心配
文字数 3,028文字
「わが魂は悲しみによって溶け去ります。み言葉に従って、わたしを強くしてください。偽りの道をわたしから遠ざけ、あなたのおきてをねんごろに教えてください」
(旧約聖書『詩篇』119編28節~29節)
愛花はすっかり学内で引っ張りダコになってしまった。
そんな中、陽太らが愛花と昼食を共にする機会は徐々になくなっていった。
陽太にとっては、幸音と2人きりの昼食が増えることとなる。それ自体は嬉しいのだが、共通の話題は愛花の奇跡や神のことになってしまうので、複雑な気分であった。
学内の生徒が1人また1人と愛花の”奇跡”に心を奪われていく一方、幸音は『神の愛を信じるべきか』という問いに苦しんでいるようであった。幸音が”奇跡”に熱狂するのではなく、信仰について熟考する冷静さを持っていることは、陽太にとっては安心材料である。しかし、幸音が愛花や神を話題に挙げることは、面白くない。
そんな状況が続くある日の休み時間、陽太は聡美に呼び出された。
陽太は毎日幸音と顔を合わせているため、普段の幸音の様子は知っているが、キリスト教徒である聡美とどのような会話をするか気になったのである。
ホームルームが終わり、生徒らが教室から次々と出ていく。
ある者は部活へ向かい、ある者は友人と遊びに行く。
陽太は聡美と合流し、幸音のクラスへと向かった。
前の教会でのこと思い出すと、その時の絶望感もフラッシュバックして、やっぱり私はダメな人間なんだ、神様から見捨てられたんだって落ち込んじゃう。
教会を見ただけで嘔吐しそうになるとは、余程心の傷が深かったのであろう。
陽太は、”教会の優等生”が寄ってたかって幸音の心を踏みにじる光景を想像し、殺意すら覚えた。
幸音の求めるものは、決して陽太には与えられない。そんな寂しさを人知れず抱いたのであった。