第3話

文字数 1,805文字

「奥さん!こんな寒い日だ温かいお茶でも飲んでからお帰りなさい」
姉キツネが急いでいるのでと帰ろうとすると
「いや実は、今思い出したんだけどね、
昨日、新しい風邪薬が入ってたんだよねー
さっきの風邪薬より もっと効くものらしいんだけどコロッと忘れてて、まだ地下の倉庫に置いたままでね。子供さんの風邪が心配でしょう。 
いまの風邪は たちが悪いからねー 
良く効く風邪薬の方が絶対良いでしょう。  
お茶を飲んでる間に持ってきますよ」
おじさんは、早口に一気にまくしたてました。
姉キツネは、すぐにでもこの場から逃げたかったけれど 親切なおじさんが言うように
妹の為に もっと良い薬が欲しくなりました。
「じゃあ 新しい薬をお願いします」
「はいはい、すぐ持って来ますからね
このお茶でも飲んで待っててくださいよ」
いつの間に用意していたのか
机の上にお茶が置いてありました。
姉キツネは おじさんの元へ行き出された椅子に座りお茶を手にしました。

おじさんはニッコリ笑うと
薬棚の横にある扉を開けて地下の階段を降りて
行きました。トントントントンと階段を降りる
軽快な音が聞こえてきました。
実は地下の倉庫に おじさん愛用の鉄砲が置いてあるのです。
小さな豆電球がついた薄暗がりの中、
おじさんは 鉄砲♪〜鉄砲♪〜鉄砲♪〜は
どこかいな〜と鼻歌まじりで上機嫌です。
おっ あったあった。
愛用のずっしりと重い鉄砲をケースから取り出し弾を入れ込みニマニマと笑いながら
飛ぶ様に階段を上がって行ったのです。
トントントントントントン
ですが、あまりに気持ちが急ぎ過ぎていたせいか扉に手を掛けようとした次の瞬間❗️
なんと 足を滑らせて階段の1番上から1番下まで
鉄砲を抱えたまま真っ逆さまに落ちてしまったのです。

ぎゃー ガタガタドッスン!ドッスン!ガタガタ
ドッスンドッスン 痛たたたたたーーー

店に居た姉キツネは その音を聞いて椅子から
飛び上がりました。
そして 怖々とおじさんが降りて行ったドアの前から声をかけたのです。
「あのーーーご主人、、どうしましたか?」
おじさんは 全身をあちこちに打ちつけて階段下の床の上で動く事も出来きず
うずくまっていました。
「あのーーー良く効く薬はありましたか?」

おじさんは痛みで顔から脂汗を出しながらも
考えました。
これはまずい、もし今あの扉を開けられて
鉄砲を見られでもしたら騙された事に怒って
あの女は獣に豹変するかもしれない、、、、
おじさんは急に怖くなりました。

おじさんは つとめて明るく
「いやー申し訳ない。一生懸命探していたんだが
どうしても見つからなくて。今は早く子供さんに薬を飲ませた方が良いでしょう。
さっきの薬でも充分効きますから大丈夫ですよ。私は薬を探して散らかった物を片付けますので ここで失礼しますわ。お大事に」
姉キツネは妹の為に良く効く薬が欲しいと思っていましたが、無いなら仕方がないとガッカリ
しながら店をでました。

巣穴に帰り妹キツネに薬を飲ませると
次の日、嘘のように熱が下がり元気になりました。
どうやってこの薬を持って来たか、妹キツネに
話すと あまりの驚きに声がでないようでした。
お姉ちゃんが人間に化けて、人間から薬を貰ってくるなんて、、、あのお姉ちゃんが、、、
妹キツネは姉に抱きつき
お姉ちゃーんお姉ちゃーんと泣いていました。

姉キツネは思っていました。
あんなに一生懸命 薬を探してくれたなんて
人間って本当は噂より、良いものなのかもしれないわ。私が疑り深すぎていたのねと。

あの後、薬屋のおじさんはどうなったでしょう。
地下の倉庫から大声を張り上げ、奥さんに助けて貰い病院へ運ばれました。
ようやく治療が落ち着いた頃、どうしてこんな事になったか奥さんに話すと、
奥さんはカンカンに怒り出しました。
「子供の為に薬を買いに来た人を殺そうとするなんて、あんたは人でなしだよ。だからバチが当たったんだ」
「人じゃないんだ、キツネなんだよ」
「どっちだっておんなじ事だよ」
「だってお前だって「キツネの襟巻き」
が欲しいって言っていただろう、
だから俺は、、、」
「私はそんな事 1度も言った事はないね。
私が欲しいと言ったのは「キツネの襟巻き」
じゃなくて新しい「毛糸の腹巻き」だよ!
本当にあんたって人は!と凄い剣幕で病室から出て行ってしまいました。
「毛糸の腹巻き???」
からだ中 包帯を巻かれて寝ている
おじさんの口は あんぐりと口が開いたまま
しばらく閉じませんでした。


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