第16話 思いがけない人物
文字数 2,057文字
名取 愛花と名乗った女性は、ネットで見た名取の面影を残しつつ、
より綺麗でより聡明な女性へと変貌していた。
ルキアが気を利かせてくれたのか、
どこまでも晴れやかな「ブルースカイ」も視えている。
でも、なぜその人が俺のうちにいるのだろう。
家に着いたら、名取の連絡先を調べるつもりだったのだが。
弓月を横目でちらっと見ると、弓月も予想外だったようで、
目を点にしたまま固まっていた。
あまりにも予想外な言葉だったため、完全に頭の中が混乱していた。
黙って座っていた黒ずくめの男性が立ち上がり、口を開く。
皇社長が鍵を……まあ管理人さんと社長は知り合いみたいなので、分からなくもないか。
鳳グループ。
社長が言ってた俺が知らずに買っている商品と言うのは、鳳出版から出ている
『月刊鳳凰』の事だったのか。
確かに皇電気店は、まるで趣味のように扱っていたので、おかしいとは思っていたが……。
名取はにこやかな笑顔を浮かべて、歩き出したかと思うと、弓月を優しく抱き締めた。
弓月は顔を真っ赤にしながら、ワタワタと慌てふためいている。
そう言って弓月は名取に抱きしめられたまま、首を横に振る。
弓月は真剣な顔つきで一生懸命思い出そうとするが、思い出せないようだ。
二人は今この瞬間、6年前に戻ったかのようにお互いを呼び合い、
しばらくの間深く抱き締めあった。
名取の横にいた弓月が、真剣な顔つきでこちらに歩いてくる。
弓月の満面な笑顔が眩しくて、この笑顔を失わなくて本当に良かったと心から思った。
成瀬さんがすっと手を差し伸べて、名取を玄関に誘導する。
お嬢様らしく深深と頭を下げると、軽快な足取りで部屋を後にして行った。