第2話
文字数 1,613文字
自宅へ着くと急いで玄関を開け、リビングのドアも勢いよく開ける――が、若宮さんは突然帰ってきたボクに驚くこともなく、いつものようにソファへ気だるげに寝そべっていた。その頭には寝癖がついている。いつもと変わらない光景に安堵し、少し落ち着きを取り戻すとふと嫌な考えが頭をよぎった。
『まさか、暇でつまらないからボクを呼び戻したのか?』
この人はそういうところがある。スマートフォンの操作を誤って、ボクへ連絡した可能性もなくはないが……その後に何度も連絡を入れたのに返信しないのは確信犯だろう。ボクは抗議をするため、不機嫌だという雰囲気と声を押し出し若宮さんへ声を掛ける。
「ボク、今日出かけるって言いましたよね?」
「おかえり」
若宮さんが悪びれることなく微笑むので、毒気を抜かれたボクは怒る気も失せ、代わりにため息をつく。
「どうしたんです? 暇だったんですか? それとも何か気に入らないことでもありました?」
ボクの問いかけに若宮さんは珍しく、誤魔化すことなく理由を教えてくれた。
「テレビが……」
「テレビ?」
「テレビがつまらなかったんだ」
「テレビ??」
意味がわからず、同じ言葉で聞き返してしまった。
「部屋が静かだからテレビを付けてみたんだけど……動物特集なのに、人間がしゃべってばかりで頭にくる」
なるほど。動物が出るから見ることに決めたのに、動物ではなく芸能人ばかり映るのが気に入らなかったということか。それを聞いたボクは黙ったまま頭をうなだれた。一体この人は何なんだ。テレビ番組が気に入らないから、妙なやり方でボクをを呼び戻したというのか。
「他の番組を見れば良いじゃないですか」
呆れてそう言うと、若宮さんはその発想はなかったというような表情でボクを見てきた。ボクは机の下に投げ出されている新聞を広い、テレビ欄をチェックする。確かに動物特集の一時間番組が放送されていたようだ。ただし、動物特集というよりは動物も含めた面白映像特集だ。テレビ欄くらい見てください、若宮さん。新聞を裏返し明日の天気を確認すると、どうやら晴れるらしい。
「若宮さん、明日何か予定ありますか?」
「いや、特にないかな」
「なら、明日動物園に行きましょうよ。本物の動物たちを見れますよ」
若宮さんはすぐに首を横に振り、拒否をした。理由はわかっている。明日は土曜日で多くの人で賑わっているからだ。人嫌いの若宮さんが素直に出かけるわけがない。
「サファリパークならどうです? あれなら車に乗るだけだし、車内にはボクしかいませんよ」
ボクは若宮さんがうなずきやすい提案をした。
「あぁ、それならいいよ」
ボクの提案に若宮さんは肯定してくれたので、胸をなで下ろす。
「お風呂は入りました?」
「まだだね」
「これから準備しますけど、髪洗いましょうか?」
若宮さんはさらにボクの提案にうなずき肯定してくれた。ボクの提案を素直に呑んでくれる若宮さんは、見ているだけで嬉しくなる。風呂の準備をするため浴室へ向かうと、ジャケットのポケットへ入れていたスマートフォンが着信を知らせるために震えた。画面を確認すれば彼女からだった。ボクはため息をつき、スマートフォンを再度ポケットへしまう。
うっかり出てしまえばどこでなにをしているのか聞かれるだろうし、とてもじゃないがいい言い訳が思い浮かばない。テレビがつまらなくてすねた相手をなだめるために帰ったなんて言えない。それにこれからボクはお風呂を準備して、若宮さんの髪の毛も洗わなきゃいけない。やらなければいけないことがたくさんある。
レストランを後にするときだって正当な理由も説明したし、すべての支払いも済ませてある。彼女の出す要求は散々飲んできたのだから、連絡を後回しにしても罰は当たらないだろう――ボクはそんなことを考えながら、若宮さんに大事がなくて本当に良かったと安堵し浴室へと向かった。
