールへ返信すれば、きっとおれに届く。

  澤木健祐
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