第119話  入れ替わり体質の敗北 3

エピソード文字数 5,022文字

もも。まろ。ちょっと入れ替わってくるね

 そういい残し、俺は自分の部屋に戻ってから蓮へと入れ替わる。


 そう。俺たちの試練とは……


 男と女に入れ替わっても、わんちゃん達が認識してくれるかどうか。それが問題なのだ。

……ま~ろちゃ~ん。ももちゃん~~

 リビングのドアからゆっくり顔を出すと……


 当然のように固まるわんちゃん達。

 誰だこいつみたいな顔をされても気にするな。

…………
……?

 さっきまでフリフリしてた尻尾まで止まってしまうと、ゆっくりと後ずさるわんちゃんは、スマホに夢中な華凛の傍へと避難していた。



 分かってる。分かってるよ。もも。まろ。

 何か変な男が来たぞ。って思ってるんだろ?



 俺はそろーっと部屋に侵入しようとしたその時だった。


 ももとまろが一斉に「わんわん」吠え出すと、あまりのショックに部屋から逃げてしまった。

ぐっ。やっぱり分かってくれねー!

 姿形も違うし、声まで違うからな。



 しかも俺が姿を消すと、リビングの中からこちらを覗きこんでいるではないか。

 半端なく警戒されちまってる!

 さっきまでのフレンドリーなわんちゃんとはかけ離れた態度に、マジで涙が出そうだったが、ここで諦めてはならぬ。



 何が何でも。ももとまろに分かってもらわねば。

は~い。蓮くんです! ももちゃんまろちゃんよろし……
ワァウ!
ウゥ~
ちょ! ま……
 笑顔で自己紹介している間にも吼えられまくると、俺はごめんなさいと謝ってから、部屋から逃げるように立ち去っていた。
だ、駄目だ……

 入れ替わり体質ってやつは……

 わんちゃんとの友好関係にも溝を作ろうというのか。くっそお!

も~。ちょっと邪魔しないでよ。お兄ちゃん! 相手してあげてよっ!

 こっちは必死に分かってもらおうとしてんのに、相手にされねーんだよ!



 部屋を覗き込むと、華凛がわんちゃん達に絡まれている。俺はその横にあった「おやつ」が目に入ると、今の状況を打破する策が思い浮かんだ。

おい華凛。おやつを袋ごとこっちに投げろ
あっ! もうっやられちゃったじゃない!

 わんちゃん達の妨害に遭い、ぷんすかしながら華凛はおやつを袋ごと投げてくれた。


 それをひょいっと受け取った俺は、ジャーキーを取り出し、わんちゃん達に見せる。

おやつですよ~。お兄さんは怖くないよ。ね? あげるから仲良くしよ……

 説明している間にもジャーキーを奪われてしまう。


 わんちゃんに対し、凄まじい威力を持ったおやつに嫉妬しながらも、俺はまろちゃんの背中を触ろうとした。


 その時だった。

ウゥ~~!
ええっ!

 ジャーキーを咥えたまま唸り出したまろに、俺はもう生きた心地がしなかった。


 何故そんなに蓮は毛嫌いされるのかさっぱり分からず、さっきの怒った声にショックを受けた俺は今度こそその場で床ペロするのだった。

おやつやったの俺なのに。何で怒られるんだよ

 ジャーキーを食らい、俺から離れていくわんちゃん達。



 結局……あいつらはジャーキーだけが目当てだったのだ。

ねぇ~お兄ちゃん。私もそろそろ入れ替わろっか?

 リビングからそんな声が聞こえてくるが、あまりにも過酷な現実を垣間見た俺は、完全敗北を認め、真っ白に燃え尽きるのであった。



 すると、その十秒後には……

わっ! ちょっと! お、お兄ちゃぁん!
 部屋の中で聞こえるわんちゃん達の咆哮。そんな叫び声の中、部屋を覗いてみると、ももとまろが走り回って、凛から逃げ出していたのだ。
馬鹿お前っ! 何で入れ替わるんだよっ!

 こりゃやべぇぞ! 完全に別人になっちまった二人を判別できないももとまろは、俺達を視界に入れるなり、部屋の隅っこへと逃げてしまっていた。



 ああっ、なんてこった。



 坂田さん家から築いてきた信頼関係を持つものがいなくなった今、わんちゃん達は俺達をモンスターを見るような目で見てやがる。



 しかもわんちゃん達が大人しくなると、凛は普通にソシャゲーやってるし。

大丈夫だよ。その内分かってくれるよ

 ったくお前は。そんなに軽く言うなよ。




 いいか凛。お前ももうちょいももとまろの気持ちになって考えてみろよ! 


