前世譚3 ❀ 彼には墓標もない

文字数 1,352文字

星を見た翌朝、雨は上がったけれど空に虹はかからなかった。


それから数日が経った。

(週に何度も本屋にいらしていたのに。ここ最近、顔を見せて下さらない・・・・・・。お忙しいのかしら)

実家の本屋で店番をしながら彼が現れるのを待つ。


けれども、一日、また一日と時は過ぎていった。

もしかしたら、ご病気かもしれないわ。

お見舞いに行こう……

アリエッタは、リカルドの家を訪れた。


玄関に出てきたのは、家政婦だった。

こんにちは。

あの……リカルドさんはご在宅ですか?

あの方なら、ここにはいないよ
いない……? どういうことです? 一体どちらに!?
それは……
お客様かい? 一体どなただ?

あなたは……リカルドのお父様!

なんだ、本屋の娘か。

うちに何の用だ。

リカルドがこちらにいないとうかがって……。

彼はどちらに?

……。

君には関係のない話だ。

教えてください! リカルドになにかあったのですか?

 バタン!!


アリエッタの前で、扉は閉じられた。

彼になにかあったんだわ。

やはり病気? とにかく突き止めなくては・・・・・・

アリエッタはあきらめず、何度もリカルドの家をおとずれた。


門前払いされたが、アリエッタの気迫に圧され、とうとう家政婦がこう口を開いた。

あの方は、死んだよ

……そんな。嘘です!

彼が死んだなんて……信じられません

あの方は、異国の呪術を学ばれていた、とか。


ご主人様がそれを見つけて、大層ご立腹なされてね……

彼は確かに他国の学問に通じていました。

けれど呪術など行う方ではありません。


ご主人の早合点です。

すべて異端、呪術と決めつけるのは間違っています。

けれど神父様の前に引き出したら、

あの方が怪しい術を使われた……と。


神父様とご家族の立ちあいの元、悪魔祓いをしたが、狂い死んだそうだ。

悪魔祓いで……死んだですって……

アリエッタは、にわかには信じられなかった。

彼の遺体はどこに?

お墓は……

知らないよ!

もういいだろう、帰ってくれ。

それと絶対に話すんじゃないよ!

アリエッタは、おぼつかない足取りで墓所へ向かった。


墓標を見て回ったが、彼の名を見つけられない。 

墓標も立っていないの?

悪魔憑きと誤解されたから・・・・・・?

なんて酷い。

それでも、と町中探したが、彼の眠る場所を見つけられなかった。


彼のいない日々が過ぎていく。

秋の紅葉は黒に、冬の雪は灰色に……。

彼がいないのなら、なにもかもが……色あせて見える

毎日泣き明かして過ごしていたある日のこと。

アリエッタ。

あなたにお話があるの……

実はね……

アリエッタに、良家の子息との縁談が持ち上がったのだ。


父の親戚が、紹介した人という。

あなたがどれほど、リカルドのことを想っていたかは、よく知っているわ

彼がおまえを愛していたことも。

結婚の約束をしていたのだから。

けれど彼は帰らぬ人となってしまった……

あなたの幸せを私たちは望んでいるわ。

だから……

(私が彼を忘れることを望んでいるのね)
アリエッタは、両親をまっすぐに見つめた。

彼を忘れることはできません。

私一人が幸せになることも。

二人で幸せになりたかった。

彼は決して悪魔憑きなどではありませんでした。

澄んだ目で星の名を教えてくれる心優しき人だった……

彼の魂を、誰が悼むというのだろう。

私だけは、彼に一途でありたいのです

アリエッタは、修道者を志願した。

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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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