~ACT2 変化~③
文字数 2,133文字
西の都モールまでは車だと2日はかかる。そのため基本的にこのモールに派遣されるのは、ピュールヘルツの中でも転移魔法が使える特別な者たちだったのだが、今回は4人での移動と言うこともあり車で出発していた。
そんな西の都モールの自慢は南の都ミュラーとは違い、やはり青い空と青い海だろう。早朝から始まる競り市は毎日活気に溢れていた。
しかし今では、モール内で怪事件が多発しているためか、市場に以前のような活気は見られない。
朝靄 煙る早朝にモールへ到着したヴァルリたちは、街の様子に驚いていた。
ひっそりとしている街の家々は、その扉を固く閉ざしている。朝が早い漁業の街なのに、それは異様で静かすぎた。
「街が、死んでいるみたいだ……」
ヴァルリは思わずそう呟いていた。確かに死んだように静かな街なのだ。
「なぁ、ピューサ。モールって一体どんな都なん?」
後部座席に座っているサミューが隣にいるピューサに尋ねた。
「簡単に言うと、漁業の街だな。空と海が自慢」
それと、とピューサは続けた。
街中には水路が広く取られており、都の住人たちは主に水路を使って舟で移動を行っている。水路と並行して陸路も充実してはいるが、この陸路は主に地方へ魚を輸送する時に使われている。
淡々としたピューサの説明を聞いたサミューは、
「じゃあ、俺らも舟で都を移動できるん?」
「この車がなかったらな」
「車、捨てるん? もったいない」
「お前はどこまで馬鹿なんだ?」
冷たい視線で冷たいことを言われたサミューが何も言い返せずに固まっていることをいいことに、ピューサは前の運転席にいるリールへと声をかけた。
「無事にモールへはたどり着けましたが、これからどうしますか?」
「そうだねぇ。この様子だと厳しいかもしれないけど、まずは聞き込みかなぁ? それとピューサちゃん。これからは4人で行動するんだし、敬語、止めよう?」
最後のリールの言葉を聞いたヴァルリは、助手席から後部座席へと身体を乗り出して口を開いた。
「そうだよ、ピューサ! リールなんかに敬語はいらないよ!」
「なんかにって……。僕一応、これでも25超えた成人なんだけど……」
リールは前を向いたまま苦笑いを浮かべて言う。その言葉を聞いたヴァルリは、
「知ってるよ? この中でいちばんのジジイだもんな!」
そう言ってキシシ、と笑った。
そんな他愛もない会話をしながらモールの街を走っていた4人は、突如聞こえてきた甲高い悲鳴に車の速度を上げた。
着いた場所はモールの港、マウス港だった。
そこには1人の女性が今にも海中へと引きずり込まれそうになっている。速度を上げた車が女性の元へ近づくと、どういうことか、女性を海中へ引きずり込もうとしていた魔物がすっと海へと帰っていった。
間一髪で助かった女性は放心状態だ。自分が助かったことにもまだ、気付いていない様子である。
ヴァルリが車から降りて女性へと近づいた。
「あの、大丈夫ですか……?」
ヴァルリに声をかけられた女性は弾かれたように顔を上げると、曖昧に微笑んだ。
腰が抜けてしまっているのか、座り込んでしまっているこの女性は30代半ばのように見える。日に焼けた小麦色の肌に、モールの人特有の黒に近い茶色の髪は、長年潮風に吹かれているせいかパサパサとしている。女性は緑のブラウスにブルージンズを穿 いていた。その足下には長いパンが紙袋から飛び出していた。
「ご婦人。何故、このような場所に?」
リールも運転席から出てきて女性に尋ねた。女性はまだ恐怖から抜け出せずにいるようで、声が出ない。それを見たリールは、
「僕たちは、ピュールヘルツです。モールの怪事件を解決するよう、国王ラジェルの命でここに来ました」
「ピュール、ヘルツ……?」
「よろしければ、僕たちにモールの実情を教えてはくれませんか?」
リールの言葉に女性は頷いて見せた。
ヴァルリとリールは女性に肩を貸して立たせると、自分たちの車へと案内する。
そしてヴァルリたちは女性の家に向かいながら、彼女から話を聞くのだった。
「数ヶ月前に、アダムと名乗る青年がこの都へ来たのです」
落ち着きを取り戻した女性はぽつりぽつりと話し始めた。このアダムという青年は、数週間モールに滞在していたようだ。
「とても明るく、陽気なアダムは、すぐに街中の人たちと仲良くなったのですが、ある日、その……」
女性はここで次の言葉を言いよどむ。
「ある日、何があったんですか?」
リールが先を促すと、女性はためらいがちに先の言葉を続けた。
「魔物を、倒してくれました……」
「何やて?」
サミューが思わず口を挟む。
この数ヶ月、モールはもちろん、このアトランス帝国内で魔物が出没したと言う報告は受けていない。つまりピュールヘルツがモールにやってきた、と言うこともないのだ。
それにこのアトランス帝国で魔物を倒すことが出来るのは、ピュールヘルツのみである。それは全国民の周知の事実だ。
「そのアダムは、ピュールヘルツだったのですか?」
