第36話  体力テスト 男子の部 2

エピソード文字数 3,255文字

 ※


 先程の無気力モードから一気にペースアップすると、染谷くんも俺のスピードに追いついてくる。

 まぁこの程度なら誰でも追いつけるだろう。



 先頭集団に追いつくには、今のペースよりも更に上げないと追いつけない。

 だがここで焦っても仕方がない。


 自分がベストだと思うスピードをキープし無駄な体力を使わないことが大事なのだ。

 まぁ。これが普通のマラソンでは基本的な考えなのだろうが、俺に限ってはそうじゃないんだよ。


ちょ。黒澤くん飛ばしすぎでしょ。最後まで持たないよ
 染谷くんもストップを掛けに来たか?
全然大丈夫


 ベストだと思うスピードが人より早いと、こうなっちまう。

 まだトップギアじゃないとか、流石に言えない俺であった。

王二朗! あなたも本気出してよ。一番早いんでしょ?
ううっ……

 そう聞こえてきた瞬間、コースアウトして壮絶に転がる播磨くん。




 その時竜王さんが彼の元に駆け寄ると、何を吹き込まれたのか知らないが、とんでもなく早いスピードで走り出したのだ。




 うぉ! すげーぞ。でかい身体なだけに迫力満点だ。

 まるで暴走機関車の如く、走ってる男子生徒が道を開けていく。



うぉぉ~~~~~~!

ど。どいてくれぇ!

しかも顔がすっげー怖い。極道顔があと数秒で死にそうな、そんな必死な顔で走りまくってる。


こりゃ早い。普通に俺達のペースより早いぞ。

参ったね。こりゃ能力開放するしかねーな

 お? マジかよ。染谷くんが真剣な顔に変貌し、ペースを上げる。

 そして俺の横を通り過ぎようとしていた。


 

 すげーな。このペースで追いつくなんて、今まで親父だけしか見た事がない。




 って事は。俺も本気で走って良いって事だな?


 さっきの台詞で宣戦布告ととらえた俺は更にペースを上げ、染谷くんの横に並んだ。


マジ? 黒澤くん
そういう染谷くんも。俺に追いつくなんて


 こりゃ久しぶりに燃えてきた。

 こんな奴。初めてすぎて、必死に走りながらも喜んでいる自分がいた。




 テスト云々や魔樹よりも、染谷くんとの勝負にシフトした。

 ここから笑顔が消え、本気モードで走り出した。



 それは向こうも同じようで、笑顔が消えると怒涛の追い上げを見せてくる。


 マジかよ。俺に追いついてくるとか……やるじゃないか!


ちょ。お前ら。早すぎだろ! 何モンだてめーら!

 周回遅れになっていた西部の声がすぐに後ろから聞こえてくる。

 そんな時、先頭集団を射程圏内に入ってくる。

やれば出来るじゃない。さっさとトップ取りなさいよ
 聖奈よ。これはそんな勝負じゃねーんだよ。


 染谷くんとのサシの勝負。先にペースを落とした方が負けなんだよ。多分……

ま~き~! 後ろから黒澤君達が来てるよぉ


 白竹さんの声を聞き、魔樹が後ろに振り返ると……

 危機感を悟ったのか、あいつまでペースを上げやがった。

待ちやがれ! 魔樹ぃ
てめーなんざ、さっさと追いついて、力の差を見せ付けてやろう。 
待てこらぁ! 俺を舐めんなぁ!

 え? 染谷くん? 彼が言ったんだよね?


 急にキャラが変わったようなチンピラ言葉に気を取られていると、その僅かな隙に出遅れてしまった。



ぬぅおお~~~! マジやべぇ。


どいてくれぇ~~!

更に後ろから播磨くんが迫ってくると、暴走機関車と化した彼にも追い抜かされてしまう。
わぁお! ま~~き~~。トップだよ!

ちょ! 魔樹くんめちゃ早いし。

陸上部よりも早いなんて……すご~~い!

な~にやってるの蓮! 抜かせるんでしょ?

ていうか。黒澤も染谷くんも早いね~~!


そして西部は安定したドベだし。

みんな早いわね。すごい……


王二朗に追いつくなんて……

 ってか。染谷くんも魔樹も播磨くんも……マジで早いぞ! 



 ……ちょっと待てぇこんの野郎!

 俺の前を走る奴なんて、誰もいねー事を教えてやる!




 残り二週となった頃、先頭集団まで周回遅れにしてしまった俺と染谷くんと魔樹。そして播磨くん。


 四人の闘志のオーラは一緒に走る男子生徒でさえも感じ取ってくれたようで、俺達が迫ってくると道を開けてくれるようになっていた。


 追い抜きつつ、追いつかれつつ。

 そんな攻防が繰り広げられる中、ひたすらゴールを目指していた。



(やるじゃねーか。こんな奴らがいたなんて)

(嘘だろ? 俺のペースに追いつける奴が……三人もいるだと?)
(私と互角なんて……黒澤。染谷……大きい人……やるじゃない)
(いや~~世の中広いもんだな。俺の本気モードでぶっちぎれねーとか。もっとガチのルールでやってみたいもんだぜ)


 俺だってこのハイペースは体力を削る。

 それはみんな一緒だろう。無駄な会話など出来るはずがなく、一心不乱に走って走って走りまくっていた。



蓮! ぶっちぎりなさいよっ!
(美神さんって。黒澤のこと~好きなのかしら)

 魔樹! もうちょいですよぉ!

 みなさんも頑張ってくださいねぇ~~!


王二朗も頑張って~~!


 残り一周になると、外野がやたらうるさい。

 それは男子生徒ではなく、女子生徒の声が聞こえてくるが、そんな声に耳を傾ける余裕さえない。


 ちょっと油断すれば、すぐに三人のペースに追いつけなくなる。


 しかし。なんだろう。この気持ち。



 

 突然沸いて出たような実力者達に。こんなに苦戦してる自分に、腹立たしくも……嬉しくもあった。



 


 そして最後のゴールが見えてくると、ここからペースを上げるのもなんだと思った。

 すると他のみんなも同じように考えていたみたいで……


 並んでいる状態のまま四人一気にゴールインすると、ゴールした瞬間、グラウンドに床ペロする俺達だった。



だぁ~~っくそ!


マジかよ。ちょっと三人を舐めてたわ!

染谷くんと同感。俺と同じペースで走れるなんて
 ぜーぜー息切れしながらも笑顔で喋っていると、横でぶっ倒れる魔樹も、
やるじゃない。僕に追いつくとか信じられないよ

 そう聞いたとき、俺は思った。

 とうとう魔樹がデレた。と。だが……

なんだよ黒澤。その顔キモいんだけど

 しまった。せっかくデレたのに、ニヤケ顔になっていたか。

 だが、一瞬でも労い? の言葉を頂いた俺は止まらなかった。

いや、正直言うと、やっとお前がデレたと思って
はっ? 何それ
僕もそう思ったね。なぁ魔樹。そろそろ仲良くやろうぜ
 染谷くんの援護射撃に、明らかな不満顔を見せるが……
仲良くやるとか……そう言うんじゃなくて。僕はいつもこんな感じなの。悪かったね。無愛想で!
こちらに顔を見せない魔樹。俺はもうその仕草だけで完全に堕ちたと思った。 
わかった。お前はそれで良いから。仲良くやろう

 なんていうか。全力を出し切って走った結果がこうなるとは、どこかのアニメみたいな展開に俺は非常に満足していた。



 そして俺達の横でぶっ倒れている播磨くんも起き上がると、こちらに向き直った。

凄いな。俺に追いつくとか何の冗談かと思った
ふふっみんな同じ事言ってるね

 さっきの会話も播磨くんも聞いていただろう。

 お互いがお互いの顔を見ながら盛大に笑うのだった。 

 

 一緒に全力を出したもの同士、播磨くんとも上手くやれそうだ。




ったくよぉ! てめーら早すぎだっつーの!


ようやくゴールだぜ。

おい。ウソつくなよ。お前まだ十週終わってねーだろ。

西部。まだ走ってないだろ? 僕だってまだなのに


先生~~~! 西部がサボってますよぉ!

バカ! 言うなよっ!
こらっ! 西部っ! さっさと走って来いっ!
おいっ! 真鍋! てめぇ覚えてろよっ!
頑張れ西部。女子生徒がお前を見てるぞ!
お。マジ? おっしゃぁ! やってやるぜっ!
 マジでやる気を出した西部。なんて単純なヤツなのだろうか。
黒澤くんは優しいね。
まぁなんていうか……面白いやつだし。どこか憎めないっていうか


 こうして体力テストは無事終了となった。


 しかし……走りには相当自信があったのにな。

 

 こりゃ基礎体力のトレーニングも再開しなきゃマズい。

 高校生になってから、全然やってなかったからな。


 今度楓蓮で、バイトの無い日でも走りこみでもしないと。

――――――――――――――――――


次回。クルクル白竹ママ

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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