その18 ラスボス登場
文字数 2,182文字
うん。だけどやっぱり、殺してるからね。しかも動機に情状酌量の余地がないからね、王冠とガートルードさんとダブルで欲しかったってだけだから。
で、後半にかけてどんどん悪党の度合いが高くなっていくので、そこを見落として、クローディアスに同情しちゃだめだと思うの。
まあ書くのは勝手だけど、「じつはどこにも証拠がない。これで世間のハムレット解釈も変わるであろう」とか得意になっているのには笑った。クローディアス、ちゃんと告白してるもの、三幕三場で「兄弟を手にかけた」って。証拠はないけど自白はしている。議論の余地なし。完全に黒。
うん、ジョン・アップダイクの『ガートルードとクローディアス』。つまんなかったー。クローディアスは昔からガートルードが好きで好きで、ガートルードも真面目で怖い旦那にへきえきしていて、先王の生前から二人はできていて、共謀して殺すの。
そういう三文小説やめようよ。三面記事というか。『ハムレット』、あらすじだけ取り出すと、すごい下世話な話になっちゃうじゃない。でも王家の話だから。国レベルの話だから。最終的にデンマークとノルウェーまるごと巻きこんでいくわけだから。
本当は同じだよ。無理やり触られるってね、おさわりなら笑って許せて、レイプは許せないとかじゃないの。もう全部バツなの。それ、一度書いておこうと思って。
でね、あ、これならオフィーリア、気が狂うわと思ったわけ。変態の殺人鬼に痴漢されたら発狂するでしょ。
だいたい志賀もアップダイクも、太宰治の『新ハムレット』でさえ、あとトム・ストッパードの『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』も、いろいろ新機軸を出しているように見えて、かんじんのハムレット像がいつも同じなのよ。陰気で恨みがましい、性格のひねこびた男。そこがイヤ。その雑な読み方がイヤ。クローディアスをいじる前に、はっとするようなハムレット像を作ろうと努力するほうがよくない?
正解は一つじゃない。ザチョーのこの繊細でピュアなハムレットもありだし、サラで作ったエネルギッシュでおおらかなハムレットもあり。もっといたずらっぽかったり、もっと粗忽 なハムレットもありだと思う。だけど、原作をていねいに読めば、陰気で優柔不断なハムレットだけはあり得ない。