第2話

文字数 757文字

家の外で、最近いつも一匹の、野良猫が鳴いている。

にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ。

寂しいよ、寒いよ、餌くれよ、腹減ったよー。

切なくなるような声で鳴く。

たまりかねて、春先までには一回捕獲して去勢してもらう、と決めて、餌をやり始めた。

もう2週間くらい餌付けしているのだけど、警戒心が強いのか、今だに距離を置かれている。

それでも、『ニャン太』と勝手に名付けて呼んだ時にはにゃああああ、と嬉しそうな声で鳴き返して来た。

ニャン太は強い猫だ。生きようとする力が、猫並み外れて強い気がする。最近は、そんなニャン太に護られてもいるような気がする、ボクである。

温泉は人を癒やす。

その、温泉が人を癒やす力と、野良猫に餌をあげたくなる衝動とは、同じ方向を向いていると想う。慈悲の力だ。

若い時、コリン・ウィルソンにハマっていたときは、心の力を、創造力、前進駆動力だと定義していた。

前に、前に。そんな力だ。

けれども今は、ただ生きてくれさえしたならば、という思いがある。

ニャン太にとって前って何なのだろうか?

一日一日を精一杯生き延びる、その努力に少しだけ手を差し伸べたくなるだけの話だ。

前なんて関係ない。創造でなくたっていい。ただがんばって、この冬の寒さと飢えと人の情けの冷たさとに負けないで生き延びて欲しいと願うボクがいる。

餌をあげるのと同じくらい、ニャン太に話しかける事もボクにとっては重要なことなのだ。ニャン太よ、生きろ。そう思っている奴が一人でも周りのにんげんの中にいると、示し続ける事、それが何よりも大事な力になるのだ。

生き物の、いきのびんとするちからは、偉大な力ではあるが、その力は切り離されて存在するわけではない。

生き物と生き物との、出会いと絶えざる交流の中から生まれてくるのだと知るべきであろう、誰あろう、このあほのボク自身が。
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