 向こうはきっと、変な男達に食べられるかもしれない。そう思ってるかもしれないだろ?

ほら。怖くない。俺はももとまろの仲間だ

 目の前で寝転がって仰向けになる、怖くないアピールをするが、ももとまろは俺を見ているというよりも「おやつの袋」を見ていた。



 何となく分かってきたぞ。


 こいつら……俺達なんてどーでもよくて、完全におやつ狙いなのだ。



 だけど……あまりおやつを上げてしまっては、わんちゃんの身体も心配になっちまうし……


 坂田さんもあまり与えてはダメと言うし……

 だけど紫苑さんは「可愛くてついついあげてしまう」とも言う。



 くそっ! 

 だけど、このままじゃ全然歩み寄ってくれない。

最後だぞ。これをやるから。仲良くしようっ。ねっ?
袋から取り出した瞬間、部屋の隅っこから恐る恐る出てきたまろとももを捕縛すると、抱きかかえながらおやつをやることに成功した。



 もうおやつはやらん! 今日は絶対にやらんぞ。 

 

 ってか、おやつに負けてる気がして、自分の中で許せない部分があったりする。というか完全に負けてるだろ。

あぁっ。ももちゃん。まろちゃん。俺は幸せだ……

 おやつの効果がある間に、凛の横のソファーに座り、ソシャゲーを見ていると、ももとまろは逃げようともせず、その場で座りだしてくれた。


 今はそれでいい。ただおやつが欲しいだけで俺の近くにいてくれるだけで満足だ。


 これがいつか……本物の愛になると信じて。

ほら。美優お姉ちゃんも来てくれたよ。やっぱ上手いや
 凛が絶賛するなか、俺はわんちゃん達と戯れているのに夢中だった。



 よし! 割と簡単に膝に落ち着いてくれたのは大きいぞ。

 しかもわんちゃんの体温が伝わってくると、俺はもうこのまま逝ってもいいとさえ思ってしまう。

もも。まろ。仲良くしようね
 そう言って撫で撫でしていると、凛が急に「うわっ」と叫ぶと俺から離れる。
どうした?
これ……おしっこ?
え?

 気付いた時には遅かった。ソファーの上で催したのはまろであり、作業を終えるとわんちゃん達はバラバラの方向に逃げ出した。

ぬぅわ……やっべぇ!

 ま、まだまだ初日だからな。いい。いいよ。別にいい。


 これからちゃんと教えればいいだけ。そうだろ?

 

 徐々に慣れていってもらって、おトイレも出来るようになって、男や女になる俺達を、も~っと理解して欲しい。


 もちろん。ももやまろの気持ちも理解してあげなければ。

 

 

 そう! 俺たちの物語は、まだ始まったばかりなんだ。


 ※

ちょっとあんた。どういうことなの?
え? 何が?
 聖奈からの電話。それは午前一時頃の事だった。
何よこの顔は。どーなったらこんな顔すんのよっ
 どうやら聖奈は、平八さんが撮った写メについてプリプリ怒っているようだ。
いや、あれだ。今日一日わんちゃんと戯れててな。あまりの可愛さに、気をやってしまったかもしれん

 今は俺のベッドでももとまろが就寝中である。俺の猛アタックが功を奏したのか、一日で「一緒におやすみ」関係にまでレベルアップしていた。


 四時間毎に、楓蓮→蓮→楓蓮と入れ替わり、わんちゃんもさぞかし混乱しただろうが、今はもう「こいつは安全な奴だ」と認識されたらしい。



 ここでも俺はわんちゃんの可愛さを説いたが、ある程度は平八さんから聞いてたらしく、「聞いた」と連呼する聖奈は初っ端からむすっとしたような口調になっていた。 

お前も来ればいい。別にいつでもいいんだから
行きたいけど……GWは無理ね。今から海外に飛ばなきゃだし
マジ? それって仕事関係?
うん。私だってどんな犬なのか見たいわよ。仕事投げ出したい気分だわっ
そっか……分かった。帰ってからじっくり見に来ればいいさ
 あんまり言うのはよそう。本当にサボったら大変だし、さっきから「行きたい」を連発しているからな。
でもさ、聖奈。何でお前がそこまで仕事しなきゃいけないんだ?

 この話をすると、いつもはぐらかされる。

 だけど、やっぱり気になるんだよ。


 今日聞く限りでは、仕事をしているのは乗り気でない感じがしたからだ。

俺たちは高校生だぞ。別に嫌なら辞めればいいじゃないか?

