その18 ラスボス登場

文字数 2,182文字

前にも言ったけど、オフィーリアが、ハムレットの気持ちをわかろうとすごく努力するよね。ハムレットだけじゃなくて、自分以外のみんなの気持ちを想像しようとする。
おー、ありがとうわかってくれて(嬉)
ガートルードさんの気持ちもね。

そうそう。クローゼット・シーン※は、オフィーリアの想像の中に入れちゃったの。

(※その16参照)
クローディアスさんの気持ちまで。
「さん」要らない。
ww
ww
クローディアス、嫌いでしょw
思いきって最低なキャラにしたのよ。
原作のクローディアスは憎めないところがあるというか、わりとコミカルな小悪党だよね、少なくとも前半は。サラの舞台でもその方向でいったよね。

うん。だけどやっぱり、殺してるからね。しかも動機に情状酌量の余地がないからね、王冠とガートルードさんとダブルで欲しかったってだけだから。

で、後半にかけてどんどん悪党の度合いが高くなっていくので、そこを見落として、クローディアスに同情しちゃだめだと思うの。

来たな。あれでしょ、志賀直哉の『クローディアスの日記』。
そう。全部ハムレットの妄想だっていう。
まあ書くのは勝手だけど、「じつはどこにも証拠がない。これで世間のハムレット解釈も変わるであろう」とか得意になっているのには笑った。クローディアス、ちゃんと告白してるもの、三幕三場で「兄弟を手にかけた」って。証拠はないけど自白はしている。議論の余地なし。完全に黒。
あとなんか海外の小説もあったんでしょ?
うん、ジョン・アップダイクの『ガートルードとクローディアス』。つまんなかったー。クローディアスは昔からガートルードが好きで好きで、ガートルードも真面目で怖い旦那にへきえきしていて、先王の生前から二人はできていて、共謀して殺すの。
(きっぱり)それはないな。
だよね。ガートルードさん、そんなむずかしいことできなさそう。
そんな女、兄貴を殺してまで手に入れたくない。
あーそっち。(賛成)
そういう黒いところがぜんぜんない女だから、兄貴殺しても欲しいんだし、兄貴のほうも盗られてくやしくて化けて出てくるんじゃない。
おおー。。。(感動)
そういう三文小説やめようよ。三面記事というか。『ハムレット』、あらすじだけ取り出すと、すごい下世話な話になっちゃうじゃない。でも王家の話だから。国レベルの話だから。最終的にデンマークとノルウェーまるごと巻きこんでいくわけだから。
ほんとそう。2LDKのファミリードラマにするなって言いたい。四大悲劇みんなそうだけど。(『ハムレット』『オセロー』『リア王』『マクベス』)
『ハムレット』を自分たちのほうに引き寄せるんじゃなくて、自分たちが『ハムレット』のほうに近づいていかないといけないんだよ。
おおおー!(感動)
で、「ぺろちゅー」w
あああやめて、せっかく感動してたのにw
「ぐはははは、このちちか!!」
やーめーてーww
書いたのザチョーじゃないw
イナホーだよ、最初に「ねーねークローディアスって、オフィーリアのこと、ぺろっておさわりしてそう?」とか言い出したの。
ああそうか。でも、おさわりのレベルじゃなくなったね。

本当は同じだよ。無理やり触られるってね、おさわりなら笑って許せて、レイプは許せないとかじゃないの。もう全部バツなの。それ、一度書いておこうと思って。

でね、あ、これならオフィーリア、気が狂うわと思ったわけ。変態の殺人鬼に痴漢されたら発狂するでしょ。

するね。(しみじみ)
暴力って、殺人も性暴力も、根は同じだよ。他人をモノとして扱うこと。前章までのハムレットの暴力なんてまだ子どもなの。人を平気で殺す男が、手に入れた女を大切にあつかうはずがない。
それでガートルードさんが暴力を受けてる設定に。
そう。
このへんも読んでて辛かった。
ごめん。
いいんだけど。このクローディアスは本当に同情の余地がないね。
そう。志賀もアップダイクも、甘いと思った。だからわざと私のオフィーリアにも同じような想像をさせて、「クローディアスさまがおかわいそう」。それ、甘いわ。という残酷な展開にしてみました。
ほんと残酷。。。
でもこれくらいじゃないと、私はハムレットに、クローディアスを殺させたくない。
そうか。そうだね。
だいたい志賀もアップダイクも、太宰治の『新ハムレット』でさえ、あとトム・ストッパードの『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』も、いろいろ新機軸を出しているように見えて、かんじんのハムレット像がいつも同じなのよ。陰気で恨みがましい、性格のひねこびた男。そこがイヤ。その雑な読み方がイヤ。クローディアスをいじる前に、はっとするようなハムレット像を作ろうと努力するほうがよくない?
はっとするようなハムレット像じゃなくて、正しいハムレット像だよ。
いや、何が正しいかは。。。
正解は一つじゃない。ザチョーのこの繊細でピュアなハムレットもありだし、サラで作ったエネルギッシュでおおらかなハムレットもあり。もっといたずらっぽかったり、もっと粗忽(そこつ)なハムレットもありだと思う。だけど、原作をていねいに読めば、陰気で優柔不断なハムレットだけはあり得ない。
そうね。先にその思い込みがあったら、その上に何を建ててもだめだよね。まずは原作を徹底的に読みこんでリスペクトしたいよね。ハムレットごっこはそれから!
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登場人物紹介

宮﨑稲穂(みやざきいなほ/イナホー)

俳優。シアターユニット・サラ専属。旗揚げから全作品に出演し、現在に至る。名前だけ見て女子と間違われることがあるが、男性。居合道六段、剣号「宮﨑哲舟」(てっしゅう)。


実村文(みむらあや/ザチョー)

劇作家・演出家。ときどき女優。シアターユニット・サラ主宰。NOVEL DAYSでは未村明(ミムラアキラ)名義で執筆。

イナホー

ザチョー

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