(4)初めての約束
文字数 1,666文字
隣でバカップルがイチャついてるのがウザくて教室から逃げ出した。十月になったから中庭に行くのは肌寒いし、だけどあったかい飲み物買うのもいいなあと考える。
なんでお熱いバカップルのために俺が寒い思いしなきゃなんねえの。稲葉ちゃんとミノリンのためなら、まあいっかって譲れるけどさ。あの二人は特別だからな。いや、別格だな。高村たちなんか足元にも及ばないね。
心の中で愚痴りながら廊下をぼんやり歩いていると、向かいから塩沢が歩いてきた。
「よお、塩沢」
「よお、ぼっち」
「それやめろって。てか聞いてよ、高村と竹邉ちゃんがうざったい」
「今に始まったことじゃないでしょ」
「ひっでえ言い草」
「私も被害者なんだよ」
聞けば塩沢は、あのグループメールでイチャイチャを見せつけられているらしい。確かにそっちもそっちで地獄だ。
「竹邉ちゃんに釘刺しといてくんない? 高村には俺の方から言っとくから」
「なんて?」
「せめてTPOは考えようねーって」
「無理無理、咲記も高村もヌカじゃん」
そうなんだよなあ、あの二人見せつけてる自覚がないんだよな。だからこそタチが悪いの。ナチュラルボーンバカップルが一番ウゼエわけよ。
「じゃあせめて竹邉ちゃんに、誕生日に高村と出かけた話はもう満足だって言っといて」
「私もそれ聞き飽きてる。耳タコ耳タコ」
でも馬鹿は飽きないんだよねえ、と塩沢は呆れたように呟く。本当勘弁してほしいよ。高村が真っ赤な顔してプレゼント渡した話とか誰が興味あんだよ。
ふと、俺の頭にひとつ、知りたいことが浮かんだ。
「塩沢って誕生日いつ?」
「四月六日」
塩沢はいつものように平然と言ってのけた。嘘だろ、めちゃめちゃに過ぎてんじゃん。
「なんで言わなかったんだよ」
「なんでって、別に仲よくもなかったから?」
確かにそうかもしれないけど。
「いくらでも言う機会あっただろ」
「話の脈絡もないのに誕生日教えてくるやつにろくなやついないって」
「んなことねえって」
「んなことねえことねえ」
そもそも聞かれなかったし、と塩沢は最もなことを返してくる。息が喉に詰まる。しょうがねえじゃん。塩沢のこと知りたくなったの、つい最近なんだから。
「あんた、そんなに人の誕生日祝いたいの? パーティー好きな人種だったんだ」
不機嫌そうにしていたのだろうか、俺の顔をじっと見ながら塩沢は聞いてくる。なんで意味が真っすぐ伝わらないかなあ。べっつにー、と大人気なく返すと、塩沢はおもちゃを見つけた子どものようにニヤリと口角を上げた。
どういう趣味だよ。まずは友達祝ってやれ。あ、そういやあんた友達いなかったね、ぼっちだったわ。
なんて、すました顔で塩沢は煽ってくる。俺の気も知らねえで楽しそうに笑う。ああ、ムカつくけどやっぱ可愛いなちくしょう。
「祝いたかったよ、悪ぃかよ」
「はは、拗ねてる。ごめんって」
自販機でジュース買ってやろうか、なんておちょくられる。子どもじゃねえっつうの。ジュースで喜ぶとか、竹邉ちゃんとか高村じゃないんだから。
ていうか、塩沢にとって俺はジュース一本で機嫌とれる安い男なのかよ。そんなん嫌だわ。竹邉ちゃんの絆創膏くらいか、それ以下の安さじゃん。別に高いものを望んでるわけじゃねえけどさ。
俺は思わず唇を噛む。
「なら来年の私の誕生日祝っていいよ。そんなに他人の誕生日に執着するなんて、どうやってお祝いするのか興味湧いてきた」
別に誕生日なら誰のでも執着するわけじゃあねえけど。
「でも四月六日って新学期始まってるか微妙な日付なんだよなあ。覚えてたらでいいや」
竹邉ちゃんが言ってたけど、塩沢って本当にイベントごとに興味ないのな。自分の誕生日なのに他人事な顔して言いやがる。誕生日を祝っていいとか、これ相手が高村だったら盛大に勘違いするぞ。俺でよかったね。
「四月六日な。絶対忘れねえ。盛大に祝ってやるから、塩沢こそ覚えとけよ」
覚えてたらでいいとか、いくら本人が適当に扱おうと、俺にとっては大事な日だ。
