第2章 痴漢

文字数 8,932文字

 部屋に戻り食後の一本を喫うと口の中に残っていた鳥の唐揚げの味で吐き気がした。遠近感がどうもおかしい。指の先が異常に冷たいことに気がついてまだ緊張が続いているのだとコトブキは思った。食事をしたとき父親と母親もこうしたコトブキの変化には一切気づいていないようだった。
 授業中のメールでヒタチノゾミはおれのことを「せんせい」と呼んでくれた。それと同時に『先生』、『先生』とあえぎ声をひきずるもう一人のヒタチノゾミが頭から離れずにいる。オオハナタカコはきょうの一件を黙っていてくれるだろうか。もしかしたら、今頃ラインやメールが職練の皆に回っているのではないのか。父親と母親の顔を見たときコトブキは自分のやってしまった事の重大さに初めて気がついたのだった。立て続けに喫った二本目の煙草でコトブキは吐いた。
 階下から母親が呼んでいる。一瞬まさかとは思ったが思い過ごしだった。風呂に入れと言われただけだった。部屋の時計を見てコトブキは驚いた。十時半。ついさっき二本目の煙草を喫って吐いたばかりだと思っていたのだが、既に二時間以上経っていた。コトブキは吐いた汚物を始末した。母親には、あとで入る、とだけ言ってもう一度部屋に腰を下ろした。
 床に脱ぎっぱなしにしてあったジャケットを拾った。ポケットに手を入れて違和感に気づく……スマホが二台ある。ひとつは自分のスマホ。もうひとつには見覚えがある。ヒタチノゾミのスマホだ。コトブキは二台のスマホを見較べてどこでどう間違えたのか思い出せなかった。どちらのスマホにもスマホケースはしていなかったし、事実として今ヒタチノゾミのスマホがここにある。それだけだった。
 ヒタチノゾミのスマホを顔に近づけて見てみた。所々小さな傷がついてあるのを見ているうちに匂いを嗅いでしまった。ヒタチノゾミがトイレに行ったあとの指や自分のからだを慰めたあとにスマホをいじっているところを想像した。コトブキは妙な興奮を覚えた。股間に手が伸びた。だが、触れた途端にその動きは止まった。『先生』のザーメンのついた指で触ったのではないのか、そう思ったからだった。スマホから微かに女っぽい匂いがしていたような気がしたが、もはやそう思い込むのが難しくなった。ただのプラスチックだ。
 ヒタチノゾミのスマホの電源を入れた。壁紙は家族の集合写真だった。ヒタチノゾミがいて旦那がいて男の子が二人いて女の子が一人いる。背丈から見て、長男次男が高校生と中学生、一番下の長女が小学校高学年だろうか。旦那は平凡そうな顔付きで意外だった。ヒタチノゾミの容姿と釣り合いがとれていなかった。
ラインやスカイプといったアプリは後回しすることにした。ネットにアクセスした。ヒタチノゾミが普段何について調べているのかそういったことに興味があったからだ。
 閲覧履歴にコトブキの目を引くサイトがあった。サイトにはブックマークがしてある。『みなさんエキストラの時代ですよ』。それがそのサイト名だった。その下に、ギャングバンエキストラただし外国人固くお断りファックユー、ケニュースピークイングリッシュ? ゴートゥーヘルプリーズドゥー、そう小さな文字で書かれてあって、文字列の一番最後に皮肉っぽく!(^^)!があった。
 一目見てアダルトサイトだとわかった。アダルト広告が貼り付けてあってケバケバしい雰囲気がした。逞しいからだをしたブリーフ姿の若い男が微笑んで腰に諸手を当てている広告をタップすると別窓が開いた。
サムネイル状に男の顔写真がずらりと並んだページだった。適当にそのうちの一人をタップしてみた。
 名前の欄に佐々木省吾、年齢の欄に二十四歳、件名には、こう見えても経験豊富な熟女好きです、と書いてあって、本文には、母親の年齢より上でもぜんぜんだいじょうぶです、みたいなことが長々と書いてあった。顔写真は韓流アイドルのような分け目のない髪型で色はイエロー、キツネ目であぐら鼻をしていてイケメンには見えなかった。こう見えてもというのは平凡なこの顔のことを言っているのだろうか、それとも何か他に別の意味があるのだろうか、例えば、友だちから大人しいと言われているけれど、女の経験が豊富だということが言いたいのだろうか、コトブキは本文の書き込みを十数回繰り返し読んでみてページを戻った。
 広告だと思ってタップしたものの中には、『殿方ランキング』というページだったり、『匿名体験ルポ』というページだったり、『みんなの掲示板』というページにリンクされていた。ホーム画面に広告と呼ばれるものは三つだけで有料のアダルト動画サイトや出会い系サイト、アダルト系SNSのページに飛ばされた。広告の数からみて業者間で直接取引されたアフィリエイトの可能性があった。男の登録者数がそれを物語っていた。
 サイトのヘッダー部に『痴漢OK娘』という青色の文字列があった。タップするとリンク先が表示された。ヒタチノゾミの顔写真が載っていた。『痴漢OK娘』というのは、ヒタチノゾミのハンドル名で表示された先はユーザーページのようだ。コトブキは手の平に汗が滲んでいくのを感じた。
顔写真の右側にプロフィールがあった。ヒタチノゾミが四十一歳だったことをコトブキはこのとき初めて知った。
『結婚してるの?』という欄には、「既婚」とあって、『何をしてる人?』という欄に、「医療事務」とあった。『赤い糸』という欄には、「痴漢願望」、「Mっ気アリ」、「言葉責めされたい」、「NGなし」、「お持ち帰りアリ」、「子持ち」、の文字列がタグ付けの印として赤い字で書かれてあった。

