第41話  白竹魔優視点 魔優と美優 1

エピソード文字数 4,303文字

 

 白竹魔優 視点です。


 ※





 ※


 午前六時。家の屋上で身体を動かすのは私の日課です。


 身体が鈍っちゃうのは嫌ですし、万が一に備えてのトレーニングは欠かせません。

前の体力テストは不本意。

私と互角に走れる人が、あんなにもいたなんて。

 最初は余裕を持って走ってたのに……

 黒澤や染谷。あと大きい人に追いつかれたのは、かなりショックでしたから。

 お母さんに教えられた護身術は空手と合気道。


 もし何かがあっても対応できるよう、昔からずっとやってきた。

 

 己の保身は勿論、大事な姉である美優を守る為に、私は常に強くなければいけない。 

 

 もう六時半……

 そろそろ切り上げて、シャワーして、ニコラの相手をしないと。


 あ、ニコラというのは……

 言うのも恥ずかしいのですが、乙女ゲーというジャンルのキャラですね。


 少年のようなあどけない笑顔を振りまくニコラ。私の想い人です。



 トレーニングを終わり、タオルで身体を拭きながらスマホをタップし、乙女ゲーの画面開きます。

 そこには私の大好きなニコラが笑顔を見せてくれます。

待っててね。シャワー浴びてくるね。

 ささっとシャワーを浴びて、湯船にも浸かります。

 朝のお風呂は私にとって至福の時。



 自分の部屋に戻ると、入れ替わりを促す頭痛を感じる。




 昨日の夕方から魔優になり、バイトをして、十一時半には就寝。

 起きてから約一時間ほどでリミットが来るのは私の計算どうりです。


 その時。私の部屋のドアが開く音がする。

 入って来たのはパジャマ姿の美優ですね。

まゆう~~あれ? 起きてる?
どうしたの? まだ七時前じゃない

あ、あのあの……魔優。ごめん……


昨日。結構夜更かししちゃって、もしかしたら昼前にリミットが来ちゃうかも。なのです。

ええっ? 何でそんな事してるのよっ!

もうっ……それならそれで、美樹で限界いっぱいまで起きてればそんな事にならないはずよ。


喫茶店が終わってからすぐ美優に入れ替わるからでしょ?

ず~み~まぜぬ。ごめんなさい……


美優のがね。よく電気ピピっと来てスラスラ書けちゃうのが……昨日止まらなくて。

気がつけば四時過ぎまで……

 四時過ぎ?

 じゃあザックリ計算すると……


 どうせ喫茶店が終わってからすぐに美優に入れ替わったとすると、五時間くらいは経過してる計算ね。

 つまりここから美優は……約五時間後にリミットが来る。


 今が七時前だから。昼過ぎには一回目のリミットが来て……放課後まで絶対持たない。

 

分かったわよ。じゃあ昼休憩で入れ替わりましょう。


だけど美優。いくら女の子の時間が長いと言っても……ちゃんと計画しないとダメよ。


ご、ごめんなさひ。昨日はその……

ぶしゃーの描写が上手くいって、私って天才かと思ったり……

もういいから。分かったから……学校の準備しよっ

 謝り倒す美優をよしよしすると、早く学校の準備を急かします。




 美優が自分の部屋に戻った後、ニコラに話しかけて、ゲーム内のポイントを全部彼に注ぎます。


 今はランキングイベントなので、ニコラの為に頑張らないと。

 

 私は彼一筋。他のキャラなんかに浮気しません。


 

 スマホを見ながらキッチンへ向かうと、じいじが食パンを焼いてました。 

おはよ。魔優。美優は起きたかの?

うん。さっき私の部屋に来たし大丈夫。


お母さんは?

今日も帰って来んのお。どうせ昼前になったら戻ってくるじゃろ。

ったく。どこをほっつき歩いてるんだか。


いただきます~~!

 私が食パンを食べていると……背中から「おはようでし」と聞こえてきます。


 横の椅子に座った美優は、私のスマホを覗き込みます。

わぁお。107位になってる。


ニコラ愛すごすぎでし。

だけどこの辺から全然順位上がらないし。ちょっとサボったら下がっちゃう。


今回は絶対に100位まで入りたいのよ。

ニコラのチビキャラは絶対欲しいもん

ええ~? そうなのですか?


100位以内限定の、ショートストーリー目当てじゃないの?

十八禁のお話が欲しいのでわ?

ち、ちがうわよっ! 私はそんなのに興味がないのっ!


それにニコラはそんな事する子じゃないもんっ!

だけどニコラだって。男の子なのでしゅ。

モノはしっかりと持ってますので、ナニもしてあげないと……


しんぼうたまらん! って思ってるかもしれませんよ

もうっ! すぐそんな事言う~~!


美優のイジワル。

げ、ゲームだからニコラにそんな能力はないのっ!

あはっ!

何だか。ニコラの話になると魔優は活き活きしてるのです。

しょうがないわよ。私にはこの位しか……ゲームくらいしか楽しみがないし。

入れ替わる人間にとっては、安全に遊べる方法だから。


 普通の人間みたいに過ごせない私達。

 それなら姿形が分からないゲームの世界に没頭するのも仕方がないと思ってる。


 ユーチューブの「歌ってみた」も声しか出していないし、正体が絶対バレないからね。




 ニコラに恋心を抱くのだって、所詮はゲームだと分かりきっていても……

 実際その時は楽しいし、キュンってするし、それでいいと思う。



まぁまぁ、そんな風に言わんでもいいじゃろ?


