面接とはバトルだ! 〜バトリングって言葉はあんま聞かないよね?〜

文字数 1,935文字

 とある時間、とある空間。
 それは、面接会場。

 テーマ「面接官と入社を希望する人間の違いを端的に答えよ」。 
 つまり「あなたと私の違いを述べよ」という設問。

「人生経験の差」や「人間としての厚みが違う」などが好まれやすい問題。
 設問(障壁)には戦闘(ロジック)を。戦闘(ロジック)とは面接(バトリング)のこと。
 
 花尾はなんとジャージ姿でこの場所にいた。
 場違いな風体を見せている。

 面接官は、動揺しない。
 こんな野郎は年に数人はいるからだ。

 面接官の手のひらは、花尾の隣の男に向けられる。
 そして、面接官。彼にダイレクトな言葉を発す。
 
「では、前田伸一さん…でいいのかな? キミからどうぞ?」
 
 リラックスを許さない重みのある口調。
 表現とは裏腹に、既に圧迫は始まっているのかも知れない。

 そんな不穏な空気をモブにすらなれない前田は察する。
 そして、前田、答える。緊張の表情と共に。
 
「例えばと言うと……例えばですね。……えぇと、そうですねぇ。
 ……じゅ、重役との会議とかで緊張しなかったりできます」

 花尾はフンっと鼻で笑った。
 腕を組んで余裕の表情を見せる。
 
 花尾の思考、それは……。
 
(あーあ……、筆記までの人財かな、このエリートもどきも……)

 奇しくも。
 面接戦闘員(ロジック・バトラー)の花尾と同じ思考を持った面接官。

 そして、次は花尾の番である。 
 会社に来たからには、どんな格好の人間でも無下にはできない。
 
 面接官「では、そこのジャージのキミねぇ。 
     ……えっと、花尾君と言ったっけ?」

 自由な服装といいつつも、スーツは必須である。
 一見、面接官が優勢に見えるが。

 花尾武「はい、年上なので『花尾さん』でも大丈夫ですよ?」

 花尾、動じず。むしろ、笑みすら浮かべる。
 
「では……花尾さん『面接官と志望者の違い』を端的にどうぞ」
 答えられまいこんなアホには。
 そんな嘲笑とも取れる表情の面接官。
 
花尾武「はい、人生経験です」堂々たる様。
面接官「例えば、どんな経験の差があるです?」返す刀は花尾に向く。
 
 二人の間にあるものは気と気のぶつかり合い。
 二人が行っているものは論理と論理の決戦。

 戦闘面接――バトリングらしい緊張由来の鋭く刺すような気迫がぶつかり合う。

 それこそ花尾の大好物である。
 花尾は「人生経験の差」を端的に伝えなくては、失格だろう。

 花尾の口、開く。
 
「はい、例えばと言いますと。……そうですね、例え、例え、例え」

 なんと、先のアホ学生の真似をする。
 そう、これこそが花尾の技(ロジキィ)。


『他者との比較で見せる差(ミッドナイト・シャッフル)』。

 
 同じ言葉から始め、違いを見せつければ。
 他者との比較は容易。
 面接官に優しい話術。

 面接官はあまりの退屈さに、口をへの字にする。

 花尾。尚も動じず。

「……例え……ええっと……例えるとするならば………」
 
 時間が長い。
 話の途中で考えている。
 事前対策ができていない!

 舐めた野郎、年上野郎を見下し、笑みを浮かべるは面接官。
 花尾。更に動じず。

 刹那。

「……と、こういう咄嗟の質問にうまく対処することができません。
『例えれば』が今まさに例えとなっているという不思議な展開ですね。
 仮にですよ、逆の立場ならば、面接官の山田様は上手く答えられるでしょう。
 ですので、このような点で人生の経験において差があると考えられます」

 
 花尾の狙いは穿つこと!!!
 それも面接官の脳の回路を選択的に……!


 面接官、理解不能(オーバーヒート)。


『論理の入れ子細工(メタ・コンストラクション)』

 メタを話に入れ込み、相手を煙に巻く花尾の秘術(ハナオィック・ストラテジ)。

 炸裂。
 爆ぜる。
 やがて。
 爆縮。
 
 会場の空気、変わる。
 緊迫から緩和へ。

 難しい問題の画期的な回答法を
 天才的な存在が答えた時に生まれる尊敬の念が込められた緩和。

 そう感じた花尾は面接会場を去った。
「また、つまらない企業と出会(バト)っちまったな……」

 当然、不採用である。 
 しかし、彼ほど爪痕を残した人物はいなかったのは事実だった。
面       接      ……   直接出会い、人柄などを見ること。
                特に試験、入社に必須。

 バ ト リ ス ト       ……   バトラーを勘違いした個人言語。
                真似をして使ってははいけない。
                バトリングと同義。

面接バトリスト      ……   面接をバトルだと思う人種のこと。
               面接格闘主義者(ロジカリスト)。


  
 とある時間、とある空間。
 それは、面接会場。

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登場人物紹介

花尾武(はなおたけし)  

中学中退。夢は最強の面接バトリスト。
合計1350社から不採用になっている。
現在32歳、独身、彼女いない歴は主観で40年以上(見込み)。

面接官より年上のこともしばしばある。
その人に敬語使うかどうかで微妙な空間ができあがる。

第一話 IT企業編に出てくるITベンダー『MPC』の人事部長。

初めて面接バトリストと遭遇して、困惑する。
面接時は怖いけど、家に帰ると二人の娘の良いお父さん。

趣味はネット大喜利(本編には関係ありません)。

第二話 事務編に出てくる『株式会社テイワ設計』の人事部社員。

爽やかな顔を見せるのは、社内の女性を意識するため。
そのハンサムフェイスは面接バトリストによって崩される?

好きな麻雀の役は大三元四暗刻(本編には関係ありません)。
積み込みも得意で燕返しができる(本編には関係ありません)。
週末は趣味の古そうな石を集めているか、雀荘にいる(本編には関係ありません)。

第3話 書店編に出てくる『大和田書店』のキレる系面接官。

面接(バトリング)で花尾を封殺する事が出来るのか?

お見合いサイト18サイトに登録しているその道のプロ(本編には関係ありません)。
特技は国旗を見て大体の国を言える事(本編には関係ありません)。
女子プロとJ2に詳しい(本編には関係ありません)。
ちょっと偏った思想の持ち主でもある(本編に関係あります)。

二宮桃子

第三話でちょっとだけ出るうら若き乙女。
臭味は読書と履歴書には書いてあるものの・・・。

ラインの既読無視には物理的に仕返しをするタイプ(本編には関係ありません)。
ポッケに必ずチョコが入っている(本編には関係ありません)。
「来週までには」が口癖(本編には関係ありません)。

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