件名:
〉旦那と別れる気はないので秘密厳守できる
〉方希望。年齢不問。S歓迎

本文:
〉痴漢されたことはありません。でも願望は
〉あるんです。痴漢されているのを想像して
〉オナニーするのが好きです。四つン這いに
〉なってパンツを引っ張ったりするだけで濡
〉れちゃう女です。普段興味ないような顔し
〉て期待している女なんです。男のせいにし
〉ないとすけべなことできないいやな女かも
〉しれません。でも人生で一度くらい本当の
〉あたしを誰かに見て貰いたくて登録しまし
〉た。

 コトブキは「登録」という字を見て設定を探した。ヘッダー部の三本線のアイコンのプルダウンメニューにそれはあった。登録日は九月二十三日とあるからおよそ一ヵ月前ということになる。ユーザーページに戻って、『わたくしのチャームポイント』という項目を見てみた。

〉Fカップをつかったパイズリとフェラは結
〉婚してから教育されました。騎乗位をして
〉いるときに乳首を舐めると旦那が褒めてく
〉れます。

 コトブキはこれを読んでいて、男の登録者がヒタチノゾミの顔写真を見たらこのようなことを書き込みするなんて間違いなく業者だと思うだろうな、そう思った。実際にヒタチノゾミを知っているコトブキには信じられない思いがするのだった。
 プロフィールのページはホーム画面に較べてどこかレトロで簡素なつくりだったが、文字列のリンク先がたくさん貼られてあって一度にすべてを閲覧する訳にはいかなかった。
 ヘッダー部の三本線のアイコンから利用規約を見てみることにした。どのサイトの利用規約でも見られるように小さな文字列で難しい言葉がたくさん使われていて、職業訓練を申し込むときに書かされた一切の書類を思い出してあのときの頭痛が甦ってきそうだった。適当に読み進めて五、六回スクロールしたところでようやく最後まできた。
 本サイトは広告収入で成り立っています。
 コトブキは二十一、二歳の頃に登録した出会い系サイトにも確かそんなことが書かれてあったことを思い出した。
 今どきメッセージをやり取りするのに有料はないよな、コトブキはそう思って利用規約を遡りながら再度適当に目を通した。三分の二ほど戻っていった箇所で目が留まった。その箇所を読みだして目が釘付けになった。男性は登録無料で、女性は月額三万円と書いてあったのだ。逆なら話はわかる。見間違いではないかと思って、コトブキはその箇所を数十回と繰り返し読んだ。
 ふと目に入った「老舗サイト」という固有名詞が妙な説得力をコトブキに与えてきた。そう言えば、文字列のリンクの多さは携帯の時代を思い出させるし広告の数の少なさといい、素人が独学で一から始めたようなサイトの手作り感に愛着さえも感じ始めていた。女性が有料ならば登録者が業者ということは考えにくい。実際あのヒタチノゾミが登録しているのだ。次第にコトブキの中で愛着が信頼に変わりつつあった。
 コトブキは自分のスマホから会員登録をしてみた。ハンドル名は「先生」にした。クローゼットからパーカーを出してきてフードを目深に被った写真を撮ってアップした。プロフィール欄に、二十七歳、未婚、職業が無職だと女の反応が悪いかなとそう思って前職の交通誘導員と一度書き込んだのをデリートして「パソコン教室の先生」に書き直した。件名と本文には必須と書かれた赤文字がなかったから後回しすることにした。
 ヒタチノゾミのスマホからアクセスしたホーム画面に広告と見間違えたあのブリーフ姿の男の写真が、コトブキのスマホからだと半裸の女の写真に変わっていた。タップすると女の登録者のサムネイルが横五列に並んだページが表示された。女の会員からは男のページだけが見ることができて、男の会員からだと女のページだけが見ることができるようになっているようだった。
 横五列に並んだサムネイルを見ているうちに、女たちにひとつの共通点があることに気がついた。ページを十まで進んだところでそれは確信に変わった。登録している女というのは三十代、四十代がメインだった。五十代や六十代に見える女も中にはいた。だが、二十代や十八、九らしい女は一人だっていなかった。利用規約にそういった年齢制限があるのだろうか、コトブキはふとそう思ったが、コトブキ自身は二七、だとしたらそれはおかしい。とすれば、男性と女性では利用規約が違うのだろうか、男が登録無料で女が月額三万だったように、などと憶測は次々と浮かんだ。
 月額三万円の女たちはどれも皆奇麗だった。ただ奇麗というだけではなくてヒタチノゾミがそうであるように、どこか暇を持て余しているような品があった。それに、顔写真に加工した感じはない。顔に影が映っている女がいるし免許証の顔写真のように真正面から撮られているものも少なくない。それでも形容しがたい品がある。それでいて、匂い立つように生々しかった。秘密クラブだ! コトブキは想像を膨らませて息を呑んだ。
 そうだ、タイトルと本文を書かなければ、コトブキはそう思い立った。傍にあったノートパソコンの電源を入れた。スマホで文章を考えると散漫になるとそう思ったからだった。パソコンが立ち上がるまでの時間さえもどかしくて煙草を喫った。

