技術と政策

文字数 4,661文字

1 〝文明の星〟




文明とは〝(土木技術や国家組織など)
高度な自然・社会科学的技術を持った、
知的な社会活動の様式(パターン)〟です。

社会科学的な技術は政策実現のためにあるので、
文明とは〝高度な技術と政策を持った、
社会活動の様式〟ともいえましょう。

文明活動の本体は、
全ての人々が営む【経済・社会活動】です。
自然から富を得て、
経済・社会活動を豊かにするのが【科学・技術】、
人々の間で富を分けて、
経済・社会活動を健全に保つのが【制度・政策】です。

これらが、3つの文明活動要因です。
以後は技術、政策、社会活動というように、
略して書くこともあります。

これらは、〝知る・決める・行う〟
という個人の知的活動の段階を、
社会の活動に当てはめたものといえます。

しかし、技術は【物的資源】に具現化されないと、
社会活動を豊かにできませんし、
政策は【人的資源】により実現されないと、
社会活動を健全に保てません。
また、政策が次の技術を開発する際には、
資源や市場など【自然・社会環境】が影響します。

これらが、3つの内外環境要因です。
もっと簡単に言えば、ヒト・モノ・環境と
略することができましょう。

〝知る・する・決める、ヒト・モノ・環境〟
という6つの文明要因を、
〝ダビデの星〟〝ソロモンの(シール)
あるいは〝籠目紋(かごめもん)〟ともいわれる、
六芒星(ろくぼうせい)(ヘキサグラム)の形に並べて図示し、
説明するのが〝文明の星〟理論(仮説)です。


2 技術と政策




自然から富を得て社会を豊かにする技術と、
人間同士で富を分けて健全に保つ政策には、
どちらも直接・間接・自助・互助という、
4つのルートがあります。

社会に大きく、直接的に働きかける、
いわば直接ルートが、
主力(画期的)技術(農業、工業、情報技術など)と
経済・社会政策(社会保障、産業振興など)です。

主力技術や経済・社会政策の実現条件である、
物的・人的資源を生み出す間接ルートが、
関連(具現化)技術(土木、冶金、電子工学など)と
人的資源政策(教育、保健など)です。

広い意味では技術も政策も、
経済・社会活動の一部といえるので、
技術と政策が自身を助ける、いわば自助ルートが、
研究・開発技術と行政管理政策です。

同様に、技術と政策が、
広義では経済・社会活動の一部である、
相方(あいかた)の政策・技術を助ける互助ルートが、
社会工学的技術と技術的政策です。

以上のような技術の4分類を覚えやすく言うと、
『産んで育てて、変えたら助ける』となります。
(科学・技術を生む)研究・開発技術
(物的資源に育てる)関連(具現化)技術、
(経済・社会活動を変える)主力(画期的)、
(制度・政策を助ける)社会工学的技術です。

また政策の4分類を同様に言うと、
『作って分けて、上げたら活かす』となります。
(富を作る技術を助ける)技術的政策、
(富の配分自体が重要な)経済・社会政策、
(人を確保する)人的資源政策、
(人を活用する)行政管理政策です。


3 社会工学的技術の分類




社会工学的技術は、政策のどのルートを助けるかで、
さらに3つのルートに分けられます。

(1)組織・会計技術……共同対処ルート
経済・社会政策を助けるルートです。
公的保険政策を担う企業保険組織や、
産業政策の基礎にもなる財務諸表などの技術です。
大きな経済・社会活動に直接働きかけて健全性を保つ、
経済・社会政策を助けるために、
自らもまた広く経済・社会活動の中で共に働きます。
これにより、広くは民間組織の決定も含む、
政策による利害調整の生産性(効率性)を高めます。

(2)公教育・公衆衛生技術……部分支援ルート
人的資源政策を助けるルートです。
政策実現の必要条件たる人的資源を確保する、
教育・保健といった人的資源政策を助けるために、
一般の経済・社会活動からは得にくい部分の
支援を提供する技術です。
私的な教育や健康法と違って、
社会全体の教育や健康に関わる政策には、
より公共的な配慮や専門的な知見が必要です。
そこで、それらを含む公教育や公衆衛生の技術が、
教育・保健政策の実施を助けます。

