第6話 こんなに頑張ってるのに、どうして

文字数 1,142文字

結婚は互いの気持ちだけではだめだ。
でもそれ以外、何が大事だというのだろうか。
優和の場合は自分の子どもだった。
そしてそれは血のつながりを大事にしたという意味では正人も同じだった。
優和はもう気持ちを割り切っていた。
しょうがない。
それよりも今は子どもの幸せが一番だ。
それなのに。



優和はスマホのアラームを止めた。
午前5時48分。
アラームは6時に設定してある。
そのアラームよりも早く起きてアラームが鳴る前に止めるのが優和の日課だった。
少しでも多く寝かせてあげたい。
アラームで子どもが起きてしまわないようするための優和なりの配慮だった。
枕元で、司法書士の参考書を広げる。
日当たりが悪い部屋は日が昇っても日が入らず暗いままだ。
スマホのライトを参考書にだけ当たるようにして照らす。
お金はこれからもっと必要になる。
それまでに試験に合格して、今よりももっとお金が稼げるようにならないと。
優和は眠たい目を擦りながら、参考書をめくった。



優和は幸せだと強く思い込んだ。
隣にいる子どもの寝顔を見た。
これ以上に何を望むというのだ。
こんなに幸せなのに、いったいどうしたというのだ。



優和は正人が結婚したというのを知ってからおかしかった。
というより、その相手が、明美だったからかもしれない。
それだけは嫌だった。
優和は幸せだった。
いや、今も十分幸せだ。



優和は参考書を閉じた。
隣の子どもを起こさないように、そっと布団から出た。
洗面所に行き、冷たい水で顔を洗った。
大丈夫。
優和は自分を落ち着かせるために唱えるようにして言った。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
優和は顔を上げ、洗面台の鏡に映る自分を見た。
まだ31なのに、白髪が目立つ。
肌には張りがなく、手入れが行き届かない肌は顎周りが乾燥していた。
鼻の下にはニキビができていた。
眼の下にはくっきりクマがある。
明らかに30代には見えない。
強いて言うならば40代、人によっては50代だと思う人もいるかもしれない。
疲れ果て、苦労をしている顔だった。



もう嫌だ。
こんなに頑張ってるのに、どうして。
誰か助けて。
優和は急いで、顔を伏せた。
心臓がバクバクいっている。
そうだ、コーヒーを飲もう。
優和はお湯を沸騰させようと、水道水を鍋に入れた。



お湯を沸かしている間に、スマホ開け、ラインを見る。
正人からメッセージが来ていた。
「大丈夫?」



明美がいけないんだ。
あの時もそうだ。
明美と出会う前まで私は幸せだった。
明美さえいなければ。



「会いたい」



なんて惨めなんだろう。
私の人生は前に進んでいない。
優和が送ったメッセージはすぐに既読になった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み