 白紙のワードを見つめてどれくらい経つだろうか。五本目の煙草を喫った。女のことになるとひどく現実的になってきて何も書くことがなくなってしまった。煙草を消したあとでも一行すら書けなかった。
結局、件名に、「童貞です」、本文には、「女のことを考えていたら死にたくなってきました」、とそう書いた。煙草をまた喫った。
 灰皿からフィルターの焼ける匂いがして臭かった。目頭を押さえると眼球の奥が痛んだ。部屋が仄白んでいてそれが煙のせいなのか、瞼をこすったせいなのかわからなかった。背筋を伸ばすと心臓に亀裂のような痛みが走った。胃からせり上がってきた嘔吐物で口の中は酸っぱい味がした。瞬かせた瞼に涙が滲む。視界がやがて戻ってくるときに「先生」のユーザーページに新着が入っているのを見つけた。

まりも wrote:
〉死ぬまえにあたしのことを痴漢してくれま
〉せんか。気分がかわるかもしれませんよー

 コトブキは溜め息をつくように煙草の煙を吐いた。件名と本文を書き込んでからまだ二、三分しか経っていなかった。やはり女の登録者というのは業者なのだろうか、そうコトブキは思った。匿名の素人の女はこんなに優しくはないしメッセージが都合良すぎる。
「先生」のユーザーページに戻った。新着メッセージがまた入っている。しかも今度は三件入っていた。

ノーパンパンスト女 wrote:
〉童貞に興味があります。童貞をいただける
〉ならお持ち帰りしてくださっても大丈夫で
〉すよ。

相曾 wrote:
〉童貞の人がコンドームつけるときに射精し
〉てしまうって本当ですか。もしそうだとし
〉たら素敵だと思うんです。返信待ってます
〉ね。

万年オアシス wrote:
〉包茎の王子さまを探しています。男になっ
〉ていくのをあたしの中で感じたいの。

 相曾の顔写真がタイプだったのでプロフィールを見てみた。歳は四十三で職業は薬剤師だった。童貞に興味がある理由が本文に書かれてあった。

〉息子の部屋でオナニーしたティッシュを嗅
〉いで以来、ゴミ箱をあさるようになりまし
〉た。オナニーにつかったティッシュってガ
〉ルショーチクのパン生地の蓋みたいでかわ
〉いいんです。ときどき生暖かいティッシュ
〉を見つけることがあります。青臭い匂いに
〉眩暈がしていけないと思いつつアソコに手
〉がいってしまいます。年ごろの男の子にど
〉ろどろにされてみたいです。