もちろん、三ヶ月記念を祝うことなくボクは振られた。
『まさか、暇でつまらないからボクを呼び戻したのか?』
この人はそういうところがある。スマートフォンの操作を誤って、ボクへ連絡した可能性もなくはないが……その後に何度も連絡を入れたのに返信しないのは確信犯だろう。ボクは抗議をするため、不機嫌だという雰囲気と声を押し出し若宮さんへ声を掛ける。
「ボク、今日出かけるって言いましたよね?」
「おかえり」
若宮さんが悪びれることなく微笑むので、毒気を抜かれたボクは怒る気も失せ、代わりにため息をつく。
「どうしたんです? 暇だったんですか? それとも何か気に入らないことでもありました?」
ボクの問いかけに若宮さんは珍しく、誤魔化すことなく理由を教えてくれた。
「テレビが……」
「テレビ?」
「テレビがつまらなかったんだ」
「テレビ??」
意味がわからず、同じ言葉で聞き返してしまった。
「部屋が静かだからテレビを付けてみたんだけど……動物特集なのに、人間がしゃべってばかりで頭にくる」
なるほど。動物が出るから見ることに決めたのに、動物ではなく芸能人ばかり映るのが気に入らなかったということか。それを聞いたボクは黙ったまま頭をうなだれた。一体この人は何なんだ。テレビ番組が気に入らないから、妙なやり方でボクをを呼び戻したというのか。
「他の番組を見れば良いじゃないですか」
呆れてそう言うと、若宮さんはその発想はなかったというような表情でボクを見てきた。ボクは机の下に投げ出されている新聞を広い、テレビ欄をチェックする。確かに動物特集の一時間番組が放送されていたようだ。ただし、動物特集というよりは動物も含めた面白映像特集だ。テレビ欄くらい見てください、若宮さん。新聞を裏返し明日の天気を確認すると、どうやら晴れるらしい。
「若宮さん、明日何か予定ありますか?」
「いや、特にないかな」
「なら、明日動物園に行きましょうよ。本物の動物たちを見れますよ」
若宮さんはすぐに首を横に振り、拒否をした。理由はわかっている。明日は土曜日で多くの人で賑わっているからだ。人嫌いの若宮さんが素直に出かけるわけがない。
「サファリパークならどうです? あれなら車に乗るだけだし、車内にはボクしかいませんよ」
ボクは若宮さんがうなずきやすい提案をした。
「あぁ、それならいいよ」
ボクの提案に若宮さんは肯定してくれたので、胸をなで下ろす。
「お風呂は入りました?」
「まだだね」
「これから準備しますけど、髪洗いましょうか?」
若宮さんはさらにボクの提案にうなずき肯定してくれた。ボクの提案を素直に呑んでくれる若宮さんは、見ているだけで嬉しくなる。風呂の準備をするため浴室へ向かうと、ジャケットのポケットへ入れていたスマートフォンが着信を知らせるために震えた。画面を確認すれば彼女からだった。ボクはため息をつき、スマートフォンを再度ポケットへしまう。
うっかり出てしまえばどこでなにをしているのか聞かれるだろうし、とてもじゃないがいい言い訳が思い浮かばない。テレビがつまらなくてすねた相手をなだめるために帰ったなんて言えない。それにこれからボクはお風呂を準備して、若宮さんの髪の毛も洗わなきゃいけない。やらなければいけないことがたくさんある。
レストランを後にするときだって正当な理由も説明したし、すべての支払いも済ませてある。彼女の出す要求は散々飲んできたのだから、連絡を後回しにしても罰は当たらないだろう――ボクはそんなことを考えながら、若宮さんに大事がなくて本当に良かったと安堵し浴室へと向かった。
もちろん、三ヶ月記念を祝うことなくボクは振られた。
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