第1話

文字数 617文字

 まどろみの中でミントの声を聞いた。

 ――もう朝か。

 薄ぼんやりと、伸びをしているキジトラが目に浮かんだ。
 オレのことを呼びつけるかのように鳴くくせ、そばに行ってやれば、気のないフリして耳の裏をかきむしっているような猫だった。
 過干渉が嫌いなところはオレ譲り。だけど、たまにかまってやるそぶりを見せないと、寂しさで機嫌が悪くなるんだ。

 目覚まし時計に手を伸ばす。いつものとおり、6時半。
 まずは自分にミルクチョコレート。
 ミントに与えるついでに温めていたのだが、おなかをくだす原因が牛乳にあると知って、その名残のまま自分だけ牛乳を飲む。
 ついでにいえばチョコもあげてはいけない食べ物のうちのひとつだという。玉ねぎもだめで、生のイカもだめ。

 面倒だからキャットフードだけにしてみたら、本人よりオレのほうが味気ない思いがして、あの細長いレトルトパウチに入ったおやつを食べさせるようになっていた。
 チロチロとなめる小さな舌に見とれ、まだ入っているんだろうとばかりに催促してくる前足に、まさにハッとさせられ、底の方から絞り出す。

 飼い主あるあるかといったらそうかもしれない。
 でも、それはオレとミントの唯一無二の時間だった。

 ミントの声を録音してから3年か。
 声を録音できる目覚まし時計は小学生のころ、親に買ってもらった物だが、こんなことで役に立つとは思わなかった。
 目覚まし時計に設定したミントの鳴き声は、老いもせずに一日の始まりを告げる。
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