「じゃあ楽しみに待ってる」
誕生日も悪くない、って思わせてやる。
なんでお熱いバカップルのために俺が寒い思いしなきゃなんねえの。稲葉ちゃんとミノリンのためなら、まあいっかって譲れるけどさ。あの二人は特別だからな。いや、別格だな。高村たちなんか足元にも及ばないね。
心の中で愚痴りながら廊下をぼんやり歩いていると、向かいから塩沢が歩いてきた。
「よお、塩沢」
「よお、ぼっち」
「それやめろって。てか聞いてよ、高村と竹邉ちゃんがうざったい」
「今に始まったことじゃないでしょ」
「ひっでえ言い草」
「私も被害者なんだよ」
聞けば塩沢は、あのグループメールでイチャイチャを見せつけられているらしい。確かにそっちもそっちで地獄だ。
「竹邉ちゃんに釘刺しといてくんない? 高村には俺の方から言っとくから」
「なんて?」
「せめてTPOは考えようねーって」
「無理無理、咲記も高村もヌカじゃん」
そうなんだよなあ、あの二人見せつけてる自覚がないんだよな。だからこそタチが悪いの。ナチュラルボーンバカップルが一番ウゼエわけよ。
「じゃあせめて竹邉ちゃんに、誕生日に高村と出かけた話はもう満足だって言っといて」
「私もそれ聞き飽きてる。耳タコ耳タコ」
でも馬鹿は飽きないんだよねえ、と塩沢は呆れたように呟く。本当勘弁してほしいよ。高村が真っ赤な顔してプレゼント渡した話とか誰が興味あんだよ。
ふと、俺の頭にひとつ、知りたいことが浮かんだ。
「塩沢って誕生日いつ?」
「四月六日」
塩沢はいつものように平然と言ってのけた。嘘だろ、めちゃめちゃに過ぎてんじゃん。
「なんで言わなかったんだよ」
「なんでって、別に仲よくもなかったから?」
確かにそうかもしれないけど。
「いくらでも言う機会あっただろ」
「話の脈絡もないのに誕生日教えてくるやつにろくなやついないって」
「んなことねえって」
「んなことねえことねえ」
そもそも聞かれなかったし、と塩沢は最もなことを返してくる。息が喉に詰まる。しょうがねえじゃん。塩沢のこと知りたくなったの、つい最近なんだから。
「あんた、そんなに人の誕生日祝いたいの? パーティー好きな人種だったんだ」
不機嫌そうにしていたのだろうか、俺の顔をじっと見ながら塩沢は聞いてくる。なんで意味が真っすぐ伝わらないかなあ。べっつにー、と大人気なく返すと、塩沢はおもちゃを見つけた子どものようにニヤリと口角を上げた。
どういう趣味だよ。まずは友達祝ってやれ。あ、そういやあんた友達いなかったね、ぼっちだったわ。
なんて、すました顔で塩沢は煽ってくる。俺の気も知らねえで楽しそうに笑う。ああ、ムカつくけどやっぱ可愛いなちくしょう。
「祝いたかったよ、悪ぃかよ」
「はは、拗ねてる。ごめんって」
自販機でジュース買ってやろうか、なんておちょくられる。子どもじゃねえっつうの。ジュースで喜ぶとか、竹邉ちゃんとか高村じゃないんだから。
ていうか、塩沢にとって俺はジュース一本で機嫌とれる安い男なのかよ。そんなん嫌だわ。竹邉ちゃんの絆創膏くらいか、それ以下の安さじゃん。別に高いものを望んでるわけじゃねえけどさ。
俺は思わず唇を噛む。
「なら来年の私の誕生日祝っていいよ。そんなに他人の誕生日に執着するなんて、どうやってお祝いするのか興味湧いてきた」
別に誕生日なら誰のでも執着するわけじゃあねえけど。
「でも四月六日って新学期始まってるか微妙な日付なんだよなあ。覚えてたらでいいや」
竹邉ちゃんが言ってたけど、塩沢って本当にイベントごとに興味ないのな。自分の誕生日なのに他人事な顔して言いやがる。誕生日を祝っていいとか、これ相手が高村だったら盛大に勘違いするぞ。俺でよかったね。
「四月六日な。絶対忘れねえ。盛大に祝ってやるから、塩沢こそ覚えとけよ」
覚えてたらでいいとか、いくら本人が適当に扱おうと、俺にとっては大事な日だ。
「じゃあ楽しみに待ってる」
誕生日も悪くない、って思わせてやる。