第4話 ウラジオストックの夜は更けて

文字数 1,184文字

 ロシアは日本に比べて、サワークリーム、チーズ、ヨーグルト、ケフィアと乳製品の種類が多いのは、端から端まで並ぶスーパーマーケットの棚を思い出せば、その圧倒的な量に納得がいく。乳製品とマヨネーズですべての栄養を賄っているという感じである。
 断っておくが、「ノスタルギア」はウラジオストックを訪問したら、ぜひとも寄っていただきたい名店。ただ食習慣のちがいが脂質でこってりとした味わいが、胃弱な少子化のネズミには、ロシアの様々な料理を愉しむには、相当な覚悟がいると言いたいだけである。
 私はビーフストロガノフを完食しただけで満ち足りてしまった。晩飯もいらないぐらいである。

 ちなみにペルメニはロシア版水餃子。中国発祥の水餃子は、いまや形を変えて、それぞれの地域で民の舌に合わせて独自に発展しているだけに、とびきり美味いとは思わない。
 ペルメニにかぎっては、日本で食べる水餃子のほうが、皮が薄くて私には合う。

 食事のあとは、ウラジオストックっ子自慢のルースキー島までドライヴ。
 連絡橋の長さに驚嘆し、ウラジオストック市の風光明媚に眼を瞠る。この橋はウラジオストックでAPCE開催に合わせて建造されたウラジオストック市民自慢の名所である。ウラジオストックに行ってこの橋で対岸に渡って市内を観ないのは、何も見なかったと同じことらしい。
 ひと通り観光地を巡った後、待望の夕食となったのだが、残念ながら何を食べたのか覚えていない。「ノスタルギア」と比べたら、幕下レベルのレストランに入ってしまったのだろうか。
 もしくはビーフストロガノフがまだ胃袋に鎮座していたらしい。とにかくそこの記憶だけが抜けている。

 明日は、港近くで開催されている朝市に行く予定。
 市場好きは、眠る時間さえも惜しい。子どものように明日着る服を、枕元に並べて眠りにつく。いや眠りに着くはずだった。しかしそう簡単に眠れるものでもなく、昨日行ったバーへウォッカを呑みに出た。

 店員も私たちのことを覚えていたので、そこからカクテルの作り方についての議論になり、お互いにいろいろと作り比べしているうちに、夜が更けていった。
 ロシアには良い製氷機がないのか、使われるアイスは家庭でつくるものみたいに白く濁っている。見た目も重要なポイントであるカクテルには合わないし、美しさを感じられない。透明なガラス玉のようなアイスが手にはいれば、この店はウラジオストックで一番店になれるよと言うと、今度来るときは日本製の製氷機を持ってきてくれと返してくる。

 たぶんそんな会話をしながらウォッカを呑み続けたのだが、実際にそんな流暢にロシア語が話せたとは思わない。
だいたい氷というロシア語は知っているが、透明なという単語は知らない。
 しかしお互いに深く理解し合っているのが不思議である。ウォッカに神が宿っているから成立した会話としか思えない。
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