 コトブキは、オナニーにつかったティッシュってガルショーチクのパン生地の蓋みたいでかわいいんです、という箇所と、青臭い匂いに眩暈がしていけないと思いつつアソコに手がいってしまいます、という箇所をそれぞれ数十回読み直した。そして、もう一度相曾の顔写真を見た。芸能人に似ている女を何人かコトブキは思い浮かべた。歯医者に行ったときにコトブキは口唇ヘルプスが出ていて薬を貰いに調剤薬局に行った場面を思い出した。四十代の女が働いていたような気がする。お薬手帳はお持ちですか、そう訊かれて、持ってません、と言った気がするし手渡された用紙のジェネリック医薬品をご希望ですか、という欄のジェネリック医薬品の意味がわからなくて尋ねた気がする。その四十代の女は膝を折ってしゃがみ込み、長椅子に坐っていた自分と目線の高さを同じにして丁寧に説明をしてくれた気がした。結婚指輪をしていたような気がするし白衣からいい匂いがしていたような気がする。
 白衣の下の女の胸のふくらみは白くて、ロンパリ気味に少し垂れていて乳首には搾乳機のようなモノがぶら下がっている。本文の下にカメラのアイコンがあってタップしたらそういう写真が表示された。薬剤師の母親で四十三歳、この顔がこんなことをするなんて信じられないというのを通り越してコトブキはショックだった。
 ノーパンパンスト女は、スパッツを直穿きしてジョギングをするのが趣味です、と本文に書き込みしていたし、万年オアシスは、正常位で足の裏を嗅がれて見つめられるとオホ声がでちゃう女です、そう書き込みがしてあった。
 コトブキは、まりものプロフィールページを見てみた。一番初めにメッセージをくれた優しい女だ。

本文:
〉アソコがむず痒くて毎日自分で慰めていま
〉す。もう限界だよ。限界なんだよ。痴漢し
〉て痴漢して痴漢して痴漢して痴漢して痴漢
〉して痴漢して痴漢して痴漢して痴漢して痴
〉漢して痴漢して痴漢して痴漢して痴漢して
〉痴漢して痴漢して! 男が欲しい男が欲し
〉い男が欲しい男が欲しい男が欲しい男が欲
〉しい男が欲しい男が欲しい男が欲しい男が
〉欲しい男が欲しい男が欲しい男が欲しい男
〉が欲しい男が欲しい男が欲しい男が欲しい
〉男が欲しい男が欲しい男が欲しい男が欲し
〉い男が欲しい男が欲しい男が欲しい男が欲
〉しい男が欲しい男が欲しい男が欲しい男が
〉欲しい男が欲しい男が欲しい男が欲しい男

 実際には、男が欲しい、という箇所は年増の怨念のように二十行以上も続いていた。
「先生」のユーザーページに戻ると新着メッセージがまた入っている。コトブキは思いついたことがあって試しにページを更新してみた。九件あった新着が十一件に増えた。過去にやったことのある言語交換SNSよりレスポンスがよかった。月額三万円の元を取りたい女の気持を考慮しても尚コトブキは素直に喜べなかった。その反面、偶然知ったこの秘密クラブを捨てきれない気持があった。自分を納得させてくれる後一押しが欲しかった。
 手当たり次第にサイト内を閲覧した。その間にも新着は次々に入った。メッセージの内容は童貞をくださいということだったり、痴漢してくださいということだったり、死にたい気持をあたしにぶつけてくださいということだったり、「先生」は変態として見込みがあります、といったコトブキをドキッとさせる指摘があった。年齢層のせいなのか、基本的に皆丁寧な言葉遣いだし絵文字や顔文字もたくさん使ってくるので全員が業者に思えたしプロフィール写真は全員素人に見えた。
 受け取ったメッセージの中から気になった女だけを見てみることにした。

ばか女 三十二歳 既婚 ファイナンシャルプランナー(FP)
本文:
〉女子高のとき生徒会長をしていました。い
〉までも周りから真面目だと思われています
〉。本当のあたしになれる場所はここだけな
〉んです。痴漢してください。乳首つねって
〉ください。勢いあまって取れてしまっても
〉構いません。もし不機嫌な顔したらぶって
〉てもらって結構です。