 やはり。聖奈は黙り込んでしまった。

 少々後悔しつつも、俺は続ける。

それか、親に言われてるとか? それだったら俺が……
ううん。今の仕事は、私自身が望んでやってる事。親は関係無いわっ
 いつもの口調で反論し出した聖奈に、今度は聞き手に回る。
会社的にも今が大事な時期なの。だからちょっと頑張らないといけない
本当はあんたやミユマユと遊びたいよ。だけど……

 そこまで言うと再び黙り込んでしまったので、結局「もういいよ」とストップを掛けるのだった。


 だが今日は「あっ」と漏らした聖奈は、俺が言うよりも先にこんな提案をしてくる。

あんたにやってもらう事を思いついたのよ
本当か? 何か手伝えることが出来たんだな?
 俺はいつも「何か出来る事は無いのか?」と言いまくってたからな。
今度、パーティがあるって言ったでしょ? あの時に説明するわっ。あんたなら絶対行けると思うの
な、なぁ……もしかしてそれって楓蓮でのお手伝いだよな?
え? 別に蓮でもいいわよ。恥ずかしくなければ
恥ずかしくなければ?

 パーティ。楓蓮。恥ずかしい。ときたら……

 何となく俺が思い描いていたお手伝いとは、程遠い気がしてきた。


 何となく女の子というのが重要なんじゃねーだろうな?

そうそう。ミユマユも呼びたいのよ。あの子達もきっと出来るようなことだから
わ、分かった。分かったよ。それがお前の手伝いになるんなら……やってやる

 自分に言い聞かせるように、これは聖奈の為だと思うと、モチベーションを自己回復させる。

 

 ついでに聖奈までミユマユって言ってるし、便利な言い方だわ。

ねぇ楓蓮。あのさ……別に私は、借りなんて返してくれなくていいんだけど。

それに私は借りとも何も思ってないし

いや俺は……お前に色々とやってもらってるし、何となく納得できないっていうか、対等の立場でいたい。と思ってる
すると聖奈はふぅっと溜息を吐いてから、
じゃあ、帰ってきたら、また一緒に寝てくれる?
うん。何なら……楓蓮の場合なら好きに弄れよ
本当?
いいよ。女だとあんまり気にならないし、マッサージなり何なりやれるだろうし
言ったわね。覚悟しておきなさいよ
 いつもならビビって縮み上がってしまいそうな台詞にも、俺は平常心だった。
ああ構わん。お前だったら何してくれてもいい
 本当にそう思ってる。それだけ聖奈に気を許しているつもりなんだ。
あっ、そう。じゃあ……胸を揉みくちゃにしてもいい?
それはいつもやってるだろ?
吸ってもいい?
おいおい
じゃあ……華凛ちゃんみたいにするスキンシップは?
じゃあお帰りのキスとか
下半身を弄りまわってもいいわね
まてまて……それは色々と問題が
レズってみる?

 と、そこで俺は白旗を振った。


 あまりにも突拍子も無いというか、俺がついていけなくなったのに気が付いたのか、電話越しに笑い声が聞こえる。

ありがと楓蓮。仕事行く前に元気になったわっ。帰ってくるのが楽しみね
そっか。それならいいんだ
 無意識に言葉に出していた。ちょっとでも聖奈が元気になってくれたら、別に弄られようが構わない。
じゃあね。おやすみ楓蓮
おやすみ。聖奈

 電話を切ると、すぐ横で寝ているももまろ達をナデナデしながら天井を見上げる。



 まだGW二日目だし、入れ替わり体質にとって久しぶりにゆっくり出来そうだ。


 サイクルも自由だし、喫茶店も休みだし、ももまろはいるし……

 ミユマユちゃん達とももっと遊びたいし、やることは沢山ある。


 もちろん。楽しいことばかりなので少し考えるだけでも笑顔になっちまう。


 

 

ももまろ。これからは末長くよろしくな。

ウチに来て良かった。そう思ってもらえるよう、頑張るから

 こうして黒澤家にももとまろという新たな家族が増えた。 

 是非ともこの連休中に仲良くなってしまわねば。

 

 もちろん明日からはミユマユとも仲良くしたいし、やることは沢山あるぞ。

 俺にとっては楽しいイベントばかりである。



 この街に引っ越してきて、本当に良かった。

 まるで今までの人生はなんだったのかというほどに、充実している。


 親父が言ったようにこれからの人生は、良い方向へ進んで行ってもらいたい。

 

 

 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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