(3)企画支援技術(オペレーションズ・リサーチ)……特別注文(カスタムメイド)ルート
行政管理政策を助けるルートです。
政策自身の健全性を保つ行政管理政策において、
行政活動の生産性(効率性)を高める技術です。
広い意味では経済・社会活動の一部とはいっても、
公共性や公的権限を持つという行政活動の特殊性に応じ、
いわば特別注文(カスタムメイド)の支援を提供する技術です。
英国の対潜水艦戦や本土防空戦の中で生み出され、
発達したことで知られます。

もっとも、以上の分類は理論的なもので、
現実的には重なるところもあります。
しかし、そうした重なりを考えるのも面白く、
さらなる技術の開発や応用に役立つと思います。


4 技術的政策の分類




前章では、社会工学的技術が
3つのルートに分かれることを説明しましたが、
技術的政策もまた、技術のどのルートを助けるかで、
3つのルートに分けられます。

(1)社会工学的政策……共同対処ルート
主力(画期的)技術を助けるルートです。
環境保護や都市整備、防災・防犯政策において、
民間団体や市民の健全な技術利用を促すため、
防災団体支援や建築規則・ごみ出しルールなど、
社会工学的な組織・規制技術を用いる政策です。
名前の印象とは違い、社会工学の力を借りて、
実は大きな主力(画期的)技術の活用を助ける政策です。
豊かな工業社会では、大災害時に消防署だけでは手が足りず、
また皆でルールを守らないと街はごみであふれてしまいます。
便利な情報社会では、特殊詐欺対策に銀行の協力も必要です。
経済・社会活動を大きく変える主力技術の、
悪用・誤用・副作用を防ぎ、活用するため、
自らもまた広く経済・社会活動の中で共に働きます。

(2)社会基盤(インフラ)政策……部分支援ルート
関連(周辺)技術を助けるルートです。
主力(中核)技術を物的資源に具現化する、
土木・電気・通信など関連(具現化)技術の健全性を保つため、
一般的な経済・社会活動からは得にくい部分の
支援を提供する政策です。
例えば、自動車や家電・パソコンなら民間市場が供給できますが、
公共施設や交通・動力(エネルギー)・通信網など、
社会基盤(インフラストラクチャー)の建設には公的な出資や調整が要るので、
そうした大規模な物的資源を整備する政策です。

(3)研究・開発政策……特別注文(カスタムメイド)ルート
研究・開発技術を助けるルートです。
科学・技術の研究・開発自体の効率性を高めるために、
利害を調整する政策です。
広い意味では経済・社会活動の一部ですが、
先行投資、情報管理、社会的影響への配慮などを要する、
研究・開発活動の特殊性に応じ、
いわば特別注文(カスタムメイド)の支援を提供する政策です。
英国が産業革命、米国が情報革命に成功した大きな理由に、
民間組織も含めた研究・開発政策の努力があげられます。

もっとも、以上の分類は理論的なもので、
現実的には重なる部分もあります。
しかし、そうした重なりを考えるのも面白く、
さらなる政策の立案や連携に役立つと思います。


5 技術の分類から分かること




以上のうち、技術の分類を知ると、
技術と社会の関係を語る技術社会論の、
様々な名著の内容が分かりやすくなります。

『第三の波』(A.トフラー)に書かれた、
文明の波を生み出す農業・工業・情報技術や、
『シンギュラリティは近い』(R.カーツワイル)の
時代を変えるAI技術は、まさに主力技術です。

経済・社会活動を大きく変え、
制度・政策まで変革するような技術、
文明の発展段階を画するような、
文字通り画期的な技術です。

ただし、畑や動力機関、電算機だけがあっても、
土木建築・機械・ソフトウエア技術などがないと、
社会を変えることはできないので、
そうした関連(具現化)技術も重要です。

また、『サピエンス全史』(Y.N.ハラリ)にある、
虚構(フィクション)により人を動かす技術が、
制度・政策の実現を助ける、
社会科学(社会工学)的技術です。

もっとも同技術の学問的な定義は、
〝自然科学に加えて人文・社会科学的な
知識も利用した技術〟なので、現実の知識に加え、
虚構も重要な役割を果たすということでしょう。

文明を次の段階に進めるうえで、
他技術に劣らず重要な技術が研究・開発技術です。
現代科学は巨大科学(ビッグ・サイエンス)と言われるように、
大規模であり、政策的な支援が必要だからです。
技術の進歩や社会、政策の変化が加速化する今、
その重要性はさらに高まっていると思います。


6 政策の分類から分かること




政策の分類を知ると、
国連から国、自治体まで広く、
現代政策の内容が分かります。

国連の総合政策SDGsには、
5Ps(ファイブピーズ)という5つの要素があります。

それは環境の持続可能性をめざすPlanet(地球)、
経済の持続可能性をめざすProsperity(繁栄)、
社会の持続可能性をめざすPeople(人々)、
政策の持続可能性をめざす
Peace(平和)とPartnership(協働)です。

これらは主に技術的政策、経済政策、
社会・人的資源政策、行政管理政策に対応します。

社会政策と人的資源政策は、
保健福祉というように関係が深いのでまとめ、
行政管理政策を、行政の世界化と分権化に応じて
平和と協働に分けるといった、
実務的な修正が施されているだけです。

港区、新宿区、板橋区など市区町村にも、
以前から同様の、合理的で先進的な
政策体系をとっているところがあります。
逆に言えば自治体も行っている総合政策を、
初めて世界化したのがSDGsの意義でしょう。

国のソサエティ5.0という政策は、
狩猟・農業・工業・情報社会に続く、
AI社会への移行をめざした、
技術的政策ということができます。

同じくデジタル改革(トランスフォーメーション)という政策も、
情報~AI社会化を図る技術的政策のうち、
行政管理/経済・社会政策と重なる部分を
示したものといえます。

この他スマートグリッド、スマート(スーパー)シティ、
マイナンバー、データヘルス、EdTech(エドテック)活用などの政策も、
社会基盤(インフラ)政策や行政管理/経済・社会政策、
人的資源政策において重なる部分といえましょう。


7 まとめ




『知る・する・決める、モノ、ヒト、環境』、
6つの要素で文明を語る〝文明の星〟理論では、
『産んで育てて、変えたら助ける』
『作って分けて、上げたら活かす』
という、どちらも4種類ずつの技術と政策を、
完全に左右対称の形で説明することができます。

裏を返せば、すでに技術社会論の名著や、
各種行政計画で語られてきた内容を、
バランスよく組み合わせただけで、
〝コロンブスの卵〟のような発見ですが、
これがそれらを〝初めて分かりやすくまとめた〟
理論であったなら嬉しいです。

技術と政策は文明の両輪、両翼であり、
技術なくして文明の進歩なく、
政策なくして文明の健全はありません。
両者は相伴って、文明発展上の
様々な課題を解決してきました。

人類は今、地球環境の限界、社会活動の複雑化、
健康水準(社会的健康含む)の低下、
政策変更(世界化など分権化と、
民主化など分権化)の要請に直面しています。

農耕技術は文明を生み出し、
工業技術は世界に拡大させ、
情報技術は地球という環境的限界への
到達による衝撃を緩和しました。

今後は、AIを中心とした次世代の各技術と、
それらを開発・活用する各政策が、
惑星上における文明の持続的発展を達成し、
さらには宇宙への飛躍も実現できるよう期待します。

〝文明の星〟理論は、様々な漫画、小説、音楽、
イラスト、アニメ、ゲーム動画などに感動し、
SF『Lucifer(ルシファー)』を書く中で
考えることができました。
素敵な刺激を与えてくれる、文化的作品に感謝します。

ご興味のある方は『文明の星』など、
関連の他作品もご覧いただけましたら幸いです。
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