その能力はの。本当に素晴らしい力なのじゃぞ

 じいじもお母さんも口を揃えて。こう言う。



 だけど。私達にはこの能力があって良かったと。そう思えた事よりも……


 普通の人間のほうが良かったと思った方が何倍も多い。

私には……そう思えないよ。


苦労ばっかりなのでし。

美優。しょうがないよ。


どれだけ不満があっても、私達はこの身体でずっと生き続けなきゃならない

 私は目を閉じると、魔優から魔樹に入れ替わります。


 学校へ行くギリギリまで魔優でいないと……魔樹でいられる時間は短いから。

 

不満を言ったところで、何も変わらない。


それならこの身体と上手く付き合えるように、考えないとね。

うむ。魔樹の言う通りじゃな。


麻莉奈も幼い頃はずっと荒れておったからの。


だが……その内分かるわい。

その入れ替わり体質という能力は……他の人間には無い万能な能力なのだと。

じいじはいつも、そーいうのです。


私達にとっては悪い事ばっかりなのです!

ふぉっふぉっふぉ。


その能力は素晴らしいもの。それが分かる日も……もうすぐじゃよ。



 そうだといいんだけどね。


 全く信じていない美優は少しむくれながらパンを食べ始めると、私は席を立ち、男子用の制服に袖を通すのでした。



 ※


 今日の入れ替わり計画としては……

 美優のサイクルが狂っちゃいそうなので、これを直さないといけない。

 

 1 恐らく美優は昼前までなら大丈夫だから、ここで私達が同時に入れ替わる。

 2 美樹。魔優で昼の授業を受けて帰宅。

 3 四時間制限があるので、四時以降に同時に入れ替わり、魔優。美樹で喫茶店のバイトをする。

 4 もう一度入れ替わる。四時間制限があるので、わりと遅くまで起きておく必要がある。

 5 四時間制限が解除されてから就寝。これでサイクルは元通り。


 美優とここまでソックリな双子じゃなかったら出来ない入れ替わり方法。

 この点だけは、この身体で良かったかなって思う。


 一人のサイクルが狂いそうになっても、もう一人がカバーできる。


 

頭ピリピリしたら連絡しまする。
うん。万が一だけど、昼休憩まで持たないようなら連絡して

行ってくるね。


黒澤く~~ん。染谷く~~ん。おはようございますっ!

 学校の廊下で丁度見かけた黒澤くんと染谷くんに小走りで近寄る美優。


 その様子を見ながら、私は自分の教室に入ろうとすると、

お~~い! 魔樹。 おはよっ!

 そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ。

 しかもこっちに走ってくるし。来なくていいって。

おはよっ! 
おはよっ……別に走って来なくていいのに。
まぁいいじゃん。やっぱ知り合い同士。挨拶はちゃんとしとかねーと

 それはそうだけど……


 黒澤。悪いんだけど、私は誰とも友達にならなくてもいい。


 特に男とは、仲良くなるつもりは無いのよ。

そだね。じゃあ僕。こっちなんで
 愛想よく振舞うなんて……無意味。

 こんな身体を理解してくれる人なんていない。

 

 それなら。他の人間とも仲良くしようと努力すること自体。私達には無意味なこと。

ま~き~


もうちょっと、ちゃんとご挨拶を……

いいんです、いいんです。


ちゃんと言ってくれましたから。


 黒澤。あなたが悪い人じゃないのは分かってる。


 その証拠に美神さんや染谷くんとも仲良くやってるし、私にも気を使ってくれている。



 

 だけど……


 私はこれ以上、あなたに近寄るつもりは無い。

 

 どれだけ仲良くなっても、どれだけ大切な仲間になったとしても……

 

 結局は徒労に終わってしまう。それが分かっているから。


 

 ※


 私は自分の教室へ入ると、誰とも挨拶を交わさず席へと座ります。

 入学式当初はクラスの皆に話しかけられたけど、今じゃもう誰も来なくなりました。


 でも私はそれで良かった。むしろその方が気楽でやりやすい。


勉強にも集中できるし、休み時間は廊下に出てニコラの相手も出来るし。


だけどやってる画面は見られちゃダメだけど。

 一人でいい。


 そう思っててもたま~に喋りかけられるのが困るのね。

ねぇ白竹くん。実は君と、ちょちょっとお話したいって女子がいるんだけど。
 後ろの席に座る糟谷(かすたに)くんの声に振り返る。


 私はジトっとした目を見せつけると、用件も何も聞かずに前を向いた。 

 後ろから男子生徒数人がコソコソと喋ってる。


 私のことなんだろうけど。どうでも良かったし、何を思われても構わない。

だから僕じゃダメだって。

 悪いんだけど。大体予想はついてる。

 

 女子っていう点で、私と喋りたい。そんな女の子がいるんだろうって。

私も……心の中は女の子だと思っている。


だからその気持ちに……答えられない

 魔樹は男の子でも女の子でも……誰にも心を開かない。


 もし仲良くなっても……


 もしその人が、私の中で大事になればなるほど……


 私はきっと、この入れ替わり体質という身体を恨む事になるだろうから。



 だから私は……最初から家族以外に気を許すつもりは無いの。


ちっ……無視かよ。
ちょっと女子からモテるからって……

いくらでも言えばいい。


影でコソコソ言われても、罵倒されても、文句を言われても……


仲良くやるよりもきっと……正しい選択。

 あなた達に構っている暇は無い。


 私が魔樹としてこの世に出てきた理由は……


 すべて。美優の為なのだから。


 だから私は、この程度で何も動じない。動じてはならないし。怖くもない。


 今の私は……世間から美優を守る弟。それ以外に目的はない。

とにかく。今日は美優のサイクルを治さないと……
 午後からは「美優」として。向こうのクラスで勉強する事になる。
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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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