その後の世界で君とともに

文字数 2,354文字

ぽんたしろお 様作

【あらすじ引用】
 たった一日の世界大戦が終わったあと。
 文化も技術も失い、それどころか、人間の存続すら危うくなった。
 人々は人類を存続させるためのシステム作りを構築しはじめた。
 人間の種の保存を第一目的とし、生れてきた人間の命と繁殖のための義務が、全てにおいて優先した世界。人口増加のため精子卵子を人工授精し、人工子宮で育成するシステム。生れた命は徹底的に保護されながら、一方で自由と人権のない状態を受認せざるを得ないシステム。そのシステムを常識と考える若者たちが世界を担い始めていた。
 
 半径三十キロ圏内に居住者が一人という体制。それは争いと殺し合いを避けるためのシステム。命を徹底的に守るシステム。
 システムが動き出し、人工授精で生まれたカイトは日本札幌居住区で教育特化型アバターのパマに育てられ、十八才の年齢を迎えていた。
 パマが去る日、彼女がカイトの元にやってきた。
  
 カイトの精子提供義務を補助することを第一目的とし、カイトのためだけにブラッシュアップされたアバター・ニーナ。ニーナは、カイトの十八才の誕生日、教育型アバター・パマから引継ぎ、カイトに全てを捧げるために、カイトの前に現れた。
 パマが去り、カイトはニーナに導かれ、義務を果たすためにニーナと身体を重ねた。二人だけの生活が始まる。

 ニーナが見守り愛を注ぐカイトを、見つめている女性がいた。リアルでの接触を試みるユキコ。彼女は世界のシステムに疑問を持ち、自分のからだで妊娠出産をしたいと決意していた人間の女性だった。
 世界のシステムを受け入れ、パートナー型アバターとの生活に疑問を持っていなかったカイトは、ユキコとの出会いをきっかけにニーナへの想いを新たにする。

 やがてカイトはニーナが機械のからだゆえ、悩み始めていた。ニーナがニーナであるとは何を意味するのか?

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません

【物語は】
主人公のある思想から始まっていく。
ここで思想自体の面白さを知る。人類は危機に陥ると、種の温存が優先される。そのことについては簡単に想像がつき、納得いく回答だろう。
人が他人を傷つけようとする行為にむずびつく感情の一つ、”憎しみ”。これは余裕そのものなのかもしれない。

そう人口減少を抑えるためには、他人を憎んでいる場合ではないという事。そこまで余裕がなくなるという事は、この世界は未曾有の危機に瀕していると考えるのが妥当である。そんな背景でこの物語は始まっていく。
徹底管理された世界の中で、主人公は疑問を抱かずに過ごしている。最初の一文が意味する”今も”は何を指しているのだろうか。

【物語の魅力】
まずどのような世界観なのかが、語られていく。ある日を境に、世界は一変した。恐らく、危機を感じるほどの人口減少だったのだろう。人口を増やすことを最優先しなければならないほどに。そして人間が互いに近寄ることを許さないほどに。
世界観、舞台の設定が細かく、しっかりとしている。理由付けがなされている為、システムが理解し易い。この物語で興味深いと感じたのは、男女差である。確かに男性の方が、このシステムに疑問を抱き辛いのではないだろうか?

男性は直接、子を産むわけではないからだろうか。女性が自分で、産み育てたいという気持ちが湧くのも分かる。
この世界では、人が徹底管理されており人を増やすために導入されているパートナー型アバターというものが存在する。好み通りだから愛情を持つのだろうか。仮に好み通りだとして、楽しいと感じることが出来るのだろうか。
安心、安全を突き詰めていくと、こういう世界になるのかも知れない。とどのつまりは、人が接触しないことが安全であり、安心であるということだ。しかしながら、幸せとは比例しないと思われる。

【登場人部の魅力】
この物語の中心人物は、もちろん人間の男女なのだろうが、パートナー型アバターの思考も面白い。人間の二人は、考え方が対照的である。主人公の感覚はまとも。情操教育がきっちりなされているのだと思われる。

この物語の中で一つ疑問に感じるのは、多様性についてである。徹底管理と言うと、軍隊のようなイメージが湧く。同じような思想を持ち、機械のような。
彼らを育てたのは、アバターだ。人間ではない。性格は遺伝子、思想などは環境で決まるのではないかと思う。
育てたアバターに差異はないと想像するので、性格の違いは遺伝子によるものなのだろうか。色々と考えさせられることが多く、面白いなと感じた。

【物語の見どころ】
世界観の設定が細かく、何故こうなのかが明確であり、理解し易い。そして、必然性があるから、舞台設定が細かいのだという事に気づかされる。
そしてアバターが単なるAIではなく、人間同様の思考を持つこと。自分自身を人間ではないと理解しながら、人間に寄り添うことや相手の思想や感情を理解することが出来るという事だ。
そこが想定外であり、面白い部分であると思う。

人間同士である、主人公とお隣の住人の女性。彼らは思想や性格が正反対だ。主人公は相手を受け入れることが出来ない。しかし、女性は強引。しかも、相手が近場なら誰でも良いようである。
彼女の望みが理解できないわけではないが、少し自分の欲望に忠実過ぎる。その為うまく行かないのが、彼女の残念な部分。
この二人は、この後どんな関係になっていくのだろうか。

この物語は主人公と彼のパートナー型アバターとの物語である。この女性が二人に干渉、接触したことにより、主人公たちに変化が現れてくるのではないだろうか?

あなたもお手に取られてみませんか?
彼らの導きだした答えとは?
どんなラストを迎えるのか、是非その目で確かめてみてくださいね。
おススメです。
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