ヴァルリが念のために確認する。女性は首を振ると、
「自分は、ただの旅人だと、そう言っていました」
女性のその言葉に車内の空気が重くなる。重苦しいこの沈黙を破ったのはピューサだった。
そんな西の都モールの自慢は南の都ミュラーとは違い、やはり青い空と青い海だろう。早朝から始まる競り市は毎日活気に溢れていた。
しかし今では、モール内で怪事件が多発しているためか、市場に以前のような活気は見られない。
ひっそりとしている街の家々は、その扉を固く閉ざしている。朝が早い漁業の街なのに、それは異様で静かすぎた。
「街が、死んでいるみたいだ……」
ヴァルリは思わずそう呟いていた。確かに死んだように静かな街なのだ。
「なぁ、ピューサ。モールって一体どんな都なん?」
後部座席に座っているサミューが隣にいるピューサに尋ねた。
「簡単に言うと、漁業の街だな。空と海が自慢」
それと、とピューサは続けた。
街中には水路が広く取られており、都の住人たちは主に水路を使って舟で移動を行っている。水路と並行して陸路も充実してはいるが、この陸路は主に地方へ魚を輸送する時に使われている。
淡々としたピューサの説明を聞いたサミューは、
「じゃあ、俺らも舟で都を移動できるん?」
「この車がなかったらな」
「車、捨てるん? もったいない」
「お前はどこまで馬鹿なんだ?」
冷たい視線で冷たいことを言われたサミューが何も言い返せずに固まっていることをいいことに、ピューサは前の運転席にいるリールへと声をかけた。
「無事にモールへはたどり着けましたが、これからどうしますか?」
「そうだねぇ。この様子だと厳しいかもしれないけど、まずは聞き込みかなぁ? それとピューサちゃん。これからは4人で行動するんだし、敬語、止めよう?」
最後のリールの言葉を聞いたヴァルリは、助手席から後部座席へと身体を乗り出して口を開いた。
「そうだよ、ピューサ! リールなんかに敬語はいらないよ!」
「なんかにって……。僕一応、これでも25超えた成人なんだけど……」
リールは前を向いたまま苦笑いを浮かべて言う。その言葉を聞いたヴァルリは、
「知ってるよ? この中でいちばんのジジイだもんな!」
そう言ってキシシ、と笑った。
そんな他愛もない会話をしながらモールの街を走っていた4人は、突如聞こえてきた甲高い悲鳴に車の速度を上げた。
着いた場所はモールの港、マウス港だった。
そこには1人の女性が今にも海中へと引きずり込まれそうになっている。速度を上げた車が女性の元へ近づくと、どういうことか、女性を海中へ引きずり込もうとしていた魔物がすっと海へと帰っていった。
間一髪で助かった女性は放心状態だ。自分が助かったことにもまだ、気付いていない様子である。
ヴァルリが車から降りて女性へと近づいた。
「あの、大丈夫ですか……?」
ヴァルリに声をかけられた女性は弾かれたように顔を上げると、曖昧に微笑んだ。
腰が抜けてしまっているのか、座り込んでしまっているこの女性は30代半ばのように見える。日に焼けた小麦色の肌に、モールの人特有の黒に近い茶色の髪は、長年潮風に吹かれているせいかパサパサとしている。女性は緑のブラウスにブルージンズを
「ご婦人。何故、このような場所に?」
リールも運転席から出てきて女性に尋ねた。女性はまだ恐怖から抜け出せずにいるようで、声が出ない。それを見たリールは、
「僕たちは、ピュールヘルツです。モールの怪事件を解決するよう、国王ラジェルの命でここに来ました」
「ピュール、ヘルツ……?」
「よろしければ、僕たちにモールの実情を教えてはくれませんか?」
リールの言葉に女性は頷いて見せた。
ヴァルリとリールは女性に肩を貸して立たせると、自分たちの車へと案内する。
そしてヴァルリたちは女性の家に向かいながら、彼女から話を聞くのだった。
「数ヶ月前に、アダムと名乗る青年がこの都へ来たのです」
落ち着きを取り戻した女性はぽつりぽつりと話し始めた。このアダムという青年は、数週間モールに滞在していたようだ。
「とても明るく、陽気なアダムは、すぐに街中の人たちと仲良くなったのですが、ある日、その……」
女性はここで次の言葉を言いよどむ。
「ある日、何があったんですか?」
リールが先を促すと、女性はためらいがちに先の言葉を続けた。
「魔物を、倒してくれました……」
「何やて?」
サミューが思わず口を挟む。
この数ヶ月、モールはもちろん、このアトランス帝国内で魔物が出没したと言う報告は受けていない。つまりピュールヘルツがモールにやってきた、と言うこともないのだ。
それにこのアトランス帝国で魔物を倒すことが出来るのは、ピュールヘルツのみである。それは全国民の周知の事実だ。
「そのアダムは、ピュールヘルツだったのですか?」
ヴァルリが念のために確認する。女性は首を振ると、
「自分は、ただの旅人だと、そう言っていました」
女性のその言葉に車内の空気が重くなる。重苦しいこの沈黙を破ったのはピューサだった。