橋本佐和子 三十七歳 未婚 社会保険労務士
本文:
〉昔匂いフェチの彼氏と付き合ってました。
〉おまえの屁で深呼吸したいと言われて死ぬ
〉ほどキモいと思ったのですが、いまになっ
〉てそのときのことを思い出して自慰をして
〉います。

紅一点の局 四十一歳 既婚 インテリアデザイナー
本文:
〉元々は美容師になりたくて田舎からでてき
〉ました。専門学生のとき街にでればナンパ
〉されたし合コンは毎日のようにやってまし
〉た。その日初めて出会った男の家に泊まる
〉ことにも抵抗がなくなっててその晩は気に
〉なってた男の他に専門学校の女友だち一人
〉と男の友だち四人がいました。男たちは関
〉西弁と東北訛りでした。自分でお酒が強い
〉って自信がありました。でもその晩は缶チ
〉ューハイ三本飲んだだけで視界がぐらつき
〉ました。グラスで飲んだのですが、何か薬
〉を盛られたのかもしれません。女友だちと
〉あたしは男たちに輪姦されました。あたし
〉は最後まで抵抗したのですが、友だちは、
〉男たちから期待してたんだろ、とかそんな
〉にいやがってねえのバレてるぞ、などと言
〉われてからだをのけ反らせて逝っていまし
〉た。あのとき、自分がレイプされているこ
〉とよりも、友だちが犯されている姿に興奮
〉をおぼえました。あたしにレイプ体験があ
〉ることを旦那は知りません。あのときの体
〉験が忘れられなくて登録しました。

黒薔薇 四十五歳 既婚 栄養士
本文:
〉結婚してから中だしじゃないとセックスし
〉た気にならないの。ピル飲むので中だしし
〉てくれる人希望。性病はありません。

イラマの細道 三十一歳 既婚 キャビンアテンダント
本文:
〉イラマチオで虐めてください(切実)頭が
〉真っ白になるあの感覚がたまらないんです
〉。壁に押しつけられたり、股の間に挟まれ
〉たり、無理やりされるのが好きです。人権
〉無視でお願いします。

小川範子 三十八歳 未婚 看護師
本文:
〉お給料も高くないしきついし、でも職場を
〉転々とする人は多いけど仕事自体を辞める
〉人って案外少ないんです。非日常的ってい
〉うか、とにかく人間のすべてが病院にある
〉んです。あたしのお願いを聞いても驚かな
〉いでください。あたしが死んだふりをして
〉いる間に死姦してください。あなたがした
〉いように欲望の限りを尽くしてくださって
〉結構です。結婚できなくて売れ残っちゃい
〉ました。自分でいうのもあれですけど十年
〉落ちのフェラーリみたいなものです(笑)

熟肉エプロンぽむさん 四十七歳 未婚 医療事務
本文:
〉誰も遊んでくれません。お尻を高く突きだ
〉すのでバックから思いっきり悪態をぶつけ
〉てください。お医者の高級ちんぽで中古も
〉いいところですが。顔を踏まれただけでお
〉しっこでちゃいます。脳逝きできるまでに
〉調教済(爆)

ユキ(#^.^#)三十二歳 既婚 保育士
本文:
〉弟の友だち七人と関係を持っていました。
〉当時あたしは大学一年で彼らは高一でした
〉。年下だったけどイケメンの弟の友だちだ
〉けあって学年ではモテグループだったらし
〉いです。でも一人以外はみんな童貞でした
〉。複数もしました。あ、そうだ。一人って
〉いうの誰だか気になりますよね(笑)。仲
〉良くなったら教えてあげてもいいよー

 ユキ(#^.^#)のプロフィールページにはスピーカーのアイコンがあった。タップするとシークバーが動きだして音声が再生された。くちゅくちゅくちゅ……そうアソコを弄る気配と一緒に湿っぽいあえぎ声をひきずった。タケルという名前を口にした。そのたった一人の男を呼び続けて、ユキ(#^.^#)は絶頂した。
「先生」のユーザーページにはまた新着が七件入っていた。嘘だろ、とコトブキは思ってページを更新してみる。新着は十件に増えた。結果的にコトブキは次のように思うことで納得をすることにした。このサイトは他のSNSと決定的に違うところがひとつだけあった。「いいね」のアイコンがなかったのだ。
 遠くの方で鴉の啼き声がした。カーテンの隙間に蒼白い光が洩れている。もうじき新聞配達のバイクがやって来る頃だ。コトブキは眠ることを諦めて新着のメッセージを開いた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み