壱・俺がヒーロー?!

文字数 2,222文字

俺がヒーロー?

「校長先生、お呼びですか。」
「うむ。よく来た、イチローくん。」

ここは、東京某場所にある『聖書神学校』の、校長室。
数年前にできたこの聖書神学校は全てのキリスト教派がお金を出し合って造った巨大な神学校だ。
日本の神学校がどんどん閉鎖していった過去・・・『神学生』が絶滅危惧種とまで言われた時期もあったっけ。
そもそも日本のクリスチャン自体が絶滅危惧種じゃない?というつっこみはおいておく。

とにかく、危機感を抱いた日本の神父、牧師、各教会が総力を結集してつくったこの神学校は校舎もキレイ!授業内容も充実!寮も完備!とさんざんアピールをしたおかげで、日本中のクリスチャンが学びにきている。
特に、大学に進学するつもりだったけど、キリスト教の学校だから・・・と、進学してきた子も多い。

かくいう俺、中井一郎もその一人。
とはいえ、俺は多くの学生とは違い、『ガチ勢』だ。

実家は教会だし、俺もいずれは牧師になるつもりでいる。
生ぬるい神学生とは違うんだぜ、と日々学びにいそしんでいたのだが、いきなりの校長室によびだしでビビっていたりもする・・・。

「まぁ、かけたまえ。
『中井一郎、18歳。この学校にきたきっかけは』」
「牧師になるためです!」
「うんうん、まっすぐな返答が気持ちいいねぇ。君は、福音派の系列の教会から来ているのだね。聖書はよく読む方かね?」
「はい。同級生の中にはこの学校に入って初めて聖書を開いた、という言葉もききますね。
嘆かわしい。」
「うんうん、君のそういう信仰熱心なところと、頑固で頭の固いところは素晴らしいと思うよ。」
「ありがとうございます。・・・って、え?」

校長の言葉を聞き返すのと、床がマンガみたいにパカっと開いて、椅子ごと、地下に落下したのはほぼ同時だった。

「ぎゃー!!!」

どすん、という音をたてて落ちた先は。

一面、銀色の壁で大きいテレビ画面とか、スイッチのある地下室だった。

「いてて・・・。なんだ、ここは!」
「ふっふっふ、驚いたかね、イチローくん。」
「はぁ、さすがに驚きました・・・というか、校長?!
なんで、そんな恰好をしているんですか?」

目をあげると、さっきまでの背広姿だった校長は、何故か、白衣をきていた。

「チチチ、ここでは、プロフェッサーと呼びなさい。
・・・いや、博士のほうがいいかな?」
「はぁ。・・・はぁ?」

「さて、おめでとう、中井イチローくん!
君は、晴れてこの試験に合格し・・・正義のヒーローとして召命を受けたのだ!」
「はぁ。・・・はぁ?」
「まもなく、ここにあと四名の仲間がやってくる!
君は、そのメンバーと力を合わせて、悪と戦い、この日本、いや、世界を救うのだ!」
「はぁ。・・・はぁ?」
「・・・。君な、もう少し、派手なリアクションはできんのか。
そんなことではこの先がおもいやられるぞ。」
「いや、話の展開についていけなくて・・・」

そのとき、天上がぱかっと開き、この地下室にどさどさっと落ちてきたのは。

「ホワーイ、千賀先生っ!縛られた状態で穴に放り込むなんて!鬼!悪魔!」
「いったーい!加賀先生、突き飛ばすなんて、ひどすぎる!」
「多賀教授・・・わたくし、もう人間不信になりそうですわ・・・」
「名賀教授っ、こんなっ、僕のような人畜無害な人間にこんなことを!訴えてやる!」
ぐるぐるにロープで縛られた男女四名だった。

「え、何、本当に状況が呑み込めないんだけど。」
「オレだって!普通に教授に呼び出されたらぐるぐる巻きにされて・・・日本では教師が生徒を縛るのか??!ホワーイ!じゃぱにーずぴーぽー!」
「ひどーい、今日はお気に入りの服だったのにー!汚れたら、先生弁償してよ!」
「きょ、教授・・・私、父上にだってぶたれたことないのに・・・簀巻きにされるなんて・・・耐えられません・・・!」
「この!ロープから!指紋を搾取して!刑事事件にしてやる!訴えてやる!!」

シュイン、と奥の壁から四名の先生方がでてきた。

「やれやれ、てこずりましたな。」
「おお、さすがは校長先生、イチローくんの説得は成功ですか。」
「いや、苦労しましたよ。こちらが意図を説明しても『教授、頭大丈夫ですか?』といわれましてな。」
「いいではないですか、私など、『良いお医者様を紹介いたしますわ。勿論、先生のためにわたくしは断食して癒しをお祈りいたします・・・』と蔑んだ目で見られて・・・」
「『それは教理問答ですか?』と言われた儂も苦労しましたぞ・・・」

「まてっ!苦労したのはこの簀巻きだろ?!教師たちが集まって生徒を縛るなんて、一体どういう了見・・・」
「まt、まさか!私があんまりにも可愛いから、外国に売り飛ばすつもりなのね!」
「それは、流石に時代じみていると思いますわ・・・誘拐でしたら、わたくしだけで事足りそうですし・・・」
「地下室・・・監禁・・・NOOOOOO!のーもあ!R描写!この小説は全年齢のハズ!!!」

「おちつけーい!!!」
ピタ。

全員が静かになり・・・しかし、うさんくさい目で校長をはじめ、教師陣を見つめる。

そして、校長は、厳かに宣言した。

「今!ここに!勇気ある若者が集結した!
キミたちは日本の、いや、世界のために戦うヒーロー、
キリスト戦隊・バイブルジャー!となるのだ!!!」
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