赤と黒の旅

文字数 825文字

 何処までも、何処までも。
 機械仕掛けの小型ソリが空中を走り抜け、二つの鈴が風を切り、柔らかな音色を生み出し続ける。見上げてみれば、延々と続く空を暗闇の雲が覆い尽くし、星々の姿を隠していた。

「あれ見て」

 操縦士の隣に座り、古臭いヌイグルミを胸に抱く少女が、下を見ながら指差す。座席には、赤の遊びが入った黒帽子をかぶる青年が一人と、青銀の髪を二束に結う少女が腰掛けている。

「町があるわ」

 その景色は、空とは違う。
 下界に生きる人々の灯りが、地上の星空を彩っていた。

「ああ」

 下を見ず、青年は相槌を打つ。
 その傍ら、空いた手で少女の腕を取り、ほんの少し引き寄せた。

「危ないぞ」

 ソリから身を乗り出し、今にも落ちてしまいそうな少女に返事をする。
 すると、少女はニコリと笑い、後方の荷台へと手を伸ばす。
 小袋を掴み、中からお菓子を取り出すと、それを口に頬張った。

「大丈夫よ、だってわたしは一人じゃないもん」

 モグモグと口を動かし、幸せなひと時を存分に味わう。

「そんなことよりも、次は何処に行くの?」

 青年の心配を余所に、少女はコロッと話題を変える。二人の旅には、明確な行き先がない。
 ただただ自由気ままに鈴の音を鳴らし、空を走っていた。

「願いを持つ人に、会いに行く」
「ふうん? それで、会ってどうするの?」

 青年は横を向く。興味津々の少女と目が合った。

「いつも通り、願いを叶えるさ」

 例えそれが、どんなに悪い人の願いだったとしても。
 そしてその願いを叶え終えた後、予測不可能な事態が起こったとしても。
 青年には関心がない。行うべきは、願いを叶えてみせることだけだ。

「そっか」

 肩を竦め、少女は再び小袋の中に手を入れた。

「楽しみね、エズ」

 別のお菓子を探しながら、優しげな声色で青年の名を呼ぶ。
 エズと呼ばれた青年は、僅かに口角を上げ、ゆっくりと頷いてみせた。
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登場人物紹介

《エズ》
自称、黒の人。
善悪関係無く、下界に生きる人々の願いを叶え続けている。

《カーミン》
自称、エズの弟子。
ソリの助手席に座り、エズと共に下界を旅している。

《クマー》
下界で作られたクマのぬいぐるみ。
ゴミとして捨てられていたところを、カーミンに拾われる。

《ケーキンズ》

お菓子の国の王様。

自分の城にエズを招待し、お菓子の箱が欲しいと願うのだが……。

《エルトリッヒ》

浮遊島に住む赤の人の長。

とある目的を達する為に、エズとカーミンを探している。

《トキ》

ロロの弟。

エズに願い、時の砂を手に入れた。

《ロロ》

トキの兄。

己の生きる時間を牢獄と称し